半導体の Marvell Technology は、10月6日に開いたインベスターデイ(会社のIRページ)で、2031会計年度の売上目標を700億〜900億ドルとした。中央値の800億ドルは市場予想の約1.7倍にあたり、上限の900億ドルなら予想のほぼ倍になる。あわせて、2028会計年度の売上見通しも約200億ドルに引き上げた(KSL が配信した報道)。理由はAIデータセンターの強い需要である。Marvell の会計年度は1月末前後に終わるので、2031会計年度はおおむね2030年2月から2031年1月までになる。
要するに、カスタムのAIチップと光の需要について、会社が投資家の想定を大きく超える数字を出したということだ。
数字の大きさ:会社の目標と市場予想の差
目標の幅は200億ドルある。下限の700億ドルでも市場予想を大きく上回る。中央値が予想の約1.7倍という比率から逆算すると、市場の予想はおよそ470億ドル前後だったことになる(本紙の計算で、予想の出所や集計方法は確認できていない)。
2028会計年度の約200億ドルから2031会計年度の目標までは3年ある。単純計算で、売上は3.5〜4.5倍になり、年平均の成長率は約52〜65%になる(これも本紙の計算)。すでに大きくなった半導体の会社が、さらに3年続けて毎年5割以上伸びるという前提である。
ここで扱う目標は、会社が自分で出した中期の数字だ。決算の実績ではなく、SEC に出した業績の見通しとも性質が違う。市場予想とのずれは、需要が予想より強いという会社の見方を示すものであり、そのとおりに売上が上がることを保証するものではない。
柱はカスタムのAIチップと光
伸びの中心は2つある。1つは、ハイパースケーラーが自社で設計するAI向けの専用チップ(カスタムシリコン)で、Marvell はその設計と製造の受託を担う。もう1つは、データセンターの中でGPUやアクセラレータ同士をつなぐ光の接続で、電気の信号を光に変える部品と、その制御チップがこれにあたる。
この2つは、AIの計算の規模が大きくなるほど需要が増える。汎用のGPUだけでなく各社が専用のチップを持とうとすれば、設計の受託が増える。クラスタが大きくなれば、チップ同士をつなぐ光の帯域も増やさなければならない。今回の目標は、この両方が数年にわたって投資家の見込みより速く伸びるという賭けである。どの顧客の分がどれだけ含まれるか、カスタムチップと光の内訳がどうなっているかは、今回確認できた資料の範囲では分からない。
前提になる需要:エージェントが使う計算
強気の数字の裏には、AIの計算需要が伸び続けているという足元の材料がある。本紙の既報では、Epoch AI が10月5日に、OpenAI の社内でコーディングエージェントの利用がおよそ毎月倍になっていると分析した。8月中旬には、研究者1人あたりの推論費用が中央値で1日601ドルに達している。Google の Gemini 4 Argon は、1つのタスクで約6.2万トークンを出力し、GPT-6 Astra のほぼ倍を使う。モデルの単価が下がっても、エージェントが長く動くほど、データセンターで必要な計算と通信は増える。
ただ、同じ材料には逆の読み方もある。Epoch は、この倍々のペースは「おそらく持続できない」とも書いている。Marvell の2031会計年度の目標は、こうした伸びが鈍ってもなお続くことを前提にしている。前提が崩れたとき、最初に響くのは、中期の目標を高く掲げた側である。
次の確認点
目標が妥当かどうかは、ほかの会社の数字と合わせて見ていく必要がある。10月8日には TSMC の9月の売上と Samsung の暫定決算が出る。10月12〜15日には、データセンターの機器の標準化を話し合う OCP Global Summit が開かれる。10月15日には TSMC の決算がある。カスタムチップの製造を受け持つ TSMC の設備投資の見通しと、光の接続の量産の計画が、Marvell の数字と同じ方向を向いているか。それが最初の検証になる。
今回の目標は、AI のインフラ投資がまだ伸びる余地があるとする、供給側からの数字の主張である。市場は、その需要を予想の約1.7倍と見積もり直すかどうかを問われている。




