米財務省が、包括的対外投資国家安全保障法(COINS 法)に基づく規則案を出した(財務省のプレスリリース)。Unite.ai と Yahoo News によれば、案は中国などの懸念国の会社のうち、『超知能システム』を開発するところへの米国人の投資を全面的に禁じる。国務省とホワイトハウスが外交の場で使い始めた『超知能』という言い方が、投資規制の条文にまで入ったことになる。中国外交部は10月23日の記者会見で『必要な措置』をとると応じた(外交部の記録)。
何が出たか
COINS 法は、2025年1月に始まった財務省の対外投資の規制に、法律の裏付けを与えるものである。今回の規則案は、その法律を実際に動かすための細則にあたる。
中心になるのは、AI の区分の作り方だ。これまでの規則は、AI を主に計算量で分けてきた。訓練に使った計算がある量を超えるモデルを作る会社への投資は禁止、それより少ない量なら届け出、という形である。今回の案は、それとは別に『超知能システム』を開発する会社という区分を立て、投資を全面的に禁じるとしている。届け出で済ませる道は残さない。
本稿では、規則案の本文にある『超知能システム』の定義、計算量の基準が残るかどうか、意見募集の締め切りは確かめていない。どれも、規制がどこまで届くかを決める部分である。
外交の言葉が、条文になった
この数か月、『超知能』はまず政治と外交の言葉として広がった。トランプ大統領は AI を『Super Intelligence』と呼び、Musk は10月初めに SpaceXAI を『SpaceXSI』に改名して、それに合わせた。国務省とホワイトハウスは、中国との協議を『超知能』をめぐる対話として組み立て、11月までに話し合う日程を置いている。
業界でも同じ言葉が使われている。Meta の研究部門は Meta Superintelligence Labs を名乗り、Microsoft AI は10月22日に『Building Medical Superintelligence』を出した。Hassabis は10月20日に、超知能の安全とセキュリティの課題は『とてつもない』と書いている。
ただ、ここまでは看板と演説の言葉だった。投資規制の条文は違う。米国の投資家は、ある取引が禁止に当たるかどうかを自分で判断し、間違えれば罰を受ける。何が『超知能システム』かを、法律家が読める形で決めなければならない。言葉が初めて、責任と罰則と結びついたことになる。
計算量から目的へ
計算量の基準には弱点があった。効率のよい訓練の方法が出るたびに、同じ能力をより少ない計算で作れるようになる。DeepSeek や Moonshot のように、少ない計算でフロンティアに近いモデルを出す中国のラボは、この線の下をくぐれる可能性があった。
『超知能システムを開発する』という区分は、何を作ろうとしているかで線を引く。計算の量に関係なく網をかけられる。その代わり、判断が難しくなる。研究の目標を掲げただけの会社が入るのか。オープンウェイトのモデルを出す会社はどうか。範囲を広く書けば中国の AI 企業の多くが入りうるし、狭く書けば名前だけの規制になる。
北京は『必要な措置』
中国外交部は10月23日、米国の動きに反対し、自国の企業の正当な権益を守るために『必要な措置』をとると述べた。どんな措置かは示していない。
中国は、米国土安全保障省が DeepSeek を排除したことにも『必要なあらゆる措置』をとると応じており、その中身もまだ出ていない。手元には、意見募集中の輸出規制の第48号(締め切りは11月15日)と、11月18日に施行する第49〜51号がある。投資規制への対抗が、これらの規制の運用にどう結びつくかが次の材料になる。
米中は11月までに超知能をめぐる対話をする予定だった。米国は、対話の議題にしている言葉と同じ言葉で、相手国の会社への投資を禁じようとしている。中国から見れば、対話の前に相手が一方的に線を引いたことになる。
次に見る点
影響がまず出そうなのは、中国の AI 企業の資金集めである。報道によれば、Moonshot(Kimi)は2027年1〜3月期に香港で最大50億ドルの上場を計画し、主幹事に BofA、加えて Goldman Sachs などが入る。DeepSeek については約150億ドルの調達が伝えられているが、会社は確認していない。これまでの規則は、上場株の売買の多くを対象から外していた。新しい区分が上場の引き受けや上場後の売買をどう扱うかで、米国の銀行と投資家が関われる範囲が変わる。
確かめるべき点は3つある。1つ目は『超知能システム』の定義の文言。2つ目は、計算量の基準とどう併存するか。3つ目は意見募集の締め切りと、業界がどう応えるかである。米国の AI 企業自身も、自社を『超知能』の開発者と呼んできた。その言葉が規制の上で何を意味するかが、条文の形で決まり始めている。




