AI相場を牽引してきたヘッジファンドの運用実態が、急拡大と急落という両極端な形で報道されている。フィナンシャル・タイムズとCNBCの報道によれば、あるAI特化ヘッジファンドはシード資金わずか2億2500万ドル(約350億円)から2年足らずで運用資産200億ドル超(約3兆1100億円)へと急拡大し、2026年上半期には3桁パーセントのネットリターンを記録したとされる。しかし数週間後、AIインフラ関連銘柄が急落するとプライムブローカーが追加保証金の支払いを求め、CNBCとウォール・ストリート・ジャーナルによれば、保有していた公開株のロング・ショート双方のポジションが一括取引によって別の大手機関投資家に割引価格で売却されたという。Forbes JAPANはこの顛末を単なるAI相場崩壊の物語ではなく、構造的欠陥の問題として分析している。
投資仮説ではなく「構造」が破綻を招いた
Forbes JAPANの分析では、同ファンドの主要保有銘柄は強制売却から数日以内に損失の大部分を回復し、未公開株の残存ポジションも数十億ドル規模の価値を保っていたとされる。つまり投資判断そのものは誤っていなかった可能性が高い。破綻を招いたのは、極端に集中したポートフォリオ、最大4倍に達したと報じられるレバレッジ、そして一貫した上昇局面でしか築かれなかった運用実績という三つの構造的要因だった。レバレッジをかけない集中投資であれば忍耐強い資金配分者は下落を耐えられるが、借入で構築されたポジションは貸し手であるプライムブローカーに主導権を握られ、撤退の価格とタイミングを運用会社自身が決められなくなる点が指摘されている。
香港ヘッジファンドは「守りの一手」に転換
野村のクオンツ戦略家、須田吉貴氏が8月24日付で公表したリポートによると、香港で45人のヘッジファンド投資家(ファンダメンタル型ロング・ショートが約70%)に面談した結果、大半は年初来リターンがプラス圏を維持しつつも、7月のドローダウンを機に様子見姿勢へ転じたことが分かった。BigGoファイナンスによれば、AIポジションはオーバーウエートを維持しつつ新規の買い増しは控える「守りの一手」となっており、投資家はAnthropicが早ければ10月に実施する超大型IPOがSpaceX上場時のような「先高後安」の値動きを再現することを警戒しているという。信用取引の含み損が20%を割り込めば個人投資家の投げ売りが連鎖するリスクも指摘されている。
「AIをロングしながらショートする」バーベル戦略
元OpenAI研究者でヘッジファンドSituational Awareness LP創設者のレオポルド・アッシェンブレナー氏は、CoinDeskの5月18日付報道によれば、2026年第1四半期満期の半導体株プットオプションに想定元本ベースで最大約80億ドルを投じ、NVIDIA、Broadcom、AMD、VanEck Semiconductor ETFを空売りする一方、Core Scientific、Riot Platforms、IREN、CleanSparkなどビットコインマイニング関連株を積極的に買い増している。TradingKeyによれば、過去1年でNVIDIAは63%、Broadcomは81%、AMDは256%上昇しており、同氏はチップの供給過剰リスクを見込みつつも、AGI到達は2027年頃と見立て、AI競争の後半戦を左右するのは電力確保だと主張している。
「世紀の空売り」バーリ氏はファンドを閉鎖
一方で著名投資家の撤退も表面化した。日本経済新聞によれば、2008年のリーマン・ショックで巨額の利益を得たとされるマイケル・バーリ氏が運用するサイオン・アセット・マネジメントは、米証券取引委員会の登録ステータスが10月10日付で「終了」となり、ロイター通信の報道でファンド閉鎖が明らかになった。AI関連銘柄への空売り観測が伝えられていた同氏の撤退は、AI相場の過熱に対する著名投資家の警戒感を象徴する出来事として受け止められている。急拡大した運用実績、守りに転じるアジアのヘッジファンド勢、ロングとショートを併用するバーベル戦略、そして著名ファンドの撤退という複数の動きが同時期に重なった点は、AI関連運用の成果が構造的なリスクと表裏一体であることを示している。

