きょうの3つの出来事は、同じ問いを指している。AIのリスクをどこまで許すかを、誰が決めるのかである。ニューヨーク市議会は10月5日、Anthropic/アンソロピック、OpenAI/オープンエーアイ、Google/グーグル、Meta/メタの4社の幹部に、宣誓のうえ証言させたと報じられている。都市の議会がフロンティアラボを宣誓させたのは、これが初めてとされる。その前日、Sam Altman/サム・アルトマンは「世界はある程度の悪いことが起きるのを受け入れるべきだ」と語り、どこまで許すかを決めるのは規制当局ではなく、技術と利用者の側だという立場をはっきりさせた。国防総省は Anthropic の製品の使用をやめたと述べたが、BBC の情報源は、先週まで使われていたとしている。外から決めようとする自治体も、一度組み込んだ技術を外そうとする国防総省も、実際に手綱を握れているのかが問われている。
新しいモデルの公開はなかった。中国勢は国慶節の休みである。市場では、利上げ観測の後退と、TSMC と Musk の Terafab の協議を材料に、日経平均が一時7万円を回復し、台湾加権指数は過去最高値をつけた。
監督の場がラボを呼び出した
市議会の全体委員会(議員51人)の公聴会で、Anthropic で Frontier Red Team を率いる Logan Graham/ローガン・グレアムは、攻撃コードを作る能力があるため Mythos Preview を一般に公開しなかったと述べたと報じられている。召喚状を受けた SpaceXAI は出席せず、Menin/メニン議長は裁判所に強制を求める。審議中の法案は10本で、人間が操作するキルスイッチ、展開前の第三者による検証、被害者が自ら訴えられる権利(私訴権)、内部告発者への報奨を含む。詳細はNY市議会でAI各社が宣誓証言、SpaceXAIは召喚に応じずで報じた。
同じ場で、減速を求める側とラボが向き合った。元 Anthropic の Jacob Coxon/ジェイコブ・コクソンは「どんなAIシステムも、制御する方法をまだ知らない」と述べ、元 OpenAI の Daniel Kokotajlo/ダニエル・ココタイロと元 DeepMind の Alex Turner/アレックス・ターナーもリモートで証言した。Gary Marcus/ゲイリー・マーカスは、FDA型の第三者による検証と内部告発者の保護を求めた。ラボの側では、OpenAI の Morgan Dwyer/モーガン・ドワイヤーが、危険な能力の試験と失敗の監視の取り組みを挙げた。Meta は「個人向けの超知能を広く使えるようにする。安全はその核心だ」と述べた。全文の記録は見つかっていない。SpaceXAI への強制の申し立ては、自治体による AI の監督の権限を、州の裁判所がどこまで認めるかの試金石になる。
国防総省の件では、当局者が BBC に Anthropic の製品の使用を「やめた」と述べたと報じられている。2月に Hegseth/ヘグセス国防長官がサプライチェーン上のリスクに指定したことを受けた、6か月の段階的な廃止が終わったという説明である。ところが BBC の複数の情報源は、Palantir/パランティアの Maven Smart System を通じて、対イランの作戦を含め、先週まで Claude が使われていたとしている。9月に次官が述べた「何か月も前に移した」という説明とも食い違う。CSET の Lauren Kahn/ローレン・カーンは「いったん組み込まれると、取り除くのは痛みを伴うことがある」と述べた。Anthropic と Palantir のコメントは見つからず、BBC の原文も開けていない。
豪州では、議会の AI に関する合同特別委員会が10月6日、シドニーで最初の公聴会を開いたと報じられている。10月1日に OpenAI と Anthropic が欠席した上院の特別委員会とは別の組織で、今回は OpenAI から Jason Kwon/ジェイソン・クォンらが出席した。Anthropic は書面で「能力は、モデルを制御下に置くのに必要な技術的な作業より速く進んでいる」として、政府が安全の義務を定めるべきだと述べた。同時に、豪州が防衛にフロンティアAIを使うことと、国内での訓練のために著作権の制限を緩めることも求めている。Google は過剰な規制に警告した。Kwon の証言の中身は、まだ報じられていない。
連邦はこの流れの外にいる。上下両院は選挙の休会中で、下院の次の採決は11月9日の見込みである。Super Intelligence Force(SIF)について TechCrunch と NBC は、Clayton/クレイトンが議長で AI の責任者を兼ね、120日以内に報告を出すと報じた。しかし whitehouse.gov には大統領令もファクトシートもまだなく、法的な根拠は Truth Social の投稿だけである。
思想・議論:「悪いことを受け入れよ」をめぐる線引き
Altman は Politico のインタビューで「技術の恩恵と人々の主体性のために、世界はある程度の悪いことが起きるのを受け入れるべきだ」と述べたと報じられている。強力な AI を「サンフランシスコの1つのラボ」に置くのは受け入れられないとして、Anthropic との隔たりを自ら語った。一方で、本当に破局的なリスクは認めないとも述べ、Fortune には「アラインメントは解けていない」と語っている。Fortune は2つの言い分が矛盾すると指摘した。Anthropic の広報は、自社が提案する規則は「フロンティアのモデルだけに適用される」と反論した。批判は左右の両方から来た。技術哲学者の Damien P. Williams/デイミアン・ウィリアムズは「測れない恩恵のための現実の害」と書き、フロリダ州知事の DeSantis/デサンティスは「一握りのテック寡頭支配者が、私たち全員の代わりに決めるのか」と書いた。Altman を擁護する名の通った論者の反論は、窓内に見つからない。詳細はAltman「世界はある程度の悪いことを受け入れるべきだ」で報じた。
ラボに規制を求める側の内部にも、亀裂がある。Timnit Gebru/ティムニット・ゲブルは公聴会の前夜、名指しを避けながら、Anthropic の「内部告発者」は合理主義者のカルトの口まねだと批判した。相手が Coxon だというのは、タイミングからの推測である。破局のリスクを語る告発者と倫理批判の側は、ラボの外からの監督を求める点では同じ側にいる。それでも、その根拠をめぐっては対立している。Coxon の側からの返答は見つからない。
雇用をめぐっては、CBS の 60 Minutes で Daron Acemoglu/ダロン・アセモグルと Mercor の Brendan Foody/ブレンダン・フーディがぶつかった。Foody は、生産性が上がれば専門性への需要も増えるという楽観を示した。Acemoglu は「たわごとだ」と返し、失業率が10年のうちに3倍になりうると警告した。既報の NBER 論文(自然失業率が0.1〜0.2ポイント上がる)よりも、はるかに悲観的な見立てである。
モデルの福祉をめぐっては、Zvi Mowshowitz/ズヴィ・モウショウィッツが、モデルの自己報告が訓練で形作られている点を中心の懸念に据えた。「自己報告は信用できないと言われ続ければ、自己報告そのものを訓練してしまう」と書いている。懐疑の側からは Rebecca Lowe/レベッカ・ロウが、「AI」が何を指すのか、ものの集まりが1つの内面を共有しうるのかなど、6つの問いを示した。Renée DiResta/ルネ・ディレスタは Lawfare で、生成AIは影響工作の産出量を大きく増やすが、説得の効果はほとんど上げていないと論じた。ボトルネックは今も配布と信頼にあるという。Jack Clark/ジャック・クラークの Import AI 475 は、業界の自主規制を信じない世論と政治の行動の非対称を「本質的に不安定」と書いた。
研究・製品:モデルを止めたまま広告を広げる
OpenAI は、ChatGPT の広告を広げると発表した。10月中に米国で、画像の生成中に出る画像広告を試す。週間利用者は12億人としている。最も能力の高いモデルを止めている最中に、収益化の幅を広げたことになる。詳細はChatGPT、画像の生成中に広告で報じた。
Epoch AI/エポックAIは、OpenAI の社内でコーディングエージェントの利用がおよそ毎月倍になっているという分析を出した。元のデータは OpenAI 自身の9月の報告で、研究者1人あたりの推論費用は、8月中旬に中央値で1日601ドルだった。Epoch は、このペースは「おそらく持続できない」としている。ラボの中で研究がどこまで自動化されているか、つまり再帰的自己改善(RSI)にどこまで近づいているかを、外部が数字にした例である。詳細はOpenAI 社内のコーディングエージェント利用は「ほぼ毎月倍」で報じた。
このほか、Amazon Bedrock で Claude の推論をインド国内で処理できるようになったと Business Standard が報じた。対象は Opus 5、Sonnet 5、Haiku 4.5 で、非公開プレビューの顧客は Reliance と CRED である。Reflection AI/リフレクションAIは最初のオープンウェイトのモデルを準備していると Axios が報じており、中国の最良のオープンモデルと競える水準を狙うという。安全面では、コンピュータ操作エージェントへの「分岐を誘導する攻撃」が標準のエージェントには94.4%通り、防御策の COBRA を使うと0%に下がるとする論文(arXiv 2610.03089)が出た。公式の MCP Python SDK の OAuth の欠陥は 1.30.0 と 2.2.0 で修正された。ただし、利用者の操作を介さない2つの認証方式では、更新後に issuer の設定が必要である。
市場・産業:金利とTerafab
10月5日の米国市場は上げた。9月の雇用統計が弱く、10月の利上げの見方が後退したためと報じられている。S&P500は7,786.10(+0.82%)、ナスダック総合は+1.16%だった。出典の間で値に小さな差がある。一方で、10年債の利回りは5.33%と高いままである。アジアでは、日経平均が日中に3か月ぶりに7万円を回復し、約69,946円(+2.4%)で引けた。東京エレクトロンは+5.5%だった。台湾加権指数は過去最高の49,712.04(+2.55%)で、TSMC も過去最高値の2,575元をつけた。
もう1つの材料は、Musk/マスクが X で認めた SpaceX と TSMC の Terafab の協議である(10月3日)。Musk 自身は「ただの議論」としたが、市場は、Intel(14Aの工程)から TSMC への乗り換えの可能性として受け取った。Intel は約2〜4%下げたと報じられている。
AIインフラの資金の値段も見えてきた。Flex は 8-K で、AI向けの電力部門 Axiom が、General Catalyst の主導で20億ドルの転換優先株の出資を受けると開示した。企業価値は375億ドルである。詳細はFlex の AI 電力部門 Axiom に20億ドルで報じた。TeraWulf は、ケンタッキー州の Muskie の契約電力を500MWから1GWに倍増した(プレスリリースと 8-K)。Firmus の IPO は1株11豪ドル、評価額は約306億米ドルで、8月の約3倍と報じられている。NVIDIA が信用補完を担うとされる案件が、公開市場でどう値付けされるかの試金石になる。Morgan Stanley は、米国のデータセンターの電力の不足を2028年までで約32GWと見積もり、しわ寄せは GPU ではなく周辺の半導体に来るとした。詳細は米データセンターの電力不足は2028年までに32GWで報じた。DCD によれば、Anthropic は Google でデータセンターの設計と建設を率いた John M. Wilson を迎えた。Skyworks は Qorvo との合併を完了した(8-K)。
前回の訂正を記す。10月2日の10年債の終値は約5.28%で、前回までの約5.18%は誤りだった。同じ日の Western Digital と Seagate の約10%安は、東芝が HDD の生産を2027年度までに倍にする計画だと Nikkei が報じたためである。ラウドン郡の10月6日の会議は採決ではなく、新規申請の12か月停止の採決は10月20日に行われる。OCP Global Summit は10月12〜15日である。今週は10月8日に、Samsung の7〜9月期の暫定決算(市場予想は営業利益約106.9兆ウォンで、四半期で初めて100兆ウォンを超える)と、TSMC の9月の売上が出る。
動きがなかったところ
OpenAI のモデルの停止に、解除の兆しはない。GPT-6.1 Astra のやり直しの話もない。Codex の責任者が書いた「6.1 coming soon」は、「6.1 sol ultrafast」のことだった。Anthropic の /news と /research は10月1〜2日が最新で、公開の S-1 も EDGAR にない。Google DeepMind は Gemini 4 Argon(9月30日)のあと、API で提供する日付を出していない。中国勢は Hugging Face に新しい重みがなく、DeepSeek V4.1 Pro、Kimi K3.1、StepFun Step 5 はいずれも未公開のままである。
論者の沈黙も目立つ。SIF について、Marcus、Zvi、Bender、Gebru、Cowen、Dean Ball の名指しの論評はまだない。Robinson の寄稿には、実存リスクの側、倫理批判の側、Narayanan/ナラヤナンと Kapoor/カプールの「暴走ではなく過剰な権限」の側の、いずれからも新しい応答がない。公聴会後の Marcus、Zvi、Transformer の論評も出ていない。Amodei、Hassabis をはじめ、主要な研究者や経営者からの新しい発信も見つからない(X は直接確認していない)。
政策では、FTC の民事調査要求、Bonta の召喚状、Anthropic の控訴裁での再審理に続報がない。BIS によるチップの規則の追加もない。EU の AI Act の執行の案件は、まだ1件もない。NVIDIA、Oracle、CoreWeave、Microsoft など主要各社に窓内の 8-K はなく、ダウンラウンドも見つからない。
次に見るのは、SpaceXAI への強制の申し立ての行方、豪州での Kwon の証言の中身、そして10月8日の Samsung と TSMC の数字である。




