大統領令と法案が同時進行する連邦プリエンプション
トランプ大統領は2025年12月11日、州レベルのAI関連法の抑制を目指す大統領令に署名した。ロイターによれば、この大統領令第14179号は「人工知能に関する国家的な政策フレームワークの確立」と題され、州法が連邦政策と矛盾・重複することを禁じ、AI開発者の法的責任やアルゴリズム透明性を巡る州独自の厳格な規制を事実上無効化する内容だ。東京財団の論考は、この大統領令が「断片化された規制環境」を排除し中国などへの優位性確保を狙うものと分析している。背景には、州ごとに異なる開示義務や罰則規定が企業のコンプライアンスコストを押し上げ、AI開発競争で米国が不利になるという産業界からの陳情があったとされる。
2026年3月20日にはさらに大統領令第14365号に基づく「国家AI立法フレームワーク」が発表され、連邦への権限集約が段階的に強化された。並行して議会でも超党派4議員が主導する「Great American AI Act of 2026」が提出され、Innovatopiaによると草案は269ページに及び、AIモデルの「開発」を規制する州法を制定日から3年間停止させる時限(サンセット)条項を持つ。提案議員は「今年後半に成立すれば2029年12月ごろ失効する」と説明し、Section 230の轍を踏まないための「強制装置」と位置付けている。この文言は、2000年代にインターネット企業の免責を巡り連邦と州の権限争いが長期化した通信品位法230条の教訓を踏まえたもので、法案起草者は当時のような判例の積み重ねによる規制の空白を避けたい考えだ。
ニューヨーク州の正面からの抵抗
連邦の圧力に対し、州側は独自の対抗策を打ち出している。WSJの報道では、ニューヨーク州のキャシー・ホークル知事が2025年12月20日、AI企業に安全計画の作成・公表・順守を義務付ける新法に署名し、トランプ大統領令を明確に無視する姿勢を示した。州当局者は「連邦の大統領令は州の警察権限を侵害しており、司法判断を仰ぐ用意がある」と述べ、法廷闘争も辞さない構えを見せている。
さらにホークル知事は2026年7月14日、50メガワット以上の大規模データセンターの新規建設を1年間猶予する大統領令にも署名した。BigGoファイナンスによれば、これは全米50州で初めて州全域を対象とした建設中断措置で、州議会通過済みのより厳格な法案(20MW以上を規制対象とし、2050年までにほぼ全電力を再生可能エネルギーで賄うことを義務付け)への署名も検討中とされる。ロイター・イプソス調査では回答者の64%がデータセンター建設加速に反対しており、地域社会レベルでの反発が政治的圧力として州政府の判断を後押ししている。地元住民団体は電力料金の上昇や水資源への負荷を理由に反対集会を各地で開いており、州議会にはさらなる規制強化を求める陳情も相次いでいる。
各州で乱立する規制の実態
DOORS DXの整理によれば、コロラド州は2024年5月成立の「コロラドAI法」を2026年2月に施行し、雇用・教育・金融・医療に影響する高リスクAIシステムに「アルゴリズムによる差別」防止義務を課す。カリフォルニア州は2026年1月、月間利用者100万人超の生成AI開発者を対象とする「AI透明化法」を施行し、AI生成コンテンツの検出ツール無償提供を義務化した。ユタ州も2024年5月施行の生成AIポリシー法で、対話相手が生成AIであることの開示を求めている。こうした州ごとの規制のばらつきこそが、連邦政府がプリエンプションを急ぐ最大の理由となっている。企業側からは「50州すべての要件を個別に確認するコストが開発サイクルを遅らせている」との声も上がっており、統一基準を求める業界団体のロビー活動が活発化している。
データセンター規制と株式市場への波及
BigGoファイナンスによれば、ペンシルベニア州のジョシュ・シャピロ知事は全米最厳格とされるデータセンター規制規則に署名し、開発業者に電力の自己調達(BYOG)とクリーンエネルギー比率の段階的引き上げを義務付けた。テキサス州のグレッグ・アボット知事も送電網接続申請中の全プロジェクトの監査を命じ、フィラデルフィア半導体指数は一時5%下落した。バンク・オブ・アメリカのアナリストはテキサス州知事選を市場の風向計と位置付け、民主党勝利なら米国株が10%超下落しうると分析する。トランプ政権の連邦統一化方針と、州・地域社会の反発が交錮する構図は、今後の中間選挙にも影響しかねない政治課題となっている。
今後の焦点と業界への影響
今回の対立構図は、AI開発企業にとって単なる法令順守の問題にとどまらない。連邦のプリエンプションが実現すれば、州ごとに異なる開示義務やアルゴリズム監査要件が一本化され、開発コストの低減につながる可能性がある一方、ニューヨーク州のような訴訟も辞さない姿勢を見せる州が増えれば、法的な不確実性はむしろ高まる。データセンター向け投資を計画する企業は、電力調達契約や地域合意にかかる交渉コストを事前に織り込む必要があり、州知事選や議会選挙の結果次第で事業計画そのものを見直さざるを得ない状況が続くとみられる。

