人工知能(AI)が自律的にタスクをこなす「AIエージェント」を巡るM&Aが世界的に活発化している。米CBインサイツの調査によれば、2025年7〜9月期のAIスタートアップに対するM&A件数は172件と、同年4〜6月期の181件に次ぐ四半期ベースで過去2番目の水準に達した。同期間の大型エグジット上位5件のうち3件がAIエージェント関連の案件で占められており、既存の法人向けソフトウエア企業がAI導入を加速するために買収を進める構図が鮮明になっている。日本経済新聞の報道では、米国拠点スタートアップのM&Aがエグジット全体の59%を占め、21年4〜6月期以降で最高水準に達したと伝えている。
ワークデイ・NiCE・アトラシアンが買収ラッシュ
人事・財務ソフトウエア大手の米ワークデイは、AI活用のeラーニングを手掛けるスウェーデンのサナラボ(Sana Labs)を11億ドルで買収した。ワークデイは同四半期にエージェント構築ツールの米フローワイズ(Flowise)とAI採用プラットフォームの米パラドックス(Paradox)も買収しており、計3社の買収数は米セールスフォースの4社に次いで業界2位となった。法人向けソフトウエアの米ナイス(NiCE)はカスタマーサポート新興の独コグニジー(Cognigy)を9億5500万ドルで買収し、豪アトラシアンはAIブラウザ「Arc」「Dia」を手掛ける米The Browser Companyを6億1000万ドルで取得した。いずれも自社製品にエージェント機能を組み込む「頭脳の内製化」戦略の一環と位置づけられる。
メタは22年以来初の買収、Manusに20〜30億ドル
米メタは公表ベースで22年以降初めて他社を買収したと報じられ、音声AIの米プレイAI(Play AI)と米ウェーブフォームズAI(WaveForms AI)を傘下に収めた。さらにロイターによれば、25年12月29日には中国発の汎用AIエージェント企業Manus(マヌス)の買収を発表、評価額は20億〜30億ドルとされる。自社プラットフォームへの高度なエージェント機能組み込みを狙った動きで、生成AI覇権を巡る競争が地域や国籍を越えて広がっていることを示す。
OpenAIとServiceNowも相次ぎ買収
OpenAIは26年6月11日、クラウド開発環境のスタートアップOna(旧Gitpod)の買収を発表した。BiGGoニュースによれば、Onaが持つ安全に事前設定されたAIエージェント実行環境技術をコーディングエージェント「Codex」に統合する狙いで、同時期のCodex値下げ施策とあわせ、Anthropicとの顧客争奪戦が激化している。一方、ServiceNowは26年3月、イスラエルのAIスタートアップTraceloopを買収したとDigital Todayの報道で明らかになった。買収額は非公表だが、現地報道では6000万〜8000万ドル規模とみられ、AIエージェントの動作を追跡・可視化する「可観測性」機能の強化が目的とされる。
日本でもSierraとHEROZが買収発表
国内でも同様の動きが広がっている。カスタマー対応向けAIエージェントを手掛ける米Sierraは、東京拠点のエンタープライズAI企業、株式会社OPERA TECHを買収したとSierra公式ブログで発表した。OPERA TECHの共同創業者である森川馨太氏、國井清人氏は日本の大手企業を数多く支援してきた実績を持ち、Sierraはこれを足がかりに国内エンタープライズ市場への浸透を狙う。Sierraの導入事例では、Rocket Mortgageで月間10億ドル規模の融資手続き完了率が従来の4倍に、Cignaで患者認証時間が80%短縮するなど、実運用での効果が示されている。また将棋AIで知られるHEROZは、スタートアップ向けバックオフィスBPOを手掛けるAKMコンサルティングの株式70%を、普通株式105百万円と費用35百万円を合わせた計140百万円で取得し子会社化すると発表した。株式譲渡実行日は26年5月1日を予定し、AIが自律的に業務を遂行する「AI BPaaS」戦略の一環と位置づけている。件数は小規模ながら、バックオフィス領域のドメイン知見をAIエージェントに置き換える前提の買収として注目される。

