米国のデータセンターの電力は、2028年までに約32GW 足りなくなる。比率にすると34%にあたる。Investing.com によれば、Morgan Stanley がこう試算した。電力が制約になったとき、遅れのしわ寄せは GPU には来ないとも報じられている。来るのはメモリ、光部品、電源管理の半導体である。記事の見出しは『AI の電力不足がチップのサプライチェーンを直撃し、NVIDIA と Broadcom は守られる』というものだ。
ここでは記事の注意点を先に書いておく。この記事は報道ベースで、Morgan Stanley のレポート原文には当たれていない。Investing.com の本文も直接は読めておらず、見出しと要旨の範囲で書いている。数字の前提、つまり何を分母にした34%なのか、需要をどう見積もったのかは、確認できていない。
32GW、34%という数字の意味
報じられた数字は2つある。不足量が約32GW で、比率が34%である。34%が2028年に必要になる電力に対する割合だとすると、必要量は約94GW になる。これは2つの数字から割り算した参考値にすぎず、Morgan Stanley が示した値ではない。
どちらにしても、ずれの大きさははっきりしている。建てたいデータセンターの3分の1ほどに、電力のあてがないということだ。計算資源を増やす速さを決めるのは、チップをいくつ作れるかよりも、いくつに電気を通せるかになる。試算はそうした状況を描いていると報じられている。
なぜ GPU は守られ、周辺の部品が痛むのか
報道によれば、Morgan Stanley の見立ては、電力が足りなくなっても NVIDIA と Broadcom は守られるというものだ。Broadcom は大手クラウドの独自 AI チップを請け負っている。遅れが出るのは、メモリ、光部品(光トランシーバなど、データセンターの中をつなぐ部品)、電源管理の半導体だという。
レポートが挙げる理由は確認できていない。以下は、報じられた結論を筋道立てて読んだ本紙の解釈である。電力が上限になると、事業者は限られたメガワットを、電力あたりで最も稼げる計算に回す。そこで優先されるのは最上位のアクセラレータだ。止まったり後ろにずれたりするのは、新しい棟やまだ電気の通っていない区画の立ち上げのほうである。そこに入るはずだったメモリ、ラックの間をつなぐ光部品、電源の装置は、建屋ができてから届けばよいので、発注を後にずらしやすい。GPU は手に入る電力の範囲で取り合いになるが、周辺の部品は建屋ができる速さに引きずられる。痛みが同じように広がらないのはそのためである。
AI 投資の上限が電力に移る
この1年、AI インフラの制約として語られてきたのは、先端パッケージングや HBM(広帯域メモリ)の供給だった。今回の試算が示すのは、上限が半導体の工場から電力網へ移るという見方である。そうなると、サプライチェーンの中で誰が値決めの力を持つかも変わる。GPU は電力あたりの性能で買われ続けるが、データセンターの数に比例して売れる部品は、電力の遅れをそのまま受ける。
電力の側の遅れは、すでに地元の政治にも表れている。本紙が追っているところでは、バージニア州ラウドン郡で既存の23件の採決が10月6日に予定されている。新規申請を12か月止める案の最終採決は10月13日ごろとされるが、これは未確認である。サウスカロライナ州ボーフォート郡やバッファローの条例、Oracle の Project Jupiter の環境許可(期限11月23日)も控えている。送電網への接続待ちに地元の反対が重なれば、32GW の不足はさらに広がりうる。
次に見るところ
この見立ては、部品メーカーの数字で確かめられる。Samsung の7〜9月期の暫定決算(10月7日ごろの見込み、未確認)では、メモリの需要に、データセンターの立ち上げの遅れが出ているかどうかを見る。TSMC の9月の売上(10月10日ごろ)と10月15日の決算では、最上位のアクセラレータの需要が電力の制約と関係なく強いままかを確かめる。サンノゼの OCP Global Summit(10月7〜8日)では、電力あたりの効率を上げる電源と冷却、光の配線の話が中心になるとみられる。
先週、Western Digital と Seagate の株価が約10%下がった。原因は確認できておらず、この試算と結びつける根拠はない。ただ、GPU 以外の部品の銘柄が、データセンターの建設の速さにどれだけ敏感かを測る材料にはなる。
エージェントが長い時間動き続け、推論にかかるトークンが増えるほど、データセンターの電力の需要は押し上がる。チップが足りなかった時代には、GPU を持つ側が強かった。電力が足りない時代には、GPU は電力の配分を勝ち取る側に回る。待たされるのはその周りの部品だ、と Morgan Stanley は見ていると報じられている。
出典:Investing.com『Nvidia, Broadcom shielded as AI power crunch hits chip supply chain, says Morgan Stanley』(報道ベース。Morgan Stanley のレポート原文は未確認)




