生成AIが作り出す画像や文章の著作権を巡り、米国・日本・中国の司法判断がそれぞれ異なる方向に分岐しつつある。米国はAI単独生成物への著作権付与を明確に否定する一方、日本では人間の詳細な指示があれば著作物と認める摘発事例が登場し、中国ではプラットフォーム責任の認定基準が裁判所ごとに割れている。学習データの利用を巡る訴訟でも、Anthropicが過去最大級の和解金を支払う事態となり、生成AIの著作権問題は「生成物側」と「学習データ側」の両面で判例の蓄積が進んでいる。
米最高裁、AI単独生成物の著作権を最終否定
米最高裁判所は2026年3月2日、AIが自律的に生成した画像の著作権登録を巡る上告審理を受理しないと決定した。ビジネス+ITによれば、コンピューター科学者スティーブン・サラー博士が自作のAIシステム「Creativity Machine」で生成した画像「A Recent Entrance to Paradise」について、2018年に人間の創作的寄与を意図的に否定した上で著作権登録を申請したが、米国著作権局はこれを拒絶。2023年の連邦地裁、2025年3月の連邦巡回区控訴裁判所も局の判断を支持しており、最高裁は理由を示さず上告を却下したことで下級審の「人間著作者要件」が確定した。
米国著作権局の行政指針では、人間が単にプロンプトを入力しただけの段階では表現の決定権がAI側にあるとみなされ保護対象外となる一方、人間が表現的要素の決定や独自の加筆・修正を行った部分に限り限定的な保護が認められる余地が残る。2023年8月には既にワシントンD.C.連邦判事が「人間の関与」を欠くAIアート作品を著作権保護の対象外とする判決を出しており、artnewsjapanの報道と合わせて米国の法理は一貫している。
日本、プロンプト2万回で著作物認定の摘発事例
一方、日本では真逆とも言える方向の司法・捜査実務が進んでいる。読売新聞の報道によれば、千葉県警は2025年11月、画像生成AI「Stable Diffusion」で作られた画像を無断複製したとして、神奈川県大和市の27歳男性を著作権法違反(複製権侵害)の疑いで書類送検する方針を固めた。読売新聞によれば、元の画像を作成した20歳代男性は「プロンプトは2万回以上だった」と証言し、詳細な指示と試行の繰り返しがあったことから、県警は生成物を著作物と判断した。AI生成物の著作権を巡り国内摘発は全国初とみられる。
文化庁の「AIと著作権に関する考え方」は、プロンプトの分量・内容・試行回数を総合的に考慮して著作物性を判断するとしており、国内には明確な判例はまだ存在しない。AI著作権に詳しい福井健策弁護士は同紙取材に対し「プロンプトで具体的な指定を十分にしていれば著作物になり得る」とし、「人が結果を具体的に予測して指示を出しているかどうかが重要」と説明している。参考として、中国の北京インターネット法院は2023年11月、生成AI画像について「原告はプロンプトの選択などで相当の知的労力を費やした」として著作物性を認める判決を既に出している。
中国、プラットフォーム責任を巡る判断が分岐
中国では、生成AIプラットフォームの責任範囲を巡る司法判断が地裁ごとに割れている。奥特曼(ウルトラマン)の著作権を独占保有する上海の文化会社が、AI画像生成プラットフォームを運営する企業を相手取った一連の訴訟が代表例だ。最高人民法院知識産権法廷のまとめによれば、広州インターネット法院は、AI機能が直接侵害コンテンツを出力し会員課金で利益を得ていた点を重視し、プラットフォームに直接侵害責任を認め、賠償1万元の支払いを命じた。
これに対し杭州インターネット法院は、ユーザーが奥特曼画像をアップロードしてLoRAモデルを学習させた事案について、データ入力段階では直接侵害を否定しつつ、出力段階での放置を「帮助侵害(幇助侵害)」と認定し、2024年9月に賠償3万元の一審判決を下した。知識産権律師網の判決文によれば、原告は当初30万元の賠償を求めていたが、二審では権利期限が2024年3月末で満了していた事実等も踏まえ判断が調整された。両判決の違いは、技術介入の度合いと直接的な営利性をどう評価するかという点に起因しており、中国司法界では「技術中立」原則が生成AI時代にどこまで通用するかが引き続き争点になっている。
学習データ側の争いはAnthropicが15億ドルで和解
生成物側の議論とは別に、AIモデルの学習データ利用を巡る訴訟も大きな節目を迎えた。BiGGoニュースによれば、サンフランシスコの米連邦地裁判事は2026年7月、AI企業Anthropicと作家グループとの間で合意された15億ドル(約2400億円)の和解を最終承認した。書籍データを無断で学習に利用したとする訴訟であり、AI企業の著作権侵害訴訟における和解額としては過去最大規模とされる。この和解は、生成物の著作物性を争う訴訟とは別軸で、学習段階でのデータ利用そのものが訴訟対象になり得ることを示した点で実務上の意味が大きい。
三極化する判例、企業に求められる対応
以上を整理すると、米国は「AI単独生成物には著作権なし」で法理が確定し、日本は「詳細なプロンプトと試行回数があれば著作物になり得る」との運用が捜査実務でも採用され始め、中国は「プラットフォームの技術介入度と営利性」でケースバイケースの判断が続いている。さらにAnthropicの和解は、学習データ調達の合法性そのものが巨額の賠償リスクになることを示した。企業は生成物の権利化と学習データ調達の両面で、法域ごとに全く異なる基準に対応する必要がある。


