11月3日の米国の中間選挙では、データセンターの建設を縛る住民投票がいくつもの地域で行われ、縛る側がほぼ全勝した。その翌日、OpenAI は自社の拠点について2つのことを約束した。電気代と送電網の費用を全部自分で払うこと、そして地元の役人と結んできた秘密保持の契約をやめることである。この2つは、データセンターに反対する住民がいちばん強く問題にしてきた点だ。AI の開発でいちばん大きい会社が、選挙の結果を受けて批判を認めたことになる。
日本の会社にとって:日本の会社への直接の影響は、まだない。ただ、米国の AI のサービスを使っている会社は覚えておいてよい。電力と送電の費用を開発の会社が自分で持つようになれば、その分はいずれ API やクラウドの値段に入ってくる。データセンターの建設や電力の設備にかかわる会社、日本で拠点をつくろうとしている会社にとっては、地元が何を求めるかの先例になる。
OpenAI が約束したこと
発表は、OpenAI のブログ『Setting a new standard for responsible AI infrastructure』と、政策の提案書『Compute Campus Policy Blueprint』(PDF)の2つである。中心は次の2点だ。
1つ目は、自社の拠点が使う電気と、そのために要る送電網の費用を、全額自分で払うこと。データセンターは大量の電気を使う。そのために発電所や送電線を増やすと、費用が地域の電力会社の料金に乗り、データセンターを使わない家庭や商店まで払うことになる。米国ではこれが『利用者に払わせている』という批判の中身だった。
2つ目は、地元の役人との秘密保持の契約をやめること。データセンターの計画では、開発の会社が自治体の担当者に秘密保持の契約を結ばせ、どの会社が何をつくるのかを住民に伏せたまま話を進める例が多かった。住民が知ったときには決まっている、という不満がこの契約に集まっていた。
OpenAI は11月1日の時点で、選挙の後にデータセンターを『AI の計算のキャンパス』と呼び直し、州や地元と結ぶ『地域の協定』を支持すると報じられていた(Axios の報道)。今回の提案書の名前も、その呼び方に合わせている。ただ、名前を変えるだけでなく、お金と情報の公開という具体的な約束まで踏み込んだのは、選挙の結果を見た後だった。
選挙で何が起きたか
今回の選挙では、データセンターの建設を制限したり、住民の承認を条件にしたりする住民投票が各地で行われた。報道によれば、縛る側がほぼすべてで勝った。Gizmodo は、OpenAI の発表を『選挙での大敗を受けて、データセンターについての言い方を変えた』と書いている。
知事の選挙も効いている。テキサス州では、データセンターの建設を一時止めると訴えた民主党の Gina Hinojosa が知事に選ばれたと Texas Tribune が報じた(11月4日)。テキサス州は、米国で最も多くのデータセンターの計画が集まる州の1つで、電力会社につなぐ順番を待つ計画は大きな規模になっている。エネルギーの調査会社 Cleanview のニュースレターは、新しく選ばれたほかの知事も、計画を止める側に回りうると論じた。
つまり、反対はもう地元の集会の中だけの話ではない。票の数と、州の権限を持つ人の顔ぶれになった。OpenAI の約束は、その変化への答えである。
なぜ『批判を認めた』と言えるのか
開発の会社はこれまで、データセンターは税収と雇用をもたらし、電気代の上がり方は小さいと説明してきた。費用を全部自分で払うと約束するなら、これまでは全部を払っていなかったことになる。秘密保持の契約をやめるなら、それが住民の信頼を損ねていたと認めたことになる。
いちばん大きな会社がこの線を引くと、ほかの会社も同じ条件を求められやすくなる。自治体や州が、OpenAI はやると言っているとして、同じ約束を交渉の場で求められるからだ。開発の会社にとって、データセンターは安く速く建てられるものではなくなりつつある。
UBS の見立て:計画の約30%が危うい
報道によれば、スイスの金融大手 UBS は、2028年までに米国で増える見込みのデータセンターの計画のうち、約30%が危ういとみている。理由は、住民投票と州の規制、そして電力をつなぐ遅れである。
これは AI の会社の費用だけの話ではない。データセンターの建設は、半導体、電力の設備、建設、電力会社の売上の見込みを支えてきた。計画の3割が遅れたり消えたりすれば、その見込みが崩れる。費用を自分で持つという OpenAI の約束も、1件あたりの費用を押し上げる方向に働く。
これから見るところ
テキサス州の行方
Hinojosa 知事のもとで、電力会社への接続を待つ大量の計画がどう扱われるか。一時停止が実際にどこまで及ぶのかは、まだ分からない。
資金とお金の流れ
データセンターを借りて AI 向けの計算を売る CoreWeave は、11月10日に決算を出す。電力会社の Vistra(11月6日)と Constellation の決算では、データセンター向けの電力の契約の見通しが焦点になる。費用の負担と計画の遅れが、数字にどう出るかを見たい。
議会とほかの会社
11月9日ごろに戻る議会で、データセンターの電力の費用を誰が持つかが議題になるか。Microsoft、Google、Amazon、Meta といったほかの大手が、OpenAI と同じ約束をするか。そこまで広がれば、選挙の結果は業界の決まりごとを変えたことになる。




