ロボアドバイザーの次に来た「AIワークフォース」という選択
証券会社や独立系投資顧問業者(RIA)の間で、顧客向け自動運用サービスである従来型のロボアドバイザーとは異なる、社内実務そのものを担う「AIワークフォース」の導入が進み始めている。米大手RIAのMariner(Mariner Wealth Advisors)は、AI人材サービス企業Humanity Labsと提携し、700体規模のAI FTE(フルタイム換算のAI労働単位)を導入すると報じられた。InvestmentNewsによれば、Humanity Labsの価格設定はAI FTE1体あたり年間5万ドルで、700体を導入した場合の年間コストは約3500万ドルに達する計算になる。
Marinerは今年に入り2000人超のアドバイザーを抱えると公表しており、CEOのMarty Bicknell氏は2027年までにアドバイザーを5000人体制にする目標を掲げている。今回のAIワークフォース導入は、その拡大戦略を支える基盤投資と位置づけられている。
対象業務は「顧客対応の代替」ではなく「事務作業の肩代わり」
今回導入されるAI FTEが担うのは、クライアントのオンボーディング、口座開設、コンプライアンス審査、クライアント向けレポート作成、請求書処理(billing)、見込み客のオンボーディングといった一連のバックオフィス業務だ。いずれも人間のアドバイザーが直接顧客と向き合う業務ではなく、データをスプレッドシートやシステム間でコピーするような定型作業が中心となる。
Humanity Labsの社名の由来について、同社は「未来の仕事は人間のものであり続けるという考えから名付けた」と説明している。Humanity Labsで富裕層向け事業のマネージングディレクターを務める、元Osaic幹部のDimple Shah氏は「AIワークフォースは、コストを線形に増やさずに収益成長率や利益率の目標達成を加速できる。これは業界が長年抱えてきた課題への解決策になる」と述べている。Humanity Labsが提携する資産運用会社全体の運用資産(AUM)は7500億ドルを超えており、Marinerはその中でも大きな割合を占める提携先とみられる。
ロボアドバイザー型スタートアップとの戦略的対比
この動きが興味深いのは、従来のロボアドバイザー系スタートアップが目指す方向性と正反対である点だ。Rangeのようなロボアドバイザー型RIAは、AIを使って人間アドバイザーそのものを置き換える方向に舵を切っている。一方でMarinerとHumanity Labsは、AIに定型実務を任せることで人間アドバイザーの生産性を引き上げ、最終的にはアドバイザーの人数と役割をむしろ拡大する道を選んでいる。
Humanity LabsのPop氏(同社経営陣)は「人間がやりたくない作業をAIに任せることで、人間は判断力、センス、人との関係構築といった、人間にしかできない仕事に集中できる。それこそがアドバイザー本来の仕事であり、今後さらに重視されていくはずだ」と述べている。この発言は、AIが人間の職務を代替する「digital labor」という概念が、証券・資産運用業界では必ずしも人員削減とイコールではないことを示す事例といえる。
業界全体に広がるAI関連ポジショニングの動き
資産運用業界のAIシフトは、社内業務の自動化にとどまらない。CNBCが報じたJavelin Wealth Managementの見解では、ポートフォリオをAIの「土台となるインフラ」、いわゆる“ピック・アンド・ショベル”企業に寄せる動きが進んでいるとされる。これは投資対象としてのAI関連銘柄への言及であり、Marinerのような事例とは切り口が異なるが、資産運用業界全体でAIが投資判断の軸にも、社内業務効率化の軸にも組み込まれつつある実態を裏付けている。
証券会社やRIAにとって、AI FTEの単価(年5万ドル規模)は、今後の投資判断における一つの目安になり得る。700体で3500万ドルという規模感は、中堅以上のRIAが自社の業務量とコストを比較検証する際の具体的な参考値となるだろう。
今後の焦点は「AI Tokenomics」と人員体制の両立
Marinerの事例が示すのは、AIワークフォース導入の是非が単純な人員削減の話ではなく、AIコストと人的資本投資をどう両立させるかという「AI Tokenomics」的な経営判断に近づいている点だ。年間3500万ドルというコストを、アドバイザー5000人体制という成長目標とどう釣り合わせるかは、今後の業績開示で検証されることになる。
証券・資産運用業界では、ロボアドバイザーが顧客接点の自動化を追求した第一段階から、社内実務全体を巻き込む第二段階へと、AI活用の焦点が移りつつある。Mariner以外の大手RIAや証券会社が同様の「AI FTE」型投資に追随するかどうかが、今後数四半期の業界動向を占う材料になりそうだ。




