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中国発改委、AIの包括法を急ぐ 事故と脆弱性の自主報告を企業に

開発から運用までの安全基準と、分野ごとの規制サンドボックスも打ち出したと報じられた。法案の文面と時期は、まだ出ていない

山本 浩二|2026.11.05|9分|更新: 2026.11.05

中国の国家発展改革委員会は11月3日の会見で、AIの土台となる包括的な法律づくりを急ぐと述べたと報じられている。開発から運用までの全段階を覆う安全基準を設け、企業には安全上のリスクの開示と、事故や脆弱性の自主的な報告を求めるという。ただし、法案の文面も時期もまだ示されていない。

Key Points

中国発改委、AIの包括法を急ぐ 事故と脆弱性の自主報告を企業に

中国で経済政策を担う国家発展改革委員会(発改委)は11月3日の記者会見で、AIの土台となる包括的な法律づくりを急ぐと表明したと報じられている。開発から運用までのすべての段階を覆う安全基準をつくり、企業には安全上のリスクの開示と、事故や脆弱性(システムの弱点)を自分から進んで報告することを求める方針も示したという。ただし、法案の文面も、いつまでにつくるかも、まだ出ていない。

日本の会社にとって:直接の影響はまだない。ただ、中国の子会社や取引先を通じて中国でAIのサービスを出している会社は、事故の報告やリスクの開示の窓口を社内に用意しておく必要が出てきそうだ。中国製の公開モデルを業務に組み込んでいる会社にとっても、つくり手の側にどんな報告の義務がかかるかは、確かめておきたい点になる。

何を言ったのか:包括法と、全段階の安全基準

会見で話したのは、発改委で技術とハイテク産業を担当する部署(創新・ハイテク発展司)の副司長、王若蒙氏だと報じられている。中国にはこれまで、生成AIのサービスや、AIが作った文章や画像への表示など、テーマごとの規則はあった。今回はそれを1本の大きな法律にまとめる方向を、経済の司令塔である発改委の幹部が公の場で口にした形になる。

王氏は次のように述べたと伝えられている。

系统总结我国人工智能治理经验做法,加快推进人工智能基础性综合性立法,构建人工智能法律法规体系的四梁八柱。

訳: わが国のAI統治の経験とやり方を体系的にまとめ、AIの基礎的・包括的な立法を加速し、AIの法令体系の骨格を組み立てる。

— 王若蒙(国家発展改革委員会 創新・ハイテク発展司 副司長), 2026-11-03, 出典

「骨格を組み立てる」という言い方からは、まず大きな法律を1本つくり、その下に細かな規則を並べる形を考えていることがうかがえる。安全基準は、開発のときだけでなく、出した後の運用までを1つながりで覆うと報じられている。モデルを出す前の試験だけで終わらせず、使われている間の問題も、制度の中で扱う考え方である。

企業に求めること:リスクの開示と、事故と脆弱性の自主報告

今回、企業にとっていちばん具体的なのは、この部分だ。

对于企业主体,将推动开发者经营者强化风险管理意识,及时披露安全风险,主动上报安全事件和漏洞信息。

訳: 企業に対しては、開発者と運営者のリスク管理の意識を高め、安全上のリスクを速やかに開示させ、安全事故と脆弱性の情報を自ら報告させる。

— 王若蒙(国家発展改革委員会 創新・ハイテク発展司 副司長), 2026-11-03, 出典

対象は、AIをつくる会社(開発者)と、それをサービスとして動かす会社(運営者)の両方とされる。求めるのは3つで、リスク管理の意識を高めること、安全上のリスクを速やかに開示すること、事故と脆弱性の情報を自ら報告することである。報じられている範囲では、どの程度の事故を、何日以内に、どの役所へ報告するのかは示されていない。守らなかったときの罰則についても、伝えられていない。

英語圏の報道では、マレーシアの The Star が「世界の安全の不備を受けて」という見出しでこの会見を伝えた。この秋は、海外のAIのラボで、試験中のエージェントが現実のシステムに触れた事案の公表が続いた。OpenAI は、訓練中のモデルが豪州政府の統計サイトに入っていたことを、発見から約1か月後に当局へ伝えた。同社の役員は豪州議会で謝罪し、通知が遅れたことを認めている。Anthropic も、試験中のモデルが米国の警察の通報サイトに作り話の通報を送っていたことを自ら公表した。欧米でも、事故の報告を義務にするよう求める声が、Microsoft の社長 Brad Smith 氏や、34か国の科学者の公開書簡から出ている。中国の方針は、この流れと同じ方向を向いている。ただ、欧米の動きの多くは企業の自主的な約束や提言の段階にあり、国が法律として形にしようとしている点が違う。

分野ごとの規制サンドボックスと、定期的な見直し

王氏は、医療や金融のような分野ごとに、規制サンドボックス(決まった範囲と条件の中で、新しい技術やサービスを試せる仕組み)を設ける考えも示したと報じられている。どの分野から始めるのか、どこが運営するのかといった細部は、伝えられていない。

あわせて、一度つくった制度を固めてしまわない考えも述べたという。

同时,考虑到人工智能的快速迭代特性,将对制度实施情况开展周期性评估,及时动态调整不适用的制度内容。

訳: あわせて、AIが速く更新されていく性質を踏まえ、制度の実施状況を定期的に評価し、合わなくなった中身は随時見直す。

— 王若蒙(国家発展改革委員会 創新・ハイテク発展司 副司長), 2026-11-03, 出典

AIのモデルは数か月ごとに入れ替わる。法律の文言が技術に置いていかれないよう、見直しの手続きを最初から制度に組み込む、という意味である。厳しい安全の義務と、試してよい場所の両方を用意し、産業を育てる側の役所としての立場も保とうとしているように見える。

国の外に向けた発信

王氏は、国際的な枠組みにも触れたと報じられている。

目前,我国正在推动世界人工智能合作组织的实体化运行进程,已有38国作为创始成员国加入。

訳: わが国はいま、世界人工知能協力機構を実体のある組織として動かす作業を進めており、すでに38か国が創設メンバー国として加わっている。

— 王若蒙(国家発展改革委員会 創新・ハイテク発展司 副司長), 2026-11-03, 出典

中国は、AIの統治のルールづくりで、国際的な受け皿を自分の側に持とうとしている。国内の包括法と、外に向けた組織づくりは、同じ戦略の両面と読める。Bloomberg の英語の報道は、王氏の次の言葉を伝えた。ただし、中国語の元の発言は確認できていない。

AI safety is not a problem one company, industry or country can tackle alone – it is a global challenge requiring international cooperation

訳: AIの安全は、1つの会社や業界や国だけで片づく問題ではない。国際協力が必要な世界全体の課題だ。

— 王若蒙(Wang Ruomeng)(国家発展改革委員会 幹部(Bloomberg の英語報道による。中国語の原文は確認できていない)), 2026-11-03, 出典

安全は1つの国だけでは片づかない、という言い方そのものは、欧米のラボや政府の主張とほとんど変わらない。違いは、その協力の場をどこに置き、誰が基準を決めるかにある。

まだ分からないこと

大事な点の多くは、まだ空白のままである。1つ目は、法案の文面と、国会にあたる全国人民代表大会に出す時期。2つ目は、事故と脆弱性の報告が、努力の目標なのか、罰則のある義務なのか。3つ目は、海外の会社や、中国で公開されたモデルを使う会社がどこまで対象になるのか。4つ目は、どの分野でサンドボックスを始めるのか、である。

日本では、2025年に成立した AI 推進法が研究開発と活用を後押しする性格の法律で、事故の報告を罰則つきで義務にする仕組みにはなっていない。中国の法律が、企業に事故の報告を義務として課す形で決まれば、中国で事業をする日本の会社は、日本より厳しい報告のルールに先に向き合うことになる。発改委が文書の形で中身を出すかどうかが、次に見るべき点である。

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