決算シーズンの主役を奪ったAIローテーション
2026年7月半ば、米国株市場では好調な決算発表が相次いだにもかかわらず、話題の中心はAI関連銘柄間の資金シフトだった。CNBCによれば、半導体投資の持続可能性への懸念が強まり、VanEck半導体ETF(SMH)は週間で約9%下落、直近4週間のうち3回目の週間マイナスを記録した。半導体から抜けた資金の多くはハイパースケーラー株に回帰し、Alphabetは水曜に3%上昇した。これはウォーレン・バフェット氏がCNBCのベッキー・クイック氏に対し、バークシャー・ハサウェイによるAlphabet投資を自ら承認したと明かしたことが要因だ。しかしBloombergがグーグルのデータセンター拡張が数カ月遅れていると報じると、上げ幅の大半は消失した。さらに金曜には中国のMoonshot AIが新モデルを発表し、米国勢との性能差を縮めたと表明したことで、市場の警戒感が一段と強まった。
Moonshotの評価額急騰とKimi K3の衝撃
Bloombergの報道によると、Moonshotの企業価値は2025年12月の43億ドルから、わずか5カ月で200億ドルへと急伸した。背景にはZ.AIやMiniMaxといった中国勢の好調な立ち上がりに触発された投資家の資金流入があり、IDG Capital、アリババ、美団(Meituan)、中国国有系ファンドなどが出資者に名を連ねる。Kimi K3公開後、Moonshotの日次売上は少なくとも6倍に急増し、計算資源の逼迫により一時的に新規サブスクリプションの受付を停止する事態となった。同社はK2以降、DeepSeek流の高性能・低コスト・オープンソース路線を踏襲しつつ、自社開発の最適化手法「MuonClip」で学習安定性を高め計算コストを大幅に削減。K2.5とエンタープライズ向けエージェント群の投入を経て、年間経常収益(ARR)は3月に1億ドル、4月に2億ドル、6月には3億ドルに到達したとされる。楊植麟CEOは年末の社内メモで「汎用人工知能はマラソンであり、我々はまだその入り口に立っているに過ぎない」と述べたという。
PE・ヘッジファンドの成果二極化
Private Equity Wireは2026年上半期の総括として、プライベート市場が「勝ち組」と「負け組」に明確に分かれたと指摘する。AIの波に乗って好成績を収めるファンドがある一方、数十億ドル規模の評価損を計上する「ゾンビファンド」も併存しているという。資金調達額自体は総額として増加しているものの、実際には少数の有力ファンドへの集中が進んでおり、平均的な運用者にとっては資金調達環境がむしろ厳しくなっている構図が浮かぶ。
レバレッジETFの人気拡大と海外規制の警戒
Business Insiderによれば、株価指数や個別銘柄の日次値動きを2倍・3倍に増幅させるレバレッジ型・インバース型ETFはかつてないほど規模を拡大している。AI関連銘柄のボラティリティが高まる局面ほどこうした商品への資金流入が増える傾向にあり、一方で欧州を含む海外の規制当局はリスクの高さを問題視し、監視を強めているという。ボラティリティの高いAI相場そのものが、こうしたレバレッジ商品の需要を押し上げる構図になっている。
資金調達競争とモデル性能格差という現実
AI企業への資金流入という点では、Forbesが報じたTogether AIの動向も示唆的だ。同社は7月1日、Aramco Ventures主導で8億ドルのシリーズC調達を実施し評価額は83億ドルに達した。直近四半期の年間ブッキングは11.5億ドルを突破し、オープンモデルの利用量は前年比3倍に伸びたという。競合Fireworksも年換算売上高が10億ドルを超え、前年比5倍に達したとされる。ただしこれらの数字は各社発表の未監査値である点には留意が必要だ。加えてStanfordの「2026 AI Index」によれば、最上位クローズドモデルとオープンモデルの性能差は2024年8月時点の0.5%から、2026年3月には3.3%へと拡大しており、Epoch AIの試算では平均で4カ月、厳格な基準では6カ月の遅れがあるとされる。評価額や売上の急伸だけでファンドの投資判断を評価すると、実際の技術格差というリスクを見落とす恐れがある。
投資マネーの流れをどう読むか
Crypto Briefingが報じたところでは、投資家Neil Rimer氏はAIが生む富がモデル開発企業からアプリケーション構築企業や実装事業者へと分配され得ると述べ、レイ・ダリオ氏らが唱える再分配論と軌を一にするとの見方を示した。市場参加者はAnthropicなど主要AI企業の新規資金調達やパートナーシップ発表を注視しており、こうした動きが今後のファンド成果を左右する材料になり得る。半導体からハイパースケーラー、そして中国勢へと資金が目まぐるしく回転する現状は、AIトークノミクス的な視点、すなわち投資対効果を厳密に見極める姿勢の重要性を改めて浮き彫りにしている。



