生成AIが作る画像や文章に著作権は認められるのか、AIの学習データ利用は著作権侵害にあたるのか——この二つの論点を巡り、日本・米国・中国で司法判断が個別に積み上がりつつあるが、統一基準は依然として存在しない。各国の地裁・連邦地裁が下す判断はケースごとに分かれ、企業は判例なき状況での実務対応を迫られている。
日本初級、大阪地裁でAI生成画像の著作物性を争う訴訟
大阪市の画像制作会社は2023年7月以降、生成AIでヘアカットモデルの画像を作成し、美容室向けに数千点をウェブサイトで販売してきた。ところが千葉県の美容室運営会社が2025年12月から2026年5月にかけ、この画像と酷似する240点を予約サイトに無断掲載。原告側は読売新聞オンラインの取材に対し、プロンプト入力後に画像編集ソフトで修整・合成する工程を説明し「熟練スタッフでも1点30〜40分かかる、AIは道具の一つ」と主張、大阪地裁に使用差し止めを求めて提訴した。被告側は東京地裁に債務不存在確認訴訟を先行して起こしており、係争は二法廷にまたがる異例の展開となっている。
文化庁が2024年3月に公表した「AIと著作権に関する考え方」は、AIがほぼ自律的に生成したものは原則著作物でないが、利用者の「創作的意図」と「創作的寄与」が認められれば著作物になり得るとし、判断基準として「指示の分量・内容」「生成の試行回数」を挙げる。弁理士の栗原潔氏はYahoo!ニュース個人で、千葉県警が扱った別事件では生成結果の指示修正が2万回以上繰り返されたことが著作物性認定に寄与したと指摘しつつ、「どこまでが簡単な指示か境界は曖昧」と評する。
米国:Anthropic15億ドル和解と「人間の関与」不在の判決
米国では2025年6月、退官前のウィリアム・アルサップ判事がAnthropicの書籍著作権訴訟で分割判決を下した。著作権保護作品でのAIモデル訓練は「変形的」でフェアユースに該当するとした一方、Library GenesisなどからダウンロードしAI訓練に使わず保存していた700万冊超の海賊版書籍については著作権法違反と認定。この結果、2025年12月の裁判を前に両者は和解し、BigGoファイナンスによれば対象作品48万点超に対し1点あたり約3000ドルを支払う総額15億ドル(約2400億円)規模の和解が承認された。米国AI著作権訴訟として過去最大かつ初の解決事例となる。控訴審を経ていないため、このフェアユース判断は単一地裁判決にとどまり拘束力を持たない点も強調されている。さらにAnthropicは主要音楽出版社から2万曲以上の楽曲を海賊利用したとして別途30億ドルの訴訟にも直面し、Google・Meta・Midjourney・OpenAIに対する複数訴訟も係属中だ。一方、2023年8月18日にはワシントンD.C.の連邦判事が「人間の関与を欠く」AI生成アート作品は著作権保護の対象外と判断しており、生成物側の著作物性についても米国では厳格な立場が先行している。
中国:同一の「奥特曼」事件、広州と杭州で分かれた責任構造
中国では2024年、広州・杭州両インターネット法院がそれぞれウルトラマン(奥特曼)のAI生成画像を巡る侵害訴訟を審理した。最高人民法院知識産権法廷の解説によれば、広州法院はAI機能を直接侵害と認定し賠償1万元を命じたのに対し、杭州法院は「技術中立」を認めつつ出力段階での注意義務違反を理由に帮助侵害と認定、賠償3万元を命じた。杭州の事件は控訴審でも争われ、被告のAI企業は著作権許諾期限が2024年3月31日で切れていた点や、既にプラットフォーム上で「奥特曼」を制限用語に設定した措置を主張したが、原告側はユーザーデータの削除まで求め対立が続いている。両判決の分岐は、AI技術への関与度合いをどう評価するかという司法の判断枠組み自体がまだ固まっていないことを示す。
判例なき現状が突きつける実務課題
日本・米国・中国いずれにおいても、AI著作権を巡る司法判断は個別事件ごとの地裁レベルの結論にとどまり、上級審での統一見解は形成されていない。BigGoファイナンスは「拘束力ある控訴審判決がないまま、著作権データでのAI訓練の合法性は管轄区域によって断片化され、開発企業・出版社・クリエイターすべてに不確実性を生んでいる」と指摘する。日本の大阪地裁案件も「判例はなく訴訟の行方が注目される」状況にあり、企業は各国・各地裁の傾向を個別に把握しながらリスク管理せざるを得ない局面が続く見通しだ。

