中国政府による生成AI規制が、届出制度の定着と実際の摘発事例の両面で執行段階に入っている。国家インターネット情報弁公室(CAC)など複数部門が所管する「生成式人工智能服务管理暂行办法」(生成AIサービス管理暫行弁法)に基づくモデル備案数は、2026年4月末時点で累計868件に達した。中国ビジネスCOMPASSによれば、これは2025年11月1日時点の611件、同年3月31日時点の346件から急増した数字であり、Science Portal Chinaの報道でも登録件数の継続的な積み上がりが確認されている。
2023年発の管理弁法を起点とする重層的規制体系
中国の生成AI規制は単発の法律ではなく、複数の部門規章が積み重なる形で形成されてきた。起点となったのは2022年3月1日施行の「互联网信息服务算法推荐管理规定」(アルゴリズムレコメンド管理規定)で、CAC・工業情報化部(MIIT)・公安部・国家市場監督管理総局(SAMR)の4部門連名で発布された。続いて2023年1月10日には「互联网信息服务深度合成管理规定」(ディープフェイク管理規定)が施行され、顔生成・音声合成・仮想シーン生成に標識付与義務が課された。
その延長線上で2023年7月10日に公布、同年8月15日に施行されたのが本題の生成AI管理弁法である。野村サステナビリティクォータリーの分析では、これは「世界初の生成AIに特化した規制」と位置付けられ、特徴として(1)奨励策と罰則の併用、(2)分類・等級付けによる管理監督、の2点が挙げられている。朝日新聞は施行当時、「国家安全」を掲げ、当局の許可義務や禁止・削除措置を明記した点を報じている。
届出は「自社開発」と「組み込み」で手続きが分岐
管理弁法に基づく実務上の要件は、事業者の立場によって異なる。中国ビジネスCOMPASSの整理によれば、AIモデルを自社開発する事業者は中央の国家網信弁に対し「生成AIモデル備案」を行う必要があり、API接続等で既存モデルを呼び出すだけの事業者は地方網信弁への「生成AI組み込み登記」で足りる。PwC Japanのレポートによれば、対象事業者はサービス提供日から10営業日以内に届出を行い、変更時も10営業日以内、サービス終了時は20営業日以内に手続きが必要とされる。届出情報はアルゴリズム名称・分類・事業者名・製品名・主な用途・届出番号などがCACのウェブサイトで一般公開されており、透明性確保の仕組みとして機能している。
規制網は標識義務と擬人化サービスへ拡大
2025年に入り、規制の対象範囲はさらに広がった。2025年9月1日には「人工智能生成合成内容标识办法」(AI生成合成コンテンツ標識弁法)が施行され、対応する強制国家標準GB 45438-2025も同日発効した。この弁法では、利用者に分かる「明示的標識」とファイルのメタデータに埋め込む「非明示的標識」の双方が求められる。さらに2026年7月15日には「人工智能拟人化互动服务管理暂行办法」(AI擬人化インタラクションサービス管理暫行弁法)がCAC・国家発展改革委員会・MIIT・公安部・SAMRの5部門連名で施行され、未成年者保護の観点から擬人化AIサービスに新たな管理義務が課された。
執行段階入りを示すバイトダンス3サービスへの処分
規制の実効性は、実際の摘発事例によって裏付けられつつある。BiGGoニュースによれば、CACは2026年4月28日、AI生成コンテンツの識別表示義務を怠ったとして、バイトダンス傘下の動画編集アプリ「剪映(Jianying)」、SNS的サービス「猫箱(Maoxiang)」、画像・動画生成サービス「即夢AI(Jimeng AI)」を厳重処分とした。これは標識弁法とGB 45438-2025が定める表示義務の具体的な執行事例であり、大手プラットフォーム事業者であっても例外なく適用される姿勢を当局が示した形だ。
金融分野など業界への波及と今後の展望
金融業界への影響について、野村のレポートは、銀行業では法的拘束力のないガイドライン中心の整備が進む一方、証券業ではAI規制導入が限定的にとどまっていると指摘する。同レポートは今後の論点として、包括的なAI法制定、金融業における分類・等級付け管理の具体化、外資系企業の対応の3点を挙げている。中国では国家レベルの包括的な「人工智能法」が起草段階にあり、行政法規レベルの制定はまだ実現していない。部門規章が先行して積み上がる現状は、法制度の空白を実務レベルの届出・標識・処分で埋めていく中国特有のアプローチを反映しており、日本企業を含む国内サービス提供者は、この重層的な規制動向を継続的に監視する必要がある。


