MLCommonsが2026年に相次いで発表したMLPerfベンチマーク三部作——Training v6.0、Inference v6.0、Storage v3.0——の結果が出揃い、AI基盤の性能競争がGPU単体の演算能力比較から、ストレージやデータパイプラインを含むシステム全体の最適化競争へと移行しつつある実態が浮かび上がった。各結果は独立した発表ながら、共通するのは「計算資源をいかに無駄なく使い切るか」という視点である。
Inference v6.0:NVIDIAが2.7倍の推論高速化、250万トークン/秒を記録
NVIDIAの技術ブログによれば、2026年4月1日にmlcommons.orgから取得されたMLPerf Inference v6.0のClosed部門結果で、288基のNVIDIA Blackwell Ultra GPUを搭載したGB300 NVL72システムがDeepSeek-R1の推論において250万トークン/秒という記録を達成した。これは2025年8月時点の性能から2.7倍の向上にあたる。NVIDIAはソフトウェア面の複数の最適化を組み合わせたことをこの伸びの要因として挙げている。
クラウド事業者のNebiusも同ベンチマークへの提出結果を公表し、NVIDIA HGX B200・HGX B300・ラックスケールのGB300 NVL72で構成したシステムがDeepSeek-R1サーバー部門(エントリー6.0-0082)およびgpt-oss 120Bインタラクティブ部門(エントリー6.0-0083)で高い結果を残したと報告している。3月30日付でMLCommons Associationによる検証済みとされ、Blackwell世代GPUの推論性能が業界標準として定着しつつあることがうかがえる。
Training v6.0:AMD Instinct MI350とASUS HGX B300が存在感
2026年6月16日にMLCommonsが発表したMLPerf Training v6.0では、新規ベンチマーク2種の追加と提出企業の多様化が特徴となった。AMDの発表では、Instinct MI350シリーズGPUがROCmソフトウェアとMXFP4対応を軸に、単一ノードからマルチノード学習へと提出範囲を拡大した「同社史上最も包括的なMLPerf提出」となったことが強調されている。
一方、ASUSは6月22日、NVIDIA HGX B300を搭載した高性能サーバー「XA NB3I-E12」がLlama 3.1-8B(サーバーおよびオフラインモード)とGPT-OSS-120B(インタラクティブモード)を含む複数部門で1位を獲得したと発表した。同社はこのサーバーがすでに世界出荷を開始しているとし、MLCommonsへの継続参加を通じて透明性のあるベンチマーク文化とAI導入の高速化を推進する姿勢を示している。
Storage v3.0:KV Cacheテスト新設とS3対応で「ストレージのMLPerf化」進む
2026年9月1日、MLCommonsはMLPerf Storage v3.0の結果を発表した。今回のバージョンではAIワークロードの多様な形態を反映するようテスト項目を拡張し、LLM推論キャッシュの読み書き性能を測る新テスト「KV Cache」を追加。さらに既存のPOSIXアクセス層に加え、S3オブジェクトストレージ層への対応も新たに実装された。StorageNewsletterも同内容を9月4日付で報じている。
直近のStorage v2.0結果を振り返ると、DDNのAI400X3が3D U-Netマルチノード環境で毎秒120.68GBの持続スループットを記録し、2RUラックマウント機でLlama3-8bチェックポイントを読み込む際には読み取り30.6GB/秒、書き込み15.3GB/秒を達成している。これに対し華為(Huawei)のOceanStor A800は8Uデュアルノード構成で255個相当のH100 GPUに対応する毎秒698GiBという最大絶対スループットを記録した。Hammerspaceのアーキテクチャは専用機器を用いず、汎用サーバー上でGPU利用率96.4%、毎秒420.8GBを達成しており、標準サーバーでの高性能化という別の方向性を示している。
業界への影響:単体性能競争からシステム設計競争へ
今回のMLPerf三部作が示すのは、AIインフラ調達における評価軸の多層化である。従来はGPUの理論演算性能やトークン処理速度が主な比較対象だったが、Storage v3.0でKV Cacheテストが標準化されたことにより、推論時のキャッシュ読み書き効率がボトルネックとして明確に可視化されるようになった。実際、DDNとNebulはNVIDIA Dynamoを用いたKV Cache高速化についてパートナー間検証を公表しているが、これは独立監査ではない点も業界では指摘されている。
Training v6.0でAMDとASUS(NVIDIA陣営)がそれぞれ異なる強みを示したことも、単一ベンダー依存からの脱却を後押しする材料となる。AI基盤の調達を検討する企業にとって、今後はGPU単体の性能表だけでなく、ストレージI/O、KVキャッシュ処理、マルチノード拡張性を含めた総合評価がMLPerf結果を読み解く上での必須事項となりつつある。