企業向けAIエージェントの競争軸が、単発タスクの自動処理から業務プロセス全体を自律的に遂行する方向へ移りつつある。日本オラクル、Manus、Googleが2026年に相次いで発表した最新アップデートは、いずれも「人手による部門間調整」を代替する深さを競う内容だった。
Oracle AI Agent Studio、22の業務エージェントに4種追加
日本オラクルは2026年7月30日の説明会で、Oracle Fusion Agentic Applicationsの最新動向を公表した。同社理事の中山耕一郎氏によれば、Oracle Fusion Cloud Applicationsは2023年からAI統合を進め、2026年は「自律型企業」実現に向けたエージェント型アプリケーション提供の本格フェーズに入ったという。既存の22エージェント型アプリケーションに加え、「在庫プランニング・コマンドセンター」「生産準備ワークスペース」「サプライヤー資格ワークスペース」「カンバン管理ワークスペース」の4つを新たに追加した。
デモでは、主力製品の生産能力不足による需要未達リスクを「経営意思決定支援ワークスペース」が検知し、営業・財務・人事など各部門の論点をAIエージェントが自動整理して優先アクションを提示する事例が示された。中山氏は、従来は部門間調整に数カ月〜数週間かかっていた意思決定プロセスをAIエージェントが「圧倒的に短縮」し、意思決定の透明性向上にもつながると説明した。会計・営業・購買・SCMを単一データモデルで扱える点が、業務ごとにシステムが分断されがちな他社ERPとの差別化要素になっているという(クラウド Watch)。
Manus 1.6、完全自律実行でモバイル開発まで対応
2025年12月15日にリリースされた完全自律型AIエージェント「Manus 1.6」は、アーキテクチャを刷新し、より複雑な作業を高い成功率でこなせるようになった。最上位モデル「Manus 1.6 Max」ではタスク成功率が向上し、テストでのユーザー満足度も約20%上昇したとされる。新機能「Mobile Development」により、文章での指示だけでモバイルアプリの要件整理から画面設計、実装、反復改善までを一気通貫で処理できる点が特徴だ。生成したアプリはAndroid・iOS向けに展開可能で、公開前の共有・検証機能「App Sharing and Testing」も備える。軽量版「Manus 1.6 Lite」は無料ユーザーにも開放されている(SHIFT AI TIMES)。OpenAIのDeep Researchを比較対象に据え、複数ステップの業務プロセスを一度の指示で自動遂行できる点を優位性として打ち出している構図は、Oracleが目指す部門横断自動化と同じ方向性を示している。
Gemini 3.7 Flash、3週間サイクルでコーディング・エージェント機能を強化
Googleは前バージョンからわずか3週間という短い間隔で「Gemini 3.7 Flash」を公開した。コーディングとAIエージェント関連機能の強化に加え、初回利用価格を従来比半額に設定したことが特徴で、開発者によるコーディングエージェント用途での試用ハードルを下げる狙いがうかがえる(Ledge.ai)。短期間でのモデル更新は、Agentic CLIや並列タスク実行を前提とした開発現場のニーズに応える動きとみられ、モデル自体の性能競争が価格・更新頻度の競争へと拡張していることを示している。
相互運用の基盤整備が実装を後押し
大和総研が公表した2025年度上半期のAIエージェント動向まとめによれば、こうした個別サービスの深化を支える基盤として、AIとツールを接続するMCP、エージェント間連携を担うA2AやAGNTCYといったプロトコルの整備が進んでいる。同レポートはGoogleの「Gemini Enterprise」「NotebookLM」、Salesforceの「Agentforce 360」、TOKIUMの「経理AIエージェント」なども事例として挙げ、コンテキストエンジニアリングの登場やセキュリティ・ガバナンス機能の強化が2025年度上半期の共通テーマだったと指摘する(大和総研WOR(L)Dワード)。Oracle、Manus、Googleの動きはいずれもこの潮流の延長線上にあり、標準プロトコルへの対応可否が今後のベンダー選定における実質的な基準になりつつある。
業界への影響
部門横断の業務自動化を掲げるOracle、モバイル開発まで自律処理するManus、更新サイクルを短縮するGoogleという3社の動きは、AIエージェントが「補助ツール」から「業務プロセスの担い手」へと役割を変えつつあることを示す。企業がAIエージェントを導入する際は、単機能の性能比較にとどまらず、既存業務データとの統合深度やMCP・A2Aなど相互運用プロトコルへの対応状況を見極める段階に入っている。
