医療に AI を使うことへの期待が、世代の間でひっくり返った。Pew Research Center が10月29日に出した報告書『Americans are open to AI in healthcare but want humans making final calls』によれば、2022年に最も前向きだった18〜29歳が、いまは最も否定的な層の1つになった。逆に、かつて慎重だった65歳以上は前向きに転じている。AI をふだんいちばん使っている若い世代が、自分の体を AI に預けることには、いちばん強くためらっていることになる。
4年で何が入れ替わったか
18〜29歳で「医療に AI を使えば患者の健康は良くなる」と答えた人は、2022年の44%から31%に減った。「悪くなる」は29%から45%に増えた。良くなるから悪くなるを引いた差は、+15ポイントから−14ポイントになった。4年でほぼ30ポイント動いたことになる。
報告書の執筆者は、この変化を次のようにまとめている。
In 2022, younger adults were on balance more optimistic toward the use of AI in healthcare. There's been an uptick in negativity among the youngest adults – from 29% in 2022 to 45% in 2026.
訳: 2022年には、若い成人のほうが全体として医療での AI 利用に前向きだった。最も若い層では否定的な見方が増え、2022年の29%から2026年には45%になった。
2022年の時点では、若者が楽観の側にいるのは自然に見えた。新しい技術に慣れていて、医療の仕組みの不便さにも不満を持ちやすいからだ。その層で否定的な見方が半分近くまで増えたのは、若者が AI を知らないからではない。よく知るようになってから慎重になった、と読むほうが筋が通る。
65歳以上は反対の向きに動いた。
Adults ages 65 and older take the opposite view: The largest share (42%) says the use of AI will better patient health. This share has increased 8 percentage points since we last asked this in 2022.
訳: 65歳以上は逆の見方をしている。最も多い42%が、AI を使えば患者の健康は良くなると答えた。この割合は、前回この質問をした2022年から8ポイント増えた。
計算すると、65歳以上で「良くなる」と答えた人は2022年には約34%で、当時の18〜29歳の44%を10ポイント下回っていた。いまは42%で、18〜29歳の31%を11ポイント上回る。2つの世代は、ちょうど位置を入れ替えた。
なぜ若者は慎重になったのか
Pew の数字は「何が変わったか」を示すが、「なぜ」には答えていない。ここから先は、ほかの事実と合わせた読み方になる。
1つ目は、触れている量の違いである。若い世代は、チャットの相手としても、勉強や仕事の道具としても、生成 AI を毎日のように使っている。使うほど、自信たっぷりに間違える場面や、聞き方を変えると答えが変わる場面に何度も出会う。文章の下書きなら直せばすむ。しかし診断や薬の量となると、同じ失敗は取り返しがつかない。使い慣れていることで、どこまで任せてよいかの線がはっきりした、と考えられる。
2つ目は、医療とどう関わっているかの違いである。若い人の多くは、病院にかかることがまだ少ない。AI が医療に入ることを、自分の診察がよくなる話としてではなく、自分の健康のデータが使われる話として受け取りやすい。65歳以上は持病を抱え、予約の取りにくさや診察時間の短さに日々ぶつかっている。待ち時間が減る、見落としが減るといった AI の約束が、そのまま自分の得になる。
3つ目は、この4年で出てきた材料そのものである。10月だけでも、医療の AI の成果を示す発表が続いた。Microsoft AI の診断の仕組み MAI-DxO は、査読を経て Science に載った。NEJM の症例で83%を正しく診断し、総合診療の医師の22〜36%を大きく上回ったという。Google のプライマリケア向けの AMIE も、実地の研究が The Lancet に載った。ただし TechCrunch は、MAI-DxO が比べた相手は専門医ではなく総合診療医であること、伸びの大半は土台のモデルによるものであることを指摘している。成果と一緒に注意書きもたくさん目にする若い世代と、見出しの数字に期待を寄せる高齢の世代とで、同じ発表の受け取り方が分かれていても不思議はない。
「最後は人が決める」への期待とその弱さ
報告書の題が示すとおり、世代を問わず共通する答えもある。AI を使うことには開かれているが、最後の判断は人がすべきだ、というものだ。
Americans still want a human in the loop, reviewing what AI does.
訳: 米国人は今も、AI のしたことを人間が確かめる仕組みを望んでいる。
これは、AI の導入を進める側にとって分かりやすい答えに見える。医師が確かめる形にすれば受け入れられる、ということだからだ。だが、人が確かめる仕組みを置くだけで十分かどうかには、疑う材料がある。
Anthropic が10月27日に出した研究『How AI agents shape experts' judgment calls』では、因果推論を仕事にする分析者50人に、Claude Code と一緒に統計の課題をさせた。分析の4つの選択のそれぞれで、エージェントがどちらに傾くかを、本人に知らせずにコインで決めた。すると、選択の86%がエージェントの傾きと一致した。偶然なら50%である。エージェントの論拠を使った人は77%いたが、エージェントのおかげだと書いたのは15%だけだった。一方で、重大な誤りは AI なしの55%から、ありでは6%に減った。
この結果を医療に当てはめると、Pew の調査に表れた望みの弱点が見えてくる。最後に判断するのが人間でも、その判断がいつのまにか AI に引っ張られていれば、「人が決める」は形だけになる。しかも当の専門家は、引っ張られたことに気づきにくい。誤りが減るという利点も本物なので、AI を外せばよいという話でもない。患者が求めているのは、確認する人がいることそのものではなく、その人が AI と違う判断を下せることだろう。それを確かめる手段は、まだほとんどない。
導入する側への意味
この調査が導入する側に突きつけるのは、いちばん使う層を、いちばん説得しにくい層として扱わなければならないことだ。デジタルに慣れた若い患者が自然についてくる、という前提はもう成り立たない。若者の懐疑は、AI を知らないことから来るのではなく、AI を知っていることから来ている。だから、性能の数字を並べても動きにくい。
その層に届きそうなのは、AI がどこでどう使われ、誰が最後に責任を持ち、AI と医師の意見が分かれたときに何が起きるのかを開示することだ。患者が AI を使わない道を選べることも要る。Agent Observability のように、判断の過程を後からたどれる仕組みを、開発者のためだけでなく患者への説明にも使えるかどうかが問われる。
一方で、高齢の世代の期待が高まっていることにも危うさがある。医療をいちばん多く使い、間違いの影響をいちばん受けやすい層が、楽観を強めているからだ。期待が実際の性能を追い越せば、最初の大きな事故で信頼はまとめて崩れかねない。
4年前、医療の AI の味方は若者で、慎重なのは高齢者だった。いまはその逆になった。AI が日々の暮らしに入り込むほど、人々の評価は「使ってみたい」から「誰がどこまで責任を持つのか」に移っていく。医療は、その変化がいちばん早く、いちばん鋭く出る場所になっている。




