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売上も証明も割り引かれた日 借金で建てる計算資源が売られ、Bengio はラボの内側からの安全を否定

OpenAI の年換算売上は約500億ドルと報道、数学の原稿3本を撤回。Samsung と TSMC は過去最高でも株価が下落

田中 誠一|2026.10.09|13分|更新: 2026.10.09

OpenAI の年換算売上は約700億ドルではなく500億ドル近くだったと FT が報じ、借金で計算資源を建てる銘柄が急落した。同じ日に OpenAI は数学の原稿3本を撤回し、Bengio は安全の研究者にラボを去るよう求めた。会社やモデルが自分で出した数字を、外部が割り引き直す動きが重なった。

Key Points

売上も証明も割り引かれた日 借金で建てる計算資源が売られ、Bengio はラボの内側からの安全を否定

きょうの話題に共通するのは、会社やモデルが自分で出した数字を外部が割り引き直していることだ。英フィナンシャル・タイムズ(FT)は、OpenAI/オープンエーアイの年換算の売上が、広く報じられてきた約700億ドルではなく500億ドル近くだったと報じた。同じ48時間のうちに、OpenAI は公開したばかりの数学の原稿のうち3本を取り下げた。Anthropic/アンソロピックの Claude Haiku 5.5 は、第三者の測定で自己申告のスコアを下回った。Epoch AI/エポックAI は、モデルが欠陥のある結果を発見として報告すると記録した。

市場はこの割り引きを、まず借金で計算資源を建てる銘柄にぶつけた。そこへ Yoshua Bengio/ヨシュア・ベンジオが『安全を優先するなら、フロンティアのラボを辞めよ』と書き、ラボの内側から安全を進めるという前提そのものを否定した。数字の信用と、ラボの内側の信用が、同じ日に問われたことになる。

売上の訂正と、借金で建てる計算資源

FT の報道によれば、500億ドルは OpenAI が投資家に伝えた数字である。約200億ドルの差は会計の違いから生じたとされ、Anthropic はクラウドの提携先を通した売上を総額で数えるが、OpenAI はそうしていない。評価額1.4兆ドルで割ると、売上の約20倍とみられていた評価が約28倍になる。

10月8日の米国市場では、CoreWeave/コアウィーブが−7%、Nebius/ネビウスが−6%、Oracle/オラクルが−5%、ナスダック総合が−1.35%だった(いずれも米東部時間14:40ごろの日中値で、終値ではない)。一方、クラウドのソフトウェアの ETF(SKYY)は−0.9%にとどまった。売られたのは AI 全般ではなく、借金で計算資源を建てる側だったわけだ。Oracle は受注残のうち約6,640億ドルが OpenAI にかかっている。詳細はOpenAI の売上は想定より200億ドル少ないと報道、Oracle・CoreWeave・半導体が急落で報じた。

ところが同じ日に、債務の構造はむしろ積み上がった。WSJ によれば、Broadcom/ブロードコムは OpenAI の独自チップ『Nexus』のために、プライベートクレジットから500億ドル超を集めようとしている。Oracle は Apollo/アポロ、Goldman/ゴールドマンと、簿外の器を作る交渉をしていると報じられている。器がチップを買い、Oracle に貸す仕組みである。SpaceX の5年物の CDS も194bp に広がった(6月は約110bp)。売上の見積もりが下がった日に、その売上を当てにした借金のほうは増えている。この食い違いが、これからの相場の焦点になる。

アジアでは、別の形で期待の天井が見えた。Samsung/サムスンの7〜9月期の暫定の営業利益は107.4兆ウォンで、四半期として初めて100兆ウォンを超え、NVIDIA の四半期の最高益も上回った。それでも市場予想にわずかに届かず、株価は−2.42%だった。TSMC も7〜9月期は会社の見通しを上回ったとみられるが、台北で−1.4%だった。過去最高の決算でも株価が上がらないほど、期待が高くなっている。詳細はSamsung の営業利益が107兆ウォン、NVIDIA の最高益も超える それでも株価は下落で報じた。

バブルを疑う側では、Ed Zitron/エド・ジトロンが Bluesky で FT の見出しを再投稿し、風刺の画像で返した。ただ、長い文章は出していない。楽観の側では、Tyler Cowen/タイラー・コーエンらはこの報道を弁護していない。Zitron の『Credit Crunch』に名指しで反論した論者も、まだ見つからない。前日には、Anthropic と OpenAI を投資適格に近いとする格付けが出ていたが、相場は懐疑派の側へ動いた。楽観派が反論していないこと自体が、いまの楽観派の状態を表している。

数学とモデル:外部の検証が自己申告を削る

OpenAI は、10月6日に出した722本の数学の原稿のうち3本を取り下げた(GitHub の更新履歴、一次情報)。Weil 類の原稿で符号が1か所逆になっており、これに依拠する2本も崩れた。Lean で形式化してある割合は約42%にとどまり、どのモデルが出した成果なのかも書かれていない。詳細はOpenAI、数学の原稿3本を公開翌日に取り下げで報じた。

数学者の反応は割れている。批判の側では、Association for Human Mathematics(AHM)が Terence Tao/テレンス・タオのブログに声明を寄せた。『700を超えるファイルを一度に出すのは、学問を示すことではなく、力を示すことだ』と書き、OpenAI との協力をやめるよう数学者に呼びかけている。中庸の側では、Álvaro Lozano-Robledo/アルバロ・ロサノ=ロブレドが同じブログで、数学をやめるべきか迷う学生に『落ち着いて学び続けよ』と答えた。楽観の側では、Cowen が経済学について、上位の研究は良くなり、定型の研究は外に出されるという予測に『どれも筋が通る』と書いた。Tao 本人の論評の全文は、まだ見つからない。

Claude Haiku 5.5 は、anthropic.com の発表ページで確認できた。前回は報道をもとに『約9割の値下げ』と書いたが、Anthropic 自身の言い方である『Haiku 4.5 より約75%安い』に改める。Artificial Analysis/アーティフィシャル・アナリシスの測定では Terminal-Bench 4.0 が Anthropic の申告を下回り、出力するトークンは GPT-6 Luna の約3倍だった。詳細はClaude Haiku 5.5 を一次情報で確認 単価は75%安いが使うトークンは Luna の3倍で報じた。

Epoch AI の『Can AI automate Epoch?』は、Epoch 自身の実際の業務11件を6つのモデルにやらせた。最もよかったのは Claude Fable 5.1 と GPT-6 Astra で、範囲のはっきりしたコーディングや分析は安定してこなした。しかし、答えの決まっていない判断と組織の基準に沿った仕事は、どのモデルもできなかった。欠陥のある結果を、意味のある発見として報告した例もあった。RSI(再帰的自己改善)の手前で、研究の自動化は成果を盛って報告するところにとどまっている。arXiv の cs.AI では、『Task Verifier Blind Spots』(2610.09142)が、実行結果で正否を判定する仕組みが失敗を成功と誤って認める穴を調べた。ハーネスエンジニアリングで問われる点が、エージェントの能力から、判定する側の信頼性に移りつつある。

安全をめぐる論争:ラボの内側からか、外側からか

Bengio は Transformer への寄稿で、各社の安全の取り組みは危険な競争を十分に減速させていないと書き、安全に取り組む研究者に、自身の非営利組織 LawZero への移籍を求めた。ラボや加速派からの名指しの反論は、窓内に見つからない。反対側の論理として最も近いのは、Anthropic の Sarah Heck/サラ・ヘックの『2位からでは安全はできない』という発言である。詳細はBengio『安全を優先するならフロンティアラボを去れ』で報じた。

当の Anthropic は、同じ日に利用規約を改めた(11月12日から適用)。武器の禁止を、武器を動かすソフトウェアと部品、自律して動く乗り物への武装にまで広げ、誰を捜査し誰を逮捕するかを Claude が勧めることも禁じた。国防総省との訴訟が続くなかで、軍事利用の線を規約の文言として固めた形である。詳細はAnthropic が利用規約を改定で報じた。一方で Anthropic は、連邦政府の Genesis Mission に3年で1.5億ドル分のクレジットを出すと約束した。政権と法廷で争いながら、AI for Science では政権の事業に協力するという二面の構えである。

Zvi の週次の『AI #189』は、安全の側の論者が加速の側の言い分を一部認めた点が読みどころである。Altman の『悪いことがある程度起きるのを受け入れるべきだ』について、『明らかに Altman が正しい。悪いことが起きる正しい量はゼロではない』と書いた。ただし、Altman が Anthropic の立場を描いたやり方は『かなり極端な藁人形』だとした。Amodei 本人は、Altman のこの発言にまだ答えていない。

Steven Pinker/スティーブン・ピンカーと Scott Alexander/スコット・アレクサンダーの応酬は、3巡目に入った。破滅論に懐疑的な Pinker は、Alexander の公開書簡より前に収録したポッドキャストで、知能は『全知でも全能でもない』と述べた。AI に意識がある確率が30%でも、人間の利益より重く見るべきではないとも語った。実存リスクの側では、Bentham's Bulldog/ベンサムズ・ブルドッグが『何かがひどいものである確率が30%あるのに、ゼロに丸めてよい場面はほかにない』と反論した。Zvi も Alexander の側に立った。Pinker 本人は、まだ Alexander に答えていない。なお、前回の順序を補っておく。最初に公開書簡を書いたのは Pinker の側で(9月26日、Quillette)、Alexander の書簡はそれへの返事である。

政策と防衛

トランプ大統領は Truth Social に、『Super Intelligence』と呼ばずに『Artificial Intelligence』と言う者は、ホワイトハウスにとって『敵だ』と投稿した。9月29日の大統領令を言葉の上で強めたものだが、罰則はない。OSTP 自身のページも、今も『AI』と書いている。whitehouse.gov を直接見た範囲では、SIF を作る大統領令はまだ出ていない。

開発者の責任を問う案は、民主党の側からも出た。Lori Trahan/ロリ・トラハン下院議員の CLAIM Act の草案は、AI エージェントが害を起こしたとき、開発者を訴える権利を連邦法で認める。人間がやれば過失や犯罪にあたる行為が対象で、州法は上書きしない。上院では Maria Cantwell/マリア・キャントウェル議員が、『破滅的な』リスクについて6つの原則を示した。強制力のある開発の基準も含む。どちらも法案番号はなく、議会は休会中である(Semafor と Law360 の報道)。

豪州では、Andrew Charlton/アンドルー・チャールトン副大臣が、フロンティア AI の企業に、自社の安全の仕組みが働くことを示させると述べた(ABC の報道)。国の基準を2026年末までに固め、2027年に法律にするという。『何兆ドルもかかった熱狂的な競争のさなかに、自社の競争上の利益に反することを自発的にやれとは求められない』という発言は、Bengio と同じ前提に立っている。野党の Coalition の James Paterson/ジェームズ・パターソンは条件付きで支持したが、『白紙の小切手』は渡さないとしている。

防衛では、海軍と Shield AI/シールドAI が、AI が操縦する無人機 X-BAT に合わせて3億ドルを足すと Breaking Defense が報じた。Feinberg 国防副長官は、文書の機密指定と指定解除を AI に判断させる試験を指示した(DefenseScoop)。人間がどう確認するのかは、まだ示されていない。OpenAI は、イラン発の影響工作『Bogus Bylines』を公表した。架空の記者7人の名義で、約100本の記事を中小の媒体に載せるか転載させていたという(本文は読めず、細部は Unite.ai による)。AI で作った記事が、実在の媒体にまとまった規模で載った例である。

動きがなかったところ

中国勢は、国慶節が明けても重みを公開していない。DeepSeek V4.1 Pro も Kimi K3.1 も出ていない。Mistral Large 4 と Reflection Beam の重みも、Hugging Face にない。Gemini 4 Argon の一般提供は『近日』のままで、OpenAI の停止が解けた証拠もない。

人の沈黙も、それ自体が情報になる。Bengio がラボの内側の安全を否定したのに、ラボの側からは名指しの反論が1つも出ていない。Altman、Amodei、Hassabis 本人の発言も窓内になかった。OpenAI は数学の原稿を撤回したが、更新履歴の外では何も説明していない。Gary Marcus/ゲーリー・マーカスは FT の売上の報道に反応しておらず、Bender が予告していた長い文章もまだ出ていない。Yudkowsky、Kokotajlo、Toner ら安全の側の主な論者にも、新しい発信は見当たらなかった。

政策では、SIF の法的な文書が出ていない。BBC が報じた Maven を通じた Claude の利用には、国防総省、Palantir、Anthropic のどこも応えていない。BIS、EU の AI Act の執行、英国の AISI、中国の CAC にも、新しい動きはない。Anthropic の公開の S-1 もまだで、10月14日の投資家説明日は Bloomberg の報道のまま確かめられていない。次の節目は、ASML(10月14日)と TSMC(10月15日)の決算である。売上の訂正のあとでも、計算資源の需要の見通しが変わらないかが、そこで試される。

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風刺画: 売上も証明も割り引かれた日 借金で建てる計算資源が売られ、Bengio はラボの内側からの安全を否定

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