米国の中間選挙の投票日(11月3日)の時点で、AI 業界のスーパー PAC は7,900万ドル(約120億円)を使っていたと報じられている。オープンソースの調査報道で知られる Bellingcat が11月2日に、ニュースレターの Citation Needed が選挙の手引きの記事で、それぞれ伝えた。そのうち3,600万ドル超はデラウェア州のペーパーカンパニーを通っていた。しかも業界の広告は、わざと AI に触れないように作られているという。報道どおりなら、AI 業界のお金がどれだけ、誰から出ているのかを有権者が見分けにくいまま、投票が進んだことになる。
日本の会社にとって:いますぐ直接の影響はない。ただ、この選挙で選ばれた議員が、米国の AI の規制や州の法律の行方を決めていく。米国で AI を使ったサービスを売る会社や、米国の AI の道具を社内で使っている会社にとっては、選挙の後の議会でどんなルールが通るかを決めるお金の流れとして、見ておく価値がある。
報じられている数字
スーパー PAC は、候補者の陣営と直接は連携しないことを条件に、企業や個人から上限なしに資金を集めて使える政治団体である。テレビやネットの選挙の広告に使われることが多い。
報道によれば、AI 業界のスーパー PAC が投票日までに使ったお金は合わせて7,900万ドル。そのうち3,600万ドル超が、デラウェア州のペーパーカンパニー(事業の実体がなく、お金を通すための会社)を経由していた。全体の半分近くにあたる。
なお、ここに挙げた数字は報道によるもので、本紙は元になった届け出の記録を確かめていない。どの PAC を「AI 業界の」と数えたのか、どの時点までの支出なのかによって、合計は変わりうる。
ペーパー会社を通すと、何が見えなくなるのか
米国のスーパー PAC は、献金した相手を連邦選挙委員会に届け出なければならない。ただ、献金したのが会社なら、届け出に載るのはその会社の名前だけになる。デラウェア州は会社の持ち主を公にしなくてよい州として知られる。そこで作った会社を間にはさむと、有権者が記録を見ても、その裏にどの企業や個人がいるのかまでは分からない。
3,600万ドル超がこの形で流れていたのなら、AI 業界のお金の半分近くは、届け出の記録を読んでも本当の出し手にたどり着けないことになる。法律の手続きは守られていても、届け出の制度が本来ねらう「誰が選挙にお金を出しているかを有権者が知る」ことは、十分には果たされていない。
AI に触れない広告
もう1つの論点は広告の中身だ。報道によれば、業界の広告はわざと AI に触れていない。広告では、AI の規制とは別の争点や、候補者の人柄が取り上げられていたとみられる。
そうなると、広告を見た有権者には、それが AI 業界のお金で流れているものだということが伝わらない。AI の規制について候補者がどんな立場なのかも、広告からは分からない。出し手がペーパー会社に隠れていることと合わせて、二重に見えにくくなっている。
選挙の後に、何を見ればよいか
AI 業界の働きかけは、選挙の後の議会で本格的になる。OpenAI は、中間選挙の後に、最も強い AI に義務としての「速度の上限」を求める働きかけを始めると Axios が11月1日に報じている(11月9日ごろに戻る議会に合わせるという)。業界が選挙で支えた議員が、AI の規制でどう動くのかが次の焦点になる。
まだ分からないことも多い。ペーパー会社の裏にいるのがどの企業や個人なのか。どの選挙区の、どの候補を支えたり攻めたりしたのか。業界の会社が、自分たちの名前を出さずにお金を出したことをどう説明するのか。この記事の元になった報道からは、これらは確かめられていない。届け出の次の締め切りで記録が出そろえば、もう少し見えてくる可能性がある。




