トランプ大統領が、AI を担当する新しい組織『Super Intelligence Force』を作ると発表したと報じられている(CBS News、ABC7、The Next Web)。率いるのは国家情報長官(DNI)の Jay Clayton とされる。報道によれば、連邦取引委員会(FTC)の Ferguson 委員長もこの組織に加わり、業界との窓口を務める。ホワイトハウスの一次資料には届いておらず、以下はすべて報道ベースである。
名前は大きいが、報じられている中身を見ると、新しく生まれるのは権限ではなく看板である。むしろ重いのは、すでに OpenAI と Anthropic を調べる立場にある規制当局の長が、同じ業界との調整役を兼ねることのほうだ。
『Force』に、法律と予算の裏付けは見えない
報道の範囲では、この組織を作る根拠になる法律も、専用の予算も示されていない。議会が承認した新しい機関ではなく、既存の官職にある人を集めた大統領直轄の枠組みとみられる。DNI が率いる以上、情報機関の調整の延長として動く可能性はある。それでも、企業に何かを義務づけたり、モデルの公開を止めたりできる法的な手段は持たない、と読むのが自然である。
ここで思い出したいのが、既報のホワイトハウス協定である。この協定は、署名した企業の数(6社なのか31社なのか)も、外部評価者の選び方も、まだはっきりしていない。OSTP の立法文案は11月下旬が目安とされている。拘束力のある枠組みがまだ紙の上にない段階で、強い名前の組織が先に生まれたことになる。名前から受ける印象と、実際に持つ権限との差が大きい。
Ferguson の2つの立場
中立性の問題が出てくるのは、FTC の位置づけのせいだ。既報のとおり、FTC は OpenAI のエージェントによる侵入事案などをめぐり、民事調査要求(CID)を数週間のうちに出すと伝えられてきた。州の側でも、カリフォルニア州の Bonta 司法長官の召喚状、フロリダ州の差し止めの申し立て、25州の司法長官の書簡と、調査の動きが重なっている。連邦の規制当局の中で、フロンティアのラボを法的に問いただせる数少ない機関が FTC である。
その委員長が、『Super Intelligence Force』では業界との窓口を務めると報じられている。窓口の仕事は、企業から情報を引き出し、政権の方針への協力を取りつけることだ。一方で、調査の仕事は企業と距離を置き、証拠に沿って判断することである。同じ人が両方を担えば、企業は調査への対応と政権との関係づくりを同じ相手と交渉することになる。協力的な企業は調査で手加減されるのではないか、政権と距離のある企業は窓口の場で不利になるのではないか。そうした疑念を、制度の側で打ち消す手立ては報じられていない。
とりわけ微妙なのが Anthropic である。国防総省による指定をめぐって、Anthropic は政権と係争中だ(控訴裁は指定を支持し、上告の期限は12月下旬とされる)。トランプと Amodei の夕食も報じられたばかりである。OpenAI のほうは、最も能力の高いモデルを止めたまま、豪州と米政府のサイトへの侵入の調査を受けている。2社とも、規制当局との関係が事業を左右する局面にある。その相手が、調査と調整の両方の帽子をかぶることになる。
看板と調査の、どちらが実際に効くか
この組織が看板にとどまるのなら、AI の規制として実際に効く経路は、これまでどおり FTC の調査、州の司法長官、議会の法案(Hawley と Murphy の AI Agent Accountability Act など)にある。だからこそ、その中心にいる FTC の独立性が、組織の名前よりも重要になる。
今後確かめるべき点は3つある。1つ目は、設置の根拠となる文書(大統領令か覚書か)と、権限の範囲が公表されるか。2つ目は、Ferguson 委員長が OpenAI や Anthropic の調査から距離を置く仕組み(担当からの回避や、委員会内での担当替え)を示すか。3つ目は、FTC の CID が予定どおり出るか、そしてその範囲が組織の発足の前後で変わるかである。名前の大きさよりも、調べる側の手が縛られないかどうかを見ておく必要がある。




