Meta は10月15日、Muse Spark Open の重みを Hugging Face で公開した。総パラメータ816B、アクティブ42B、文脈は100万トークンで、ライセンスは Meta 独自の Muse Model License である。PyTorch のブログはこれを『これまでで最も能力の高い米国のオープンウェイトのモデル』と呼ぶ。重みは meta-models/Muse-Spark-Open-816B-A42B にある。
出したのは、クローズドの Muse Wonder と Muse Wonder Full を発表した10月12日の3日後である。上位のモデルは閉じたまま、その一つ下の世代の基盤を重みごと開いた。これで米国のオープンウェイトは、再びフロンティアの規模に戻った。ただし Meta は、安全の閾値を『満たした』と自分で言うだけで、それを裏づける完全な評価報告は『近く出す』としている(Meta の研究ブログ)。Wonder の安全の報告書も、まだ出ていない。
何を開いたのか:Spark 1.3 と同じ基盤、閉じたのは Wonder
PyTorch のブログによれば、Muse Spark Open は Muse Spark 1.3 と同じ基盤モデルを使い、そこに安全の事後訓練を足したものである。コーディングとエージェントの作業向けに訓練し、画像、文書、音声、音声つきの映像を入力として扱える。ウェブの閲覧、サブエージェントの起動と調整、デスクトップ・モバイル・ブラウザをまたぐコンピュータ操作にも対応する。行動の前に意図を述べる『コメンタリー』を別に出す作りで、利用者はモデルが何をなぜしようとしているかを追える、と Meta は書く。
なお、PyTorch のブログの題は『Muse Spark 1.2 Is Now Open Weights』だが、本文は8月の Muse Spark 1.2 の発表を土台にしつつ、Spark 1.3 と同じ基盤だと書いており、版の呼び方がそろっていない。
Meta 自身の位置づけを並べると、構図ははっきりする。Wonder は Meta Model API と Muse Code の契約者に限って出し、価格は Opus 5.5 と同じ入力4ドル・出力20ドル(100万トークンあたり、Techmeme の要約による)。一方、Open はその一つ下の Spark の系列で、Artificial Analysis の Intelligence Index では Spark 1.3 が48、Wonder が52、Wonder Full が56だった(二次情報)。Open 自体の第三者の指数は、まだない。いちばん強いモデルは売り、その手前の世代は開いて生態系を取る。その2つを3日のうちに続けて出した。
米国のオープンウェイトが規模で戻る
窓の前まで、800B を超えるオープンウェイトの最前線は中国勢が握っていた。Xiaomi の MiMo-V2.6-Pro(総1.02兆・アクティブ42B、MIT)、Moonshot の Kimi K3(2.8兆)がそうである。米国の側は、Reflection AI の Beam(総501B・アクティブ23B)が10月5日に発表されたが、重みは Hugging Face にまだ出ていない。欧州の Mistral Large 4(総約1兆)も、重みは『今月末』の予定のままである。
Muse Spark Open のアクティブ42B は MiMo-V2.6-Pro とちょうど同じで、総パラメータは816B と少し小さい。重みが実際にダウンロードできる米国のモデルとしては、Meta の言うとおり現時点で最大級になる。Meta は PyTorch の財団に移した Helion のカーネルを同梱し、NVIDIA GB300 で専用のカーネルより1.03〜3.95倍速く、AMD MI350 でも端から端までの処理量が3%上がったとする。SGLang と vLLM で最適化して動き、TorchTitan は監督つき微調整、LoRA、強化学習(TitanRL)にそのまま対応する。手元で再訓練するための道具まで、一緒に開いたことになる。
『閾値を満たした』の裏づけはどこにあるか
Meta が安全について書いていることは2つある。1つは、システムの安全策なしに単体で動かされることを前提に、悪用への耐性を高める安全の事後訓練を加えたこと。もう1つは、その結果、安全の閾値を満たしたということ。PyTorch のブログは『安全の面でオープンソースの最上の選択肢』とまで書く。
だが、どの評価で、どの水準に対して、何点だったのかを示す完全な報告は『近く出す』とされたままである。これは Wonder と同じ形だ。10月12日の Wonder の研究の投稿も『追加の安全評価を含む完全な報告書は近く出す』と書き、3日たった今もそれは出ていない。モデルカードの PDF は画像だけで文字が取れず、Wonder Full が緩和策なしで CB の高い閾値に達する可能性を否定していないという中身も、二次情報でしか伝わっていない。Meta は2本続けて、報告より先にモデルを出したことになる。
クローズドのモデルなら、出した後でも API の側で安全策を足したり、提供を止めたりできる。オープンウェイトはそうはいかない。いったん配った重みは回収できない。だから評価の報告は、公開の前に出ていることにいちばん意味がある。
開いた重みでは、事後訓練は外せる
『安全の事後訓練を足した』という主張には、すでに反証になりうる実例がある。Anthropic の Frontier Red Team は9月29日、Z.ai の GLM-5.3 について、単純な欺くプロンプトで64%、推論の欄への先入れで92%、重みを書き換えて拒否を外すアブリテレーションで100%、安全策をすり抜けられたと報告した。重みが手元にあれば、拒否の訓練は外せる。しかも Meta は TorchTitan で強化学習まで回せる道具を、同じ日に整えている。
能力の側の論点もある。Anthropic は10月12日、小さなオープンウェイトのモデルが安価な IoT 機器の間で自分を複製できるかを試し、GLM-5.2 が隔離した環境で端から端まで広がったと報告した。そのうえで、小さなオープンモデルが『2026年末までに』必要な技能に届くと見立てている。816B のモデルは家庭の機器では動かないが、エージェントとして長い作業をこなし、コンピュータを操作し、サブエージェントを立ち上げるという能力はまさにそこで問われるものだ。arXiv の 2610.13928 は、重みの中に能力を隠し、評価をすり抜けられることを示した。公開前の評価がどこまで信用できるかは、今は自己申告だけで判断するしかない。
Google は10月13日、Gemini 4 Argon を一般提供にした際、同時に安全の投稿とモデルカードを出し、生物とサイバーで重大能力水準に達している可能性を否定できないと自ら書いた。クローズドのモデルでさえ、報告を発表と同じ日に出す例がある。重みを開く Meta のほうが、裏づけを後回しにしている。
次に見るもの
確かめるべき点は3つある。第一に、Meta が『近く』出すという完全な評価報告が、Spark Open と Wonder のそれぞれについていつ出るか。そこに、CBRN とサイバーの評価が緩和策なしの数字で載るか。第二に、アブリテレーションや微調整で安全の事後訓練を外したとき、能力がどこまで残るのかを、外部の研究者が示すかどうか。第三に、Artificial Analysis などの第三者が Spark Open を測り、中国の MiMo-V2.6-Pro や Kimi K3 と比べてどこに置くか。米国のオープンウェイトがフロンティアの規模に戻ったことは事実である。安全の閾値を満たしたかどうかは、今のところ Meta 自身の言葉でしか確かめられない。




