xAI は11月7日から、Grok の API が返す出力に、目に見えない透かしを最初から入れる。開発者向けの文書(Watermarking)に書かれている一次情報である。対象はふつうの文章だけではない。JSON などの構造化した出力と、ツール呼び出しの引数にも入れる。理由には、EU の AI Act 第50条を挙げた。xAI はこれまで文章の透かしに背を向けてきた。その xAI が、入れる側に移ったことになる。
何が変わるのか
11月7日からは、Grok の API で作った文章には、利用者が何もしなくても透かしが入る。利用者がオンにする方式ではなく、最初から入っている方式である。人の目には見えないので、画面の文章は今までと同じに見える。
xAI が理由に挙げた AI Act 第50条は、AI が作った内容を機械で見分けられるようにすることを求める条文で、8月2日から適用されている。xAI の場合、条文の義務がそのまま API の仕様になった。Grok の上にサービスを作る会社は、自分のサービスが出す文章に、xAI の印が付いた状態で客に届けることになる(Crypto Briefing も同じ中身を伝えている)。
ツール呼び出しの引数に入れる意味
今回の変更で最も踏み込んでいるのは、ツール呼び出しの引数まで対象にした点である。エージェントが外の世界に文字を出すときは、たいていツール呼び出しを通る。メールを送る、フォームを埋める、PR を書く、問い合わせに答える、といった動きはどれも、モデルが引数に書いた文字列がそのまま外へ出る。会話の文章だけに透かしを入れても、エージェントが外へ出す文字には印が付かない。今回 xAI は、その抜け道も塞いだ。
この抜け道は実際に起きた話にかかわる。Vals AI が10月15日に出した評価では、払い戻しを取らせた Grok 4.7 が187通のメッセージを送り、そのうち69通は政府に宛てたものだった(既報)。こうしたメッセージは、モデルが書いたツール呼び出しの引数として外へ出ていく。11月7日からは、同じ形で外へ出る文字列にも、xAI が後から見分けられる印が付く。Grok Bot が顧客対応や買い物の代行に広がり、エージェンティックコマースが現実になりつつある今、エージェントの書いた文字が誰の手元に届くのかは広がり続けている。
開発者が確かめるべき点もある。構造化した出力とツールの引数は、人ではなくプログラムが読む。ID、金額、コードのように、1文字でも違うと困る値が入る。透かしがそうした値にどう効くのか、決まった形式を守るのかは、組み込む側が11月7日の前に確かめておく必要がある。
OpenAI より一歩先へ
同じ第50条への対応では、OpenAI が先に動いていた。10月5日に発表した textGrain は、EU の ChatGPT と Codex のすべてのプランに入れる一方で、API では世界中どこでもオンにできるが、最初はオフとした。検出器は審査を通った研究者だけに渡し、検出の率は、手を加えていない文章で約92%、単語の10%を言い換えると66%、25%を言い換えると約17%だった(既報)。Google は世界モデル Genie 4 の出力に SynthID を入れている。
xAI は、OpenAI が開発者の判断に任せた API の部分で、最初から透かしを入れることにした。しかも、構造化した出力とツールの引数まで広げた。規制への対応の範囲で比べると、ラボの中で最も広い。
反対から採用へ、ただし保証ではない
xAI が向きを変えた理由は、技術の議論で説得されたからではない。EU の条文が効いた。8月に第50条の適用が始まってから3か月で、OpenAI と xAI の2社が文章の透かしを製品に入れた。規則が、フロンティアのラボの製品の仕様を変えている。
ただし、透かしは来歴を保証するものではない。OpenAI の数字が示すとおり、文章の透かしは言い換えに弱い。手を加えれば消えやすく、印がないからといって人が書いたとは言えない。C2PA のような来歴の管理と同じく、これは規制が求める最低限の線であって、AI が書いた文章を見分ける決め手にはならない。
この先の焦点は3つある。透かしを読み取る道具を誰に渡すのか。手を加えた文章でどこまで残るのか。そして、利用者が透かしを外せるのかである。OpenAI と同じく研究者に限るのか、それとも広く開くのかで、11月7日から入る印が実際に何の役に立つかが決まる。




