Microsoft が、自社で設計する AI の推論チップの次の世代『Maia 300』を、2027年から Copilot の主な計算基盤にする計画だと報じられている。UPI(10月12日)、The Verge、The Next Web が伝えた。報じられた仕様は、HBM4 のメモリが288GB、メモリ帯域が18TB/s。配備はギガワット規模になるという。Microsoft 自身の発表や技術資料は、本紙は確認できていない。以下の数字はすべて報道ベースである。
この報道の重みは、チップの性能そのものよりも、どの仕事がどこへ移るのかにある。NVIDIA の GPU を最も多く買ってきた会社の一つが、自社の製品の推論、つまり計算資源を最も多く使い続ける部分を、2027年から NVIDIA の外で動かす道筋を描いている。その道筋が、仕様と配備の規模という具体的な数字で見えてきた。
報じられた仕様:容量より帯域の伸びが大きい
報道によれば、Maia 300 は HBM4 を288GB 積み、帯域は18TB/s である。比べる相手は、Microsoft が2026年1月に自ら発表した前の世代の Maia 200 になる。Microsoft の当時の説明では、Maia 200 は HBM3e が216GB、帯域は約7TB/s だった。報じられた数字が正しければ、容量は約1.3倍にとどまる一方、帯域は約2.6倍に伸びる。
推論のチップでは、帯域の伸びのほうが効く。大きなモデルが1トークンを出すたびに、重みとキャッシュをメモリから読み出す必要があり、速さはその読み出しで決まりやすいからだ。長い文脈を抱えたまま何十回もツールを呼ぶエージェントの処理では、この傾向がさらに強まる。Copilot を、受け答えの道具から、Copilot Cowork のように仕事を代わりにこなすエージェントへ広げていくなら、必要になるのはまさにこの種類の性能である。演算の性能、製造の工程、消費電力、HBM4 の調達先については、本紙が確認できた範囲では報じられていない。
2027年・ギガワット・Copilot:試しに使うのではなく、主力を載せ替える
報道の中心は、配備の規模と載せる製品にある。Maia 300 は、2027年からギガワット規模で配備され、Copilot の推論の主な計算基盤になると報じられている。
これまでの Maia は、Microsoft の計算資源のうち一部を受け持つ補助の役回りと見られてきた。Maia 200 の発表のときも、Microsoft 365 Copilot や Foundry の一部の処理に使うという説明で、主な計算資源は NVIDIA の GPU のままだった。今回報じられた計画は、それとは性格が違う。最も利用者の多い自社製品の推論を、まとめて自社のチップに移す。ギガワットという単位は、大型のデータセンターの拠点まるごとに当たる電力の規模である。チップを試験的に入れる段階ではなく、データセンターの設計を自社のチップに合わせて組む段階に入ることを意味する。
推論の費用は、利用者が増え、エージェントが使うトークンが増えるほど膨らみ続ける。製品の値段を据え置いたまま粗利益を守るには、1トークンあたりの原価を自分の手で下げられるかどうかが問題になる。自社のチップは、その原価を NVIDIA の価格設定から切り離す手段になる。
NVIDIA にとっての意味:最大の買い手が、いちばん量の多い仕事から離れる
Microsoft は、NVIDIA の売上を支える最大級の顧客の一社である。その会社が、訓練ではなく推論から先に離れる、という順番に意味がある。訓練は一度で終わるが、推論は製品が使われる限り毎日続き、長い目で見れば計算量の大半を占める。Google の TPU、Amazon の Trainium に続いて、Microsoft もこの層の自前化を具体的な日程に乗せたことになる。巨大なクラウドの3社がそろって推論を自社のチップに寄せれば、NVIDIA の需要の中心は、訓練と、クラウドの外部の顧客向けの貸し出しへ移っていく。
ただし、離れる範囲を大きく見積もりすぎるべきではない。報道が扱っているのは Copilot、つまり Microsoft 自身の製品の推論である。最先端のモデルの訓練や、Azure で GPU を借りる外部の顧客向けの調達を Maia に置き換えるという話は、本紙が確認した範囲には出てこない。Microsoft が NVIDIA の GPU の発注を減らすのか、増えていく需要のうち増えた分を Maia で受けるだけなのかも、報道からは分からない。
まだ分からないこと
本紙は3本の報道の本文を詳しく突き合わせられておらず、どの数字をどの媒体が最初に報じたのか、情報源が Microsoft の公式の説明なのか匿名の関係者なのかを確かめられていない。過去には、報じられた契約の金額が、のちの開示で半分以下になった例もある。288GB、18TB/s、2027年、ギガワット規模という数字は、Microsoft が自ら示すまでは報道の数字として扱う必要がある。
確かめるべき点は次のとおりである。Microsoft の公式の発表や技術資料が出るか。2027年の配備がどの拠点で、どの順番で始まるか。Copilot のうちどの処理(Microsoft 365、GitHub、消費者向け)が先に移るのか。OpenAI のモデルを Maia で動かす範囲がどこまで広がるのか。そして NVIDIA の決算や、Microsoft の設備投資の説明に、この計画がどう表れるのか。
最大の GPU の買い手が、最も量の多い仕事から自分のチップへ移る。その計画が、仕様と配備の規模を伴って報じられたのは今回が初めてである。日程どおりに進めば、2027年は、NVIDIA の推論の需要の一部がはっきり形を変え始める年になる。




