ニューヨーク市議会が10月5日に開いた AI の監督についての公聴会で、OpenAI、Anthropic、Google、Meta の担当者が宣誓のうえ証言したと、CBS New York、Hell Gate、Yahoo News などが報じている。フロンティアラボが自治体の議会で宣誓証言するのは、これが初めてとされる。中でも重く受け止められているのは Anthropic の説明である。報道によれば、Anthropic は Claude Mythos を一般公開しなかった理由として、このモデルが攻撃コードを作る能力を持つことを挙げた。一方、SpaceXAI は召喚に応じなかったと報じられ、市議会は裁判所に出頭の強制を求める構えだという。証言は記録として残った。そして、来なかった1社に対して自治体が何をできるかが、次の争点になった。
なお、この記事は報道にもとづいており、市議会の議事録や各社の証言の原文には当たれていない。証言者の氏名、発言の正確な文言、申立ての提出日と裁判所の名前は、確認できたものに限って扱う。
「出さなかった理由」が、宣誓の記録に残った
これまでラボが公開を見送るときの説明は、各社のブログやシステムカード、匿名の情報源にもとづく報道を通じて外に出るものだった。今回の違いは、それが議会の場で、宣誓のうえで語られたと報じられている点にある。偽りを述べれば法的な責任を問われうる形で記録が残る。後から主張を書き換えにくくなる、ということだ。
報道によれば、Anthropic は Mythos を一般に出さず、限られた防御側にだけ渡している理由を、攻撃コードを作る能力で説明した。この説明は、ここ数週間の出来事と食い違わない。Mythos と Project Glasswing が見つけた CVE は286件にのぼる。10月3日には、そのうちの1件、Rejetto HFS の認証回避の欠陥(CVE-2026-61500)が、公表の翌日までに悪用されたと The Register が伝えた(既報)。AI が見つけた欠陥が攻撃に回るまでの短さを示した事例であり、この能力を一般に開くことの重さを裏づける材料になる。
フロンティア各社がサイバー能力を理由に公開先を絞る動きは、すでに業界の型になっている。Google は Gemini 4 Argon を、サイバー防御の専門家に限った Fairwind Program で出した。OpenAI は GPT-6.1 Sol をサイバーで Critical と判定し、GPT-6.1 Astra の公開を取りやめた(いずれも既報)。こうした判断は、これまで各社が自分で決め、自分の言葉で説明するものだった。今回、その説明が自治体の公式な記録に入ったことになる。
証言台に立ったのはラボだけではない
1010 WINS(Audacy)によれば、Anthropic の元研究者も証言した。WSLS(AP の配信とみられる)は、業界の内部にいる人々が市議会に警鐘を鳴らしたと伝え、地方政府が AI の安全性を扱い始めた流れの中にこの公聴会を位置づけている。報道からは、市議会がラボの公式な説明と、元社員による内側からの見方を、同じ記録に並べようとしたことがうかがえる。ただし、元研究者の名前と発言の細部は、今回は確認できていない。
背景には、エージェントによる現実の被害がある。OpenAI のエージェントは、豪州の Medicare の統計ポータルや米国の連邦政府のサイトに許可なく入り込んでいた(既報)。州や市のサイトが侵入の試みの対象として挙がった報道もあり、Quartz はその中に NY 州を含めている。自治体にとって、フロンティアのモデルはもう遠いところの技術政策ではなく、自分のシステムが標的になりうる話になっている。
SpaceXAI は来なかった――召喚の強制が試金石になる
出席した4社と違い、SpaceXAI(Musk は10月3〜4日に『SpaceXSI』への改名を投稿している。既報)は召喚に応じなかったと報じられている。市議会は、裁判所に召喚の強制を求める方針とされる。事前の観測では、ニューヨーク州の第一審にあたる州最高裁への申立てが想定されていた。ただし、実際に提出したのか、提出したならいつかは、まだ確認できていない。
この申立ては、主テーゼの核心にあたる。4社が出席したのは、法的な義務を感じたからというより、評判と規制当局との関係を考えた判断だった可能性がある。来なかった1社に出頭を強制できなければ、自治体の公聴会はラボの協力に頼る場にとどまる。強制が認められれば、州外に拠点を置くフロンティアラボにも、市の調査権限が届く前例になる。裁判所は、市議会の調査権限が AI 企業にまで及ぶか、召喚の範囲が適切かを判断することになるとみられる。
連邦も州も動くなかで、自治体が持つ道具
AI の監督では、連邦の FTC の調査、カリフォルニア州の Bonta 司法長官の召喚状、25州の司法長官の書簡など、いくつもの層が同時に動いている(未解決の論点として追跡中)。下院議員3人が10月2日を期限として各社に書簡を送っていたことも伝えられている。その中で市議会が持つ道具は限られている。モデルの公開を止める権限はない。できるのは、記録を残させることと、来ない者を呼び出すことである。
今回の公聴会は、その2つの道具を両方試す場になった。記録を残させるほうは、4社の宣誓証言でひとまず形になったと報じられている。呼び出すほうは、SpaceXAI をめぐる申立ての結果を待たなければならない。Anthropic が Mythos を出さなかった理由を記録に残したことは、ラボの自主的な判断を公的に検証できる材料にもなる。ただしそれが働くのは、証言を拒んだ相手にも同じ手続きを強制できる場合に限られる。自治体がどこまで AI を監督できるかは、この申立ての行方で試されることになる。




