エージェントに代わりに買い物をさせる仕組みで、9月の最後の2週間に正反対の判断が2つ出た。9月21日、Amazon は Meta の買い物エージェント Muse を自社の店から締め出した。その1週間後の9月28日、Shopify はブラウザで動くエージェントが、自社の上に立つ店のチェックアウトを最後まで進められるようにした。一方は扉を閉め、もう一方は決済の画面まで開いたことになる。
2社の違いは、技術の成熟度や安全性への考え方の差から生じたものではない。それぞれが何で稼いでいるかの差である。Shopify の収入は、店で動いた取引額と決済サービスの Shop Pay から入る。そのため、客が人間でもエージェントでも、買い物が増えれば Shopify の売上も増える。Amazon は広告で年680億ドルを超える額を稼いでいる。売り場を眺める客がいるから、この広告収入が成り立つ。エージェントが検索結果とスポンサー枠を素通りしてカートに直行すれば、その収入の土台が削られる。
Shopify が開いたもの——WebMCP でチェックアウトまで
Shopify は開発者向けの更新履歴で、チェックアウトで WebMCP に対応したと発表した。WebMCP は、ウェブページが自分の操作をツールとしてブラウザのエージェントに渡すための仕組みである。これまでのブラウザのエージェントは、画面を読み取ってボタンの位置を推し量り、入力欄を一つずつ埋めていた。WebMCP に対応したページでは、エージェントがページの用意した手続きを直接呼び出せる。Search Engine Journal によれば、Shopify はこの対応を店頭の側から決済の工程にまで広げた。
Shopify でエージェント経由の買い物を担当するスタッフ・プロダクトマネージャー、Gil Greenberg は発表の日にこう書いている。
Shopping with an agent shouldn't feel like watching paint dry. 🥱 Today, we're launching WebMCP support for checkout.
訳: エージェントとの買い物で、ペンキが乾くのを眺めるように待たせてはいけない。今日、チェックアウトでの WebMCP 対応を始める。
Greenberg が問題にしているのは待ち時間である。エージェントが画面を手探りで操作しているあいだ、客はそれを眺めて待つしかない。チェックアウトは、住所、配送方法、支払い手段の入力が続くので、画面操作型のエージェントがもっとも手間取る工程だった。Shopify はここをエージェントが読める形で差し出した。TechCrunch も、ブラウザのエージェントにチェックアウトを開いた点を中心に報じている。
押さえておきたいのは、Shopify がどのエージェントを通すかを選んでいないことだ。WebMCP はブラウザの側の仕組みなので、どの会社のエージェントでも、対応するブラウザで動いていれば同じ入口を使える。Shopify にとって大事なのは、取引がどこで成立するかである。客をどこから連れてくるかは問わない。
Amazon が閉じたもの——Muse の締め出し
その1週間前、Amazon は逆の手を打った。The Register によると、Amazon は Meta の Muse が自社の店で客に代わって買い物をすることを認めなかった。理由について、Amazon の広報担当者は次のように説明している。
We think it's fairly straightforward that third-party applications that offer to make purchases on behalf of customers from other businesses should operate openly and respect service provider decisions.
訳: 客に代わって他社の店で買い物をすると称する外部のアプリは、身元を明かして動き、サービスを提供する側の判断を尊重すべきだ。これはごく当たり前のことだと考えている。
この発言は2つのことを求めている。エージェントは身元を明かすこと、そして店の判断に従うことである。表向きは透明性とルールの話に見える。ただ、実質的には、どのエージェントを自社の売り場に入れるかを Amazon が決めるという宣言でもある。Amazon は以前から、外部のエージェントの出入りに条件を付ける方針(エージェントポリシー)を取ってきた。今回の Muse への措置も、その延長にある。
Muse は締め出された直後も止まらなかった。Meta は9月23日の Connect で、Muse の接続先に Walmart、Best Buy、Sephora、Wayfair を加え、決済の手段として Shop Pay と PayPal も加えた。利用は無料のまま、取引から小さな手数料を取る計画だという。Amazon に断られたエージェントは、Amazon と競う小売と Shopify の決済の側へ流れた。そこで Shop Pay の名前が出てくるのは偶然ではない。
なぜ稼ぎ方で分かれるのか
エージェントが買い物を代行すると、客と店のあいだから「売り場を見て回る」時間が消える。この時間を誰が収入に変えているかで、エージェントが損になるか得になるかが分かれる。
取引額で稼ぐ側——来るエージェントが多いほどよい
Shopify の主な収入は、店の売上に連動する決済の手数料、特に Shop Pay である。Shopify の上の店の検索結果に広告を並べて稼いでいるわけではない。売り場の眺めが失われても、Shopify の失うものは小さい。逆に、エージェントがチェックアウトでつまずいて買い物を諦めれば、その取引の手数料が丸ごと消える。Greenberg が「待たせてはいけない」と言うのは、待ち時間がそのまま取りこぼしになるからである。The AI Insider は、Shopify の動きを、競合がエージェント経由の買い物を塞いでいる中での対照的な一手として位置づけている。
広告で稼ぐ側——素通りされると困る
Amazon の広告は、検索結果のスポンサー枠や商品ページの関連枠を客が目にすることで成り立つ。年680億ドルを超える広告収入は、客が Amazon の画面の上で迷い、比べ、寄り道することへの対価である。外部のエージェントが条件に合う商品を直接カートに入れれば、その寄り道は起きない。売上が同じでも、広告の枠は誰にも見られない。Amazon にとって外部のエージェントは、売上を運んでくる客であり、同時に広告の在庫を消す存在でもある。
だから Amazon は、エージェント経由の買い物そのものを否定しているわけではない。Amazon は自社の買い物アシスタント Rufus を持っている。自社のエージェントなら、何を薦めるか、どの枠を見せるかを自社で決められる。問題になるのは、Meta のように自分の客の入口を持つ他社のエージェントが、Amazon の売り場を単なる在庫と配送の窓口として使うことである。
入口を持つ者どうしの争い
Meta が Muse で、取引から小さな手数料を取ろうとしている点も見落とせない。Muse は、客の意図を最初に受け取る入口になろうとしている。その位置を取れば、どの店で買わせるかを Muse が決められる。広告で稼ぐ Amazon にとって、これは客の最初の接点を奪われることを意味する。Meta 自身も広告の会社である以上、Amazon が警戒するのは当然と言える。
OpenAI も同じ入口を狙っている。ChatGPT は10月1日、買い物の画面に服の仮想試着を加えた。試着の段階まで ChatGPT の中で済めば、客が店のサイトを開くのは決済の瞬間だけになる。エージェントを持つ側は、買い物の手前の工程を次々と自分の画面に取り込んでいる。
この構図では、店の立場が2つに割れる。入口をエージェントに取られても取引さえ自分のところで成立すればよい店は、Shopify と同じように扉を開く。入口そのものを収入に変えてきた店は、Amazon と同じように扉を閉じるか、自社のエージェントだけを通す。Shopify の上の数百万の店は前者に、Amazon は後者に属する。
次に見るべきもの
この分かれ方が続くかどうかを測る材料は3つある。1つ目は、WebMCP に対応したブラウザのエージェントが実際に Shopify の店でどれだけ取引を成立させるか、Shopify が数字を出すかどうかである。2つ目は、Amazon が身元を明かすエージェントにどこまで条件付きで扉を開くかである。条件の中に広告の表示が入るのか、手数料が入るのかで、Amazon が何を守ろうとしているかが見える。3つ目は、Walmart のように広告事業を伸ばしている小売が、どちらの側に立つかである。Walmart は Muse の接続先に名を連ねたが、自社の広告収入が育つほど Amazon と同じ計算に近づく。
エージェントに店を開くかどうかは、今のところ安全性や技術の問題として語られることが多い。だがこの2週間の判断を並べると、答えを決めているのは貸借対照表のほうである。取引額で稼ぐ会社は、エージェントを客として迎える。広告で稼ぐ会社は、エージェントを、売り場を見ないまま通り過ぎる者として扱う。




