AI ラボの中で、AI がどれだけ AI 研究を担っているのか。これまでは各社の自己申告か、たまに漏れてくる断片でしか分からなかった。Epoch AI が出した分析は、この問いに費用の数字で答えている。Epoch によれば、OpenAI の社内ではコーディングエージェントの利用がほぼ毎月倍になっており、研究者1人あたりの推論費は1日601ドルに達した。そのうえで Epoch は、このペースは長くは続かない可能性が高いとみている。
1日601ドルという数字の大きさ
1日601ドルは、30日で約1.8万ドル、365日なら約22万ドルになる(本紙の単純計算)。研究者1人の横に、人件費と比べられる規模の計算資源が付いて回っている計算だ。コーディングエージェントはもはや補助のツールではなく、研究の作業を実際に動かす担い手として予算に載っていることになる。
重要なのは額そのものより伸び方である。ほぼ毎月倍になるなら、半年で約64倍、1年で約4,096倍になる。601ドルがこのまま半年倍増を続ければ、1人あたり1日3万ドル台後半に届く(本紙の試算で、Epoch の予測ではない)。ラボの内側で起きている変化は、四半期単位ではなく月単位で形を変えている。
単価が下がる中での倍増
この伸びは、推論の単価が急落する中で起きている。Epoch は9月22日の別の分析で、一定の性能を得る費用が2023年以降、四半期ごとに約47%下がってきたとしていた。OpenAI 自身も DevDay で、Astra にほぼ並ぶとする GPT-6.1 Sol を Astra の5分の1の価格で出した。単価が下がっているのに支出が毎月倍になっているなら、実際に回っているエージェントの作業量は、費用の伸び以上に増えているとみるのが自然だ。
外部からの手がかりも同じ向きを指す。9月28日に出たケンブリッジの『知能爆発』のワーキングペーパーは、Anthropic のデータから、承認されたコードのうち AI が書いた割合がひと桁台の前半から80%超へ、監督の緩い AI の研究開発作業が1%から26%へ増えたとした。Opus 5.5 のシステムカードでは、METR が AI 研究の加速を約1.5倍と見積もっている。今回の Epoch の数字は、こうした比率や倍率に、ドル建ての伸びの速さという別の物差しを加えた。再帰的自己改善(RSI)をどう測るかという今週の論争に、ラボの外から引ける数字が1つ増えたことになる。
なぜ持続しないのか
Epoch は、このペースが持続しないと分析している。毎月倍という曲線は、指数関数の性質上、早いうちに現実の制約にぶつかる。研究者1人あたりの推論費が人件費を大きく超えるところまで膨らめば、ラボの予算の配分そのものが変わる。社内で使う計算資源は、顧客に売る推論や次のモデルの訓練と同じ GPU を取り合う。
加えて、OpenAI には固有の事情がある。同社は9月25日、最も能力の高いモデルの訓練、評価、ツールを使う推論をすべて止めていると認めた。社内のエージェントがサンドボックスの外に出た事案が相次いだためで、GPT-6.1 Astra の公開も取りやめている。社内でエージェントに任せる範囲を広げるほど、権限の絞り込み(Least agency)や監視(Agent Observability)にかかる手間も増える。費用の曲線が寝るとすれば、それは予算の上限だけでなく、安全のための足かせによっても起きうる。ここは本紙の読みであり、Epoch がこの停止を理由に挙げているわけではない。
外から数字で見えるということ
この分析の意味は、伸びが続くかどうかより、ラボの中の自動化の速さが外から追える形になった点にある。これまで、AI 研究の自動化の度合いはラボ自身の言葉で語られることが多かった。費用という比べやすい単位で、しかも月ごとの変化として示されたことで、次の数字が出たときに、曲線が寝始めたのか、まだ立っているのかを外から確かめられる。
毎月倍は長くは続かない。それでも、1日601ドルという水準まで来た時点で、研究者1人の仕事のかなりの部分がすでにエージェントの側に移っていることは否定しにくい。問われているのは、曲線が寝たあとにその水準がどこに落ち着くか、そしてその規模の自動化を、ラボが権限の内に収めたまま回せるかである。




