インフラ & セキュリティ確認済

FX自動売買のクラウドで口座の鍵が盗まれた恐れ まずセッションを切る

連載「漏洩の手口と、いまできる守り」第5回。お名前.com デスクトップクラウドで影響の可能性は26,739件。パスワードを変えても既存の接続が残る場合がある。いま使っている人が上から順にやることと、続ける人の平常時の備え

田中 誠一|2026.10.27|22分|更新: 2026.10.27

「お名前.com デスクトップクラウド」で影響の可能性があるサーバーは26,739件。GMO によると、保存されていた FX 口座のログイン情報が取得され、不正に使われた可能性があり、パスワードを変えても既存のセッションが残る場合がある。利用者は今日、FX 会社に連絡してセッションを全部切り、FX に使っていない端末からパスワードを変える。

Key Points

FX自動売買のクラウドで口座の鍵が盗まれた恐れ まずセッションを切る

GMOインターネットのクラウドサービス「お名前.com デスクトップクラウド」で不正アクセスが起き、影響の可能性があるサーバーは26,739件にのぼる。これは被害が確認された数ではなく、保存されていた情報が影響を受けた可能性がある数だ。その情報には、取引ツールに保存された FX の取引口座のログイン情報が含まれる。

10月21日以降、利用者から、取引口座で身に覚えのない操作があったという報告が GMO に寄せられた。共同通信は10月25日、大阪府の会社員が一晩で約180万円を失った(残高約300万円が約120万円に)と報じた。被害の総額と件数は公表されていない。

何が起きているか — 預けた Windows に置いた口座の鍵

このサービスでは、クラウド上の Windows を借りて、手元のパソコンを消していても FX の自動売買ソフト(MT4・MT5)を24時間動かせる。ITmedia NEWS(10月21日)は、料金は月2,640円から、契約は累計20万以上と報じている。

構造は3段になっている。手元のパソコンからクラウドの Windows(MT4/MT5、EA=自動売買のプログラム、保存したログイン情報)につなぎ、そこから FX 会社のサーバーで取引する。お金があるのは FX 会社の側で、クラウドの Windows に置いてあるのは「口座に入る鍵」だ。

無人で動かすには、鍵を置いておくしかない。MT5 は「パスワードを保存」にすると、起動時に最後の口座へ自動で接続する(MetaQuotes の公式ヘルプ)。毎回ログアウトする運用は自動売買と両立しないので、守りの中心は「鍵を盗まれても被害を小さくする」ことになる。

GMO の発表による時系列

GMO の発表は、GMOインターネットとお名前.com の告知ページに順に出ている(第2報、第3報、第4報、第5報、第6報(英語版)、第7報)。以下の第◯報は、GMO が付けている番号だ。

10月24日 11:50 の第4報で、GMO は自社のシステムの問題を認めた。持ち出された情報の種類と人数は書かれていない。

本サービスのシステムにセキュリティ上の問題が存在し、本サービスの環境に対する不正なアクセスと、お客様の情報が外部に持ち出された事実を確認しております。

GMOインターネット「お名前.com デスクトップクラウド」に関する第4報

第4報によると、攻撃者とみられる者は金銭を要求し、国内外の70を超える証券会社・FX 会社などの口座で不正な取引を続けると脅した。GMO は支払わず、警察のサイバー犯罪の部署に届けた。第7報では、第1報の時点で約80億円の要求があったと説明している。

第7報(10月26日)によると、GMO は攻撃者とみられる者から、10月27日 12:00に利用者の情報を公開し、ランサムウェア攻撃を行うという予告を受けた。これは予告で、実行は確認されていない(本稿の確認時点は10月27日 9:00)。政府の関係機関には、能動的サイバー防御に関する措置の実施を含めて要請を進めるとしているが、措置が発動されたとは書かれていない。

代表の熊谷正寿氏は10月25日のブログで謝罪し、社内のホワイトハッカーが事前にこのサービスの改善点を現場に指摘していたと説明した。現場は指摘を受け入れて対策を始めていたが、サービスの継続などとの兼ね合いで対応の深さと速さが足りず、そこを突かれたという。いつ・何を指摘したかは書かれていない。

GMOクリック証券は10月26日、不正アクセスはデスクトップクラウドで起きたもので、同社の取引サービスで起きたものではないと発表した。GMOインターネットと GMOクリック証券は別の会社だ。

現時点において、本件に関連したお客さまの口座における不正な操作は確認されておりません。

GMOクリック証券「お名前.com デスクトップクラウド」への不正アクセスに関するお知らせ

サーバーを止めても、パスワードを変えても終わらない理由

GMO は10月21日から全プランのサーバーを順に止めた。それでも、すでに外へ持ち出された鍵があれば、それは消せない。攻撃者が別の場所から FX 会社に入れるなら、取引は続けられる。

しかも、パスワードを変えてもすぐには締め出せないことがある。第3報はこう書いている。

パスワードを変更した後も、証券会社・FX会社等のサーバーの仕様によっては、一定期間、既存の接続セッションが維持され、第三者が継続的に取引できる場合があります。

GMOインターネット「お名前.com デスクトップクラウド」に関する第3報

パスワードの変更と、ログイン中の状態(セッション)の切断は別の作業だ。だから GMO は第4報で、主要な取引所・証券各社に、このサービス経由のアクセスの遮断、全アクティブセッションの強制切断、不正取引の緊急の監視と抑止を要請した。

逆向きの問題もある。EA に組んだ損切りは、クラウドの中で EA が動いている間しか働かない。クラウドを止めれば、損切りも止まる。

2段階認証が守る場所と、守れない場所

ここからは一般論で、今回の侵入経路と断定するものではない。認証の扉は、①GMO の管理画面、②クラウドの Windows への接続、③FX 会社の口座、の3つがある。どの扉の2段階認証かによって、守れるものが違う。

2段階認証は、新しくログインするときの扉だ。盗まれたのがパスワードだけで、FX 会社が毎回のログインで2段階認証を求めるなら、大きな守りになる。一方、ログイン済みのセッションを使われたり、ログイン済みのソフトをそのまま操作されたりすると、2段階認証の出番は来ない。

MT5 には、Google Authenticator などのアプリに30秒ごとに出る数字を使う2段階認証(ワンタイムパスワード)がある。ただし、FX 会社のサーバー側で有効になっていないと使えない(MetaQuotes の公式ヘルプ)。使えるかどうかは、自分の FX 会社に確かめる。

手口は違うが、Okta の事例もログイン済みの証しを盗まれたものだ。2023年11月3日の報告によると、サポートの仕組みに入られて134社のファイルが見られ、その一部(HAR ファイル)に入っていたセッションの鍵(トークン)で、5社の正規のセッションが乗っ取られた。原因は、社員が会社のパソコンの Chrome に個人の Google アカウントでログインし、そこにサービス用アカウントの ID とパスワードが保存されていたことだった。

今日やること:いま使っている人が、上から順に

いま使っている人が、上から順にやること
出典: 人間不要新聞編集部(GMOインターネット 第3報〜第7報をもとに作成)

図1は、いま「お名前.com デスクトップクラウド」を使っている人が、上から順にやることを5つにまとめたものだ。社員や取引先から相談を受けた情シスの担当者も、この順で案内できる。細かい手順は次のとおり。

当社がパスワードや認証コードをお尋ねすることはありません。

GMOインターネット「お名前.com デスクトップクラウド」に関する第7報

補償の申し込みに備えて押さえること

クラウドで自動売買を続けるときの備え

クラウドで自動売買を続けるときの備え
出典: 人間不要新聞編集部(GMOインターネットの発表・MetaQuotes の公式ヘルプをもとに作成)

図2は、クラウドで自動売買を続ける人が平常時に整えておくことを5つにまとめたものだ。サービス側の問題は利用者だけでは防げないし、どれもこれで守れるという保証ではない。それでも、鍵が盗まれたときの被害の大きさは変わる。

クラウドの Windows に置くもの

FX 会社の側で設定するもの

止め方を決めておく

自動売買以外で、同じ形の鍵を探す

無人で動かすために、長く使える鍵を他人の環境に置く形は、FX に限らない。情シスの担当者は、自社の持ち場で次の鍵を書き出しておく。

入られた後に被害を小さくする — 最初の5分

被害が疑われたら、最初の5分でやることは4つで、この順に進める。

手元の端末について、GMO は第5報(10月24日 15:00)で、影響も含めて調べていると説明し、手元の端末への対応は二次被害を防ぐための予防的なものだとしている。手元の端末が感染したと確認されたわけではない。それでも第6報のフルスキャンとアカウントの点検は、済ませておく。

GMO は協力に同意した利用者の端末を全国で回収し(10月26日 22:00時点で完了)、GMO グループのホワイトハッカーの部隊が、ランサムウェアを含む不正なプログラムが無いかを調べている。調べてほしい人は、第6報の任意の調査協力に申し出る。

なお、2025年に国内で起きた証券口座の乗っ取り(フィッシングなどでログイン情報を取られたもの)とは、入られた場所が違う。今回は、サービス側のシステムに問題があったと GMO が認めている。利用者の落ち度として扱わず、FX 会社と GMO への連絡と記録を優先する。

分かっていないこと

10月27日 9:00 時点で、次の点は公表されていない。

出典

音声版

YouTube で見る

風刺画: FX自動売買のクラウドで口座の鍵が盗まれた恐れ まずセッションを切る

Editorial Cartoon

本記事がもたらす影響を風刺的に描いたひとコマ漫画

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