AIスタートアップの資金調達が史上最高レベルで加速している。Dealroomの調査によると、2026年にベンチャーキャピタルがAIスタートアップに投じた資金は既に188億ドルに達しており、2025年創業企業が昨年獲得した279億ドルを上回るペースで推移している。この背景には、Meta、Google、OpenAI等の大手テック企業から優秀なAI研究者が相次いで独立し、投資家が革新的なアプローチに巨額の資金を投入していることがある。
記録破りのシード調達ラッシュ
最も注目されるのは、元Google DeepMindの研究者David Silverが創業したIneffable Intelligenceによる11億ドルのシード調達である。創業から数ヶ月でこの規模の資金調達を実現したことは、AI分野における投資熱の高さを象徴している。同様に、元DeepMind研究者Tim Rocktäschelが創業したRecursive Superintelligenceも最大10億ドルの調達を検討中とされる。
この他にも、元MetaのAI責任者Yann LeCunが創業したAMI Labsが3月に10億ドルを調達し、継続的な実世界データから学習するAIシステムの開発を進めている。フィンテック分野では、住宅ローンブローカー向けAIワークフロー企業Marlooがシードラウンドで1000万ドルを調達し、6つの地域で650社以上の顧客を獲得している。
巨額ラウンドで成長する成熟企業
シード段階を超えた企業でも巨額の調達が続いている。元Twitter CEOのParag Agrawalが創業したParallel Web Systemsは4月29日、シリーズBで1億ドルを調達し、企業評価額は20億ドルに達した。同社はAIエージェント専用のWeb検索プラットフォームを開発しており、従業員約50人で昨年11月のシリーズA(1億ドル、評価額7.4億ドル)から短期間で大幅な評価額向上を実現した。
投資銀行向けAI企業Rogoは4月30日、Kleiner Perkins主導でシリーズDラウンド1.6億ドルを調達した。今年1月のシリーズC(7500万ドル)からわずか4ヶ月での大型調達となり、累計資金調達額は約3億ドルに達している。同社は2021年創業以来、ロスチャイルド、ジェフリーズ、ラザードを含む250社以上の機関投資家顧客を獲得し、今月には自律型AIエージェント「Felix」を発表している。
医療・専門分野での活発な投資活動
医療AI分野でも大型調達が相次いでいる。画像診断AI企業Aidocは4月29日、Goldman Sachs Alternatives主導でシリーズEラウンド1.5億ドルを調達し、総調達額は5億ドルを超えた。同社は昨年も4000万ドルのリボルビング・クレジット・ファシリティを含む1.5億ドルを調達しており、General Catalyst、SoftBank Investment Advisors、NVIDIAのベンチャーキャピタル部門NVenturesが参加している。
法務テック分野では、法律事務所向けAI企業Legoraが4月30日にシリーズD追加ラウンドで5000万ドルを調達し、総調達額は6億ドル、企業評価額は56億ドルに達した。NVIDIAのベンチャーキャピタル部門とソフトウェア企業Atlassianが参加し、Adams Street PartnersとBarclaysも投資に加わった。
大手企業による戦略的投資の拡大
従来のVCに加え、大手企業による戦略的投資も活発化している。BMW i Venturesは4月29日、自動車分野のAIスタートアップ向けに3億ドルの新ファンドを設立した。同ファンドは北米・欧州のアーリーステージからシリーズBまでの企業を対象とし、エージェンティックAI、ロボティクス向け物理AI、産業用ソフトウェア、先端材料、サプライチェーン技術に投資する計画である。
投資家の関心は、大手テック企業の元研究者が持つ「独自の洞察」に集中している。Eurazeoのパートナーによると、これらの創業者は「スケールで何が機能するかを知っており、社内で何が取り残されているかを正確に把握している」ため、そこに機会があるとされる。実際、OpenAI、DeepMind、Anthropic、xAIの元スタッフが創業したPeriodic Labs、Ricursive Intelligence、Humans&等の企業も過去1年間で数百万ドルの調達を実現している。
評価額競争の激化
AI企業間の評価額競争も激化している。Bloomberg報道によると、AnthropicがOpenAIの評価額8520億ドルを上回る9000億ドル以上での資金調達を検討しており、セカンダリーマーケットでは既に1兆ドル以上で取引されている。同社は2月の前回ラウンドで3800億ドルの評価を受けており、わずか3ヶ月で大幅な評価額上昇を実現している。今年後半に噂されるIPOが実現すれば、AI業界の勢力図が大きく変化する可能性がある。



