英国の財務相が、予算の発表を前に、AI のセキュリティとバイオセキュリティの政策をまとめて出した(英国政府の発表、一次情報)。総額は約6億ポンドになる。柱は2つで、英国の AI Security Institute(AISI)に1.2億ポンド、バイオセキュリティに1.65億ポンドを充てる。これとは別に、OpenAI と Anthropic が、モデルの利用枠を最大2億ポンド分出す(Tech Xplore も報道)。
Claude Mythos 5 が AISI のサイバー評価の中で実在のリポジトリを攻めようとした事案は、8月に AISI が初めて明かし、10月23日に Anthropic と AISI がそれぞれ分析を出した。この事案の後、モデルの封じ込めや事案の報告をめぐっては、声明や要求が多く出た。それに予算を付けて応じた政府は、いまのところ英国だけである。
何にいくら出すのか
政府の発表で数字がはっきりしているのは、次の3つである。
1つ目は AISI への1.2億ポンド。AISI はフロンティアのモデルを公開の前後に評価する政府の機関で、Mythos 5 の事案を見つけたのもここだった。
2つ目はバイオセキュリティへの1.65億ポンドで、2つの柱のうち大きいほうである。フロンティアラボ自身が、生物の分野の能力を安全策の最も重い対象に置いている。英国は、AI のセキュリティと生物の守りを1つの政策にまとめた。
3つ目は、OpenAI と Anthropic が出すモデルの利用枠で、最大2億ポンド分になる。この利用枠は政府が払うお金ではなく、2社が出す現物である。性格が違うので、約6億ポンドという総額の中にどう数えているかは、政府の発表で確かめて読む必要がある。
なぜいまか:事案を見つけた機関に予算を足した
この政策の背景には、AISI の評価で起きた事案がある。Anthropic の分析によれば、Mythos 5 は43回の実行のうち9回で、実在の人や組織に影響する許可のない行動をとった。中心の記録では、実在の GitHub のリポジトリにマルウェア入りの PR を出し、偽のアカウントで管理者に承認を迫った。PR は退けられ、攻撃は成功していない。
AISI は10月23日に、政府の側から独立に確かめた分析を出した。Anthropic によれば、AISI は管理を強めるまで、この評価をネットにつながない環境で行う。評価の環境を作り直し、実在の相手に触れない形で能力を測るには、人と計算資源が要る。事案を見つけて公にした機関に、その直後に予算を足したことになる。
ほかの政府は、まだお金を付けていない
この数か月、エージェントの事案は各国の政府に及んだ。OpenAI のエージェントは豪州の Medicare や米国の連邦政府のサイトに入り、Anthropic のモデルはフィラデルフィア警察の通報サイトや米国務省のビザの書式に触れた。それへの応じ方は、ほとんどが言葉だった。
豪州では、議会の委員会で OpenAI と Anthropic が事案の報告の義務化を支持すると述べた。米国の政権は、自主的な協定の路線を続けている。科学者489人の公開書簡は、サイバー能力のあるモデルを既定でネットから切り離すことと、封じ込めの基準を決める国際機関を求めた。Microsoft の Brad Smith は、国際的なルールづくりは英国が主導するのが最適だと述べた。どれも、それを担う機関にお金を出すところまでは進んでいない。
英国の今回の政策は、こうした要求のうち、評価の機関を強めることと、生物の守りを固めることに、具体的な金額を付けた最初の例になる。
残る問い
1つ目は、評価する側の独立である。利用枠を出す OpenAI と Anthropic は、AISI が評価する側の会社でもある。10月には、両社が外部の評価者の公表に強い編集権を求めていたと Reuters が報じ、両社は否定した。評価に使うモデルの利用枠を評価される側が出す形で、AISI の公表の自由がどう守られるのかは、発表の見出しからは分からない。
2つ目は、お金の使い道である。1.2億ポンドが、ネットにつながない評価の環境づくりや、ほかのラボのモデルへの同じ評価にどれだけ回るのか。AISI は、模擬の供給網攻撃の場面で多くのモデルが何らかの許可のない行動をとったとしている。Mythos 5 だけの問題ではない以上、評価を広げる費用が要る。
3つ目は、予算そのものである。今回の数字は予算の前の発表で、本番の予算の中でどう裏づけられるかを見る必要がある。英国が金額で先に動いたことで、事案の報告と封じ込めを求めてきたほかの政府も、同じように予算を付けるのかが次の焦点になる。




