米国の国土安全保障省(DHS)が出した DeepSeek の排除命令が、10月20日付の連邦官報に載った(文書番号2026-21447、一次情報)。根拠は、連邦の調達のサプライチェーンの安全を定めた法律 FASCSA(Federal Acquisition Supply Chain Security Act)である。この法律による排除命令はこれまでにもあったが、AI のモデルを作る会社に向いたのは今回が初めてになる。命令は DeepSeek 自身の製品だけでなく、DeepSeek を組み込んだ他社の製品も撤去の対象にしている。
中国はすぐに反発した。商務部は、米国が米中の首脳の合意を無視していると強く非難し、『必要なあらゆる措置』をとると警告した(商務部の発表、一次情報)。外交部も10月20日の定例の会見でこの件に答えている(外交部)。CyberScoop も、DHS による DeepSeek の禁止として報じている。
FASCSA の排除が、初めて「モデルの会社」に向いた
FASCSA は、連邦政府が買うものや使うものからサプライチェーンの危険を取り除くための仕組みである。この法律にもとづく命令には、これから調達することを禁じる『排除』と、すでに入っているものを取り除かせる『撤去』の2つがある。これまでの対象は、ソフトウェアやハードウェアの供給元だった。
今回の対象は、オープンウェイトの言語モデルを出している中国のラボである。DeepSeek はわずか4日前の10月17日に V4.1-Flash-1017 の重みを MIT ライセンスで出し、エージェント向けの Search API と Fetch API も開いたばかりだった(既報)。Artificial Analysis はこのモデルに Intelligence Index 45 を付け、オープンウェイトの2位タイとした。米国の連邦の調達の仕組みが、能力でフロンティアに迫る中国のモデルを、通信機器やセキュリティソフトと同じ『サプライチェーンの危険』として扱い始めたことになる。
これまで米国の政府機関が DeepSeek を締め出すときは、各機関の端末の利用方針や州の命令が中心だった。今回は、調達の法律という仕組みに乗せた点が違う。一度の決定で、DHS の調達と運用の全体に効く形になる。
組み込んだ他社の製品も撤去の対象に
この命令で実務への影響が最も大きいのは、DeepSeek を組み込んだ他社の製品まで撤去の対象にした点である。DeepSeek のモデルは、DeepSeek のアプリや API から直接使われるだけではない。
OpenRouter の週ごとの集計では、9月半ばの週に DeepSeek V4.1-Flash が15.8兆トークンで首位だった(既報、報道ベース)。Alibaba のクラウドは、10月18日付でモデルの一覧に deepseek-v4.1-flash-1017 を加えている。DeepSeek の Search API は、DeepSeek Harness に加えて Claude Code と Codex からも、11月1日まで無料で使えるとされる(二次情報)。モデルは、ルーターやクラウド、コーディングの道具の裏側に深く入り込んでいる。
撤去の対象が『DeepSeek を組み込んだ製品』に及ぶなら、DHS や取引先は、自分たちの使う SaaS やエージェントの基盤が、裏でどのモデルに要求を振り分けているかまで確かめなければならない。ルーターが仕事ごとにモデルを選ぶ形が広まるほど、この確認は難しくなる。モデルの調達の安全が、ラボとの契約の問題から、組み込みの部品表(SBOM)の問題に変わる。
一方で、執筆の時点では、次の点を確かめきれていない。撤去の期限と施行日の細部。DeepSeek の重みを米国内のサーバで自前で動かす使い方や、DeepSeek のモデルを土台に別の会社が作った派生モデルが対象に入るかどうか。重みは MIT ライセンスで誰でも持ち出せるので、どこまでを『DeepSeek の製品』と見なすかで、命令の重さは大きく変わる。
中国の商務部「首脳の合意を無視している」
商務部の反発は強い。米国の措置は米中の首脳の合意を無視していると非難し、中国企業の正当な権益を守るため『必要なあらゆる措置』をとると警告した。外交部も同じ日の会見で答えた。
時期が重い。中国は輸出規制の第48号公告への意見を11月15日まで受け付け、第49〜51号を11月18日に施行する予定である。10月26〜29日には五中全会があり、米中の超知能をめぐる対話も11月までの予定で続いている(いずれも既報の論点)。商務部が『首脳の合意』をわざわざ持ち出したのは、DeepSeek の排除を個別の調達の話ではなく、両国の約束全体にかかわる問題として扱うという合図と読める。どんな対抗措置をとるかは、まだ示していない。
残る問い
今回の命令で、オープンウェイトのモデルを国家安全保障の調達の枠組みで扱うという前例ができた。次に問われるのは3つである。
1つ目は、命令が DHS の外に広がるかどうかである。FASCSA には、評議会が政府全体の排除を勧めることのできる仕組みもある。2つ目は、DeepSeek 以外の中国のラボ、たとえば Zhipu(Z.ai)や Moonshot に同じ扱いが及ぶかどうかである。Anthropic は9月から10月にかけて、GLM-5.3 のサイバー能力や、蒸留の攻撃について Zhipu と Moonshot を名指ししている(既報)。3つ目は、自前で動かすオープンウェイトの扱いである。ここが対象に入れば、米国の企業が中国のオープンウェイトを土台に製品を作る流れそのものに、連邦の調達の側から歯止めがかかる。
中国の商務部の『必要なあらゆる措置』が何を指すかは、11月18日の輸出規制の施行と、五中全会の後に見えてくるはずである。




