AI法改正協議の決裂と規制不確実性の拡大
欧州連合(EU)の人工知能(AI)法改正を巡る三者協議が2026年4月29日、12時間にわたる交渉の末に合意に至らず決裂した。ロイターによると、欧州議会、EU理事会、欧州委員会による協議は来月に持ち越しとなり、2024年8月に施行されたAI法の規制緩和は当面見送られることとなった。この改正案は、欧州委員会のデジタル包括法の一環として提案されており、デジタル分野の複数の規制を簡素化することで、米国やアジア諸国に対する欧州企業の競争力向上を目指していた。
キプロスのEU理事会議長国当局者は「欧州議会との合意に達することは不可能だった」と述べ、協議の困難さを認めた。オランダのキム・ファン・スパレンタク議員は決裂について「大手テック企業はおそらくシャンパンで乾杯している。安全性を重視し宿題をきちんとやった欧州企業は今や規制の混乱に直面している」と批判的なコメントを発表した。世界で最も厳格とされる欧州のAI規制は、技術が子供、労働者、企業、サイバーセキュリティに与える影響への懸念から制定されたが、その見直しプロセスは予想以上に複雑化している。
2023年から続く基盤モデル規制を巡る対立
AI法を巡る対立の根深さは、2023年11月10日に遡る。テクノロジー・リーガル・エッジの報道によると、この時点で既に基盤モデルに対する階層的アプローチについて大規模加盟国が提案撤回を求め、交渉が「破綻」していた。欧州議会のブランド・ベニフェイ議員は当時の協議を「複雑」と表現し、議会側は基本的権利保護において譲歩しない姿勢を明確にしていた。
争点となったのは、第5条の禁止事項、基本的権利影響評価(FRIA)、国家安全保障の適用除外、遠隔生体認証ID禁止、法執行機関による高リスクシステム登録、輸出制限など多岐にわたる。市民社会団体のEDRiのサラ・チャンダー氏は、加盟国が議会提案に抵抗していることへの懸念を表明し、基本的権利保護の後退を警戒している。このような対立構造は現在まで続いており、今回の改正協議決裂の背景となっている。
産業加速法案が生む新たな貿易摩擦
AI法改正と並行して進められている産業加速法案が、新たな国際的な緊張を生んでいる。ユーロニュースによると、同法案は電気自動車について70%、アルミニウムとセメントについて25%のEU製部品含有率要求を設定している。欧州委員会のステファン・セジュルネ産業担当委員は法案発表時に「納税者の資金を欧州生産に向けることで雇用を創出し、依存関係を減らし、経済安全保障と主権を強化する」と述べた。
この法案の背景には、2024年以降にエネルギー集約型産業と自動車部門で20万人以上の欧州の雇用が失われ、今後10年間で自動車製造だけで60万人の雇用喪失が予測されているという深刻な状況がある。EUのGDPの約15%を占める公共調達を自国産業支援の手段として活用し、欧州市場で製造された製品への需要を大幅に誘導する戦略だが、この保護主義的な内容が国際的な反発を招いている。
中国の正式抗議と対抗措置の警告
チャイナ・デイリーによると、中国商務部は4月25日(金曜日)に欧州委員会に対して正式なコメントを提出し、産業加速法案への重大な懸念を表明した。同部報道官は月曜日、「この法案は中国企業に対して深刻な投資障壁と制度的差別を生み出す」と述べ、EUが推進を続ける場合は対抗措置を講じると警告した。
中国側が特に問題視しているのは、バッテリー、電気自動車、太陽光発電、重要原材料の4つの戦略的新興分野における外国投資に対する多数の制限要件と、公共調達および支援政策における「EU原産地」独占条項の導入だ。中国は外国投資家に対する差別的要件、現地調達義務、知的財産・技術の強制移転、公共調達制限の撤回をEUに求めている。この対立は単なる二国間問題にとどまらず、米国、日本、英国も同法案の保護主義的傾向に懸念を表明している。
欧州内部での政策対立と産業界の反応
産業加速法案は欧州内部でも大きな議論を呼んでいる。報道によると、自由貿易志向の強いスウェーデンやアイルランドなどの加盟国、そして産業団体からも強い反対の声が上がっている。スウェーデンのウルフ・クリステション首相は2月に「欧州企業を競争から守るために『ヨーロッパ製品を買おう』という措置を使うべきではない」と警告し、「欧州は保護ではなく品質と革新によって競争しなければならない」と述べた。
一方で、AI規制の複雑化が予期しない機会を生む可能性も指摘されている。AgFunderNewsの分析では、AI法が文書化、監査可能性、独立した精査を可能にするシステムを市場に促進し、特に高リスクアプリケーションが指定される物理世界での用途において、食品システム、生物学、化学、健康、材料、エネルギー、気候などの分野でディープテック系スタートアップに構造的な「ブリュッセルの堀」を提供する可能性があると論じている。
最終採択は2027年半ば以降に延期
Censor.NETの報告によると、産業加速法案の最終採択は早くても2027年半ばから後期になる見通しで、それまでに欧州議会とEU理事会での議論が継続される。製造業支援、サプライチェーンの現地化、産業プロジェクト立ち上げの合理化が同法案の主要手段となるが、AI法改正の遅れと相まって、欧州の技術政策全体に長期的な不確実性をもたらしている。企業は複数の規制フレームワークが同時進行する中で、コンプライアンス戦略の策定に苦慮している状況だ。



