Google と Constellation Energy が、PJM の系統に890MW の新しい原子力の容量を加える契約を発表した(Constellation のプレスリリース、一次情報)。新しい原子炉は建てない。すでに動いている原子炉11基の出力を上げる(出力増強、アップレート)。その費用を Google が20年契約で裏付ける。
この契約が大事なのは、規模より形のほうだ。これまでハイパースケーラーの電力契約の多くは、すでにある発電所の電気をまとめて買うか、再生可能エネルギーの証書を買うものだった。今回、Google は系統にまだない容量を作る費用を、20年分約束した。電力の買い手だった Google が、系統の容量を出す側に回り始めたことになる。
出力増強という選択——新しく建てずに増やす
新しい原発は、許認可から運転開始までに10年単位の時間がかかる。小型モジュール炉(SMR)も、商業運転の実績はまだ少ない。これに対して出力増強は、すでに許可を受けて動いている原子炉で、タービンや蒸気発生器などの設備を入れ替えたり改良したりして、出力を上げる方法である。立地も送電線への接続もすでにあるので、ゼロから建てるより早く、確実に容量を増やせる。
ただし、11基で合わせて890MW なので、1基あたりの上積みは平均で約80MW にすぎない。1基の大型の原子炉ほどの容量を、既存の11基に少しずつ分けて積み増す計算である。どの発電所でいつ何MW 増えるかの内訳と、Google が払う金額は、この記事を書く時点では確認できていない。出典を読みきれていないためで、契約の金額は報道と実際が大きく食い違ったこともある。数字は、公表された890MW、11基、20年の3つに限って扱う。
それでも、1つ1つは小さい工事に、需要家が20年の約束を付けたことの意味は大きい。出力増強は、電力会社にとって採算が読みにくい投資だった。何十年も先の電気の値段が分からないからである。20年の買い手が決まれば、その不確かさが消える。Google の資金は、工事を始める判断を後押しするものになる。
容量不足6.8GW の PJM——足りないのは電気ではなく容量
PJM は、米国の東部から中西部にかけて13州と首都ワシントンをまたぐ、全米最大の系統運用者である。バージニア州北部のデータセンターの集積地を抱え、AI 向けの需要の伸びがもっとも直接に表れる系統でもある。この PJM では、約6.8GW の容量が足りないとされている。
ここでいう容量とは、需要がもっとも高い時間にも電気を出せると約束された発電の能力のことだ。1年を通して作られる電力量とは別のものである。データセンターは24時間ほぼ一定の電気を使い続ける。だから必要なのは、昼だけ発電する太陽光の証書ではない。いつでも出せる容量が要る。原子力の出力増強は、この条件にちょうど合う。天候に左右されずに、ほぼ常に出力できる電源の容量を、既存の設備から引き出せるからだ。
容量が足りない系統では、容量の値段が上がり、その費用は最後には家庭や企業の電気料金に乗る。データセンターの電力需要が、ほかの利用者の負担を押し上げているという批判は、米国の各地で強まっている。新しい容量を自分の資金で系統に加えるという形は、そうした批判に対する、ハイパースケーラーなりの答えにもなる。電気を使う分だけ、系統に容量を足すということだ。
市場の反応——原子炉を持つ会社の値段が変わった
247wallst によれば、10月6日に Constellation の株は12%上がった。同じく原子炉を持つ Vistra は8%、Talen Energy は7%上がっている(いずれも報道ベース)。
3社がそろって上がったのは、この契約が Constellation 1社の話では終わらないと市場が読んだからだろう。すでにある原子炉には、まだ出力を上げる余地があり、その余地にハイパースケーラーが20年分の値段を付ける。そうなら、原子炉を持つことそのものの価値が上がる。電力の値段だけでなく、系統に足せる容量を持っていることが、売り物になり始めた。
買い手から出し手へ——ハイパースケーラーの電力の取り方が変わる
ハイパースケーラーの電力の取り方は、これまで大きく2つあった。1つは、電力会社や発電事業者から、出来上がった電気を長期の契約で買う方法。もう1つは、データセンターの隣の発電所から直接に電気を引く方法で、系統から電源を切り離す形になる。後者は、ほかの利用者のための容量を奪うという批判を受けてきた。
今回の契約は、そのどちらとも違う。既存の発電所の電気を取り合うのではない。系統に新しい容量を足す費用を、需要家が長期で引き受ける。Utility Dive も、これを PJM への新しい原子力の容量として報じている。足りない6.8GW に対して、890MW はその約13%にあたる。1社の1件の契約としては小さくない割合である。
AI の競争は、モデルの性能や値段だけでなく、計算資源を動かす電力をどれだけ確実に、早く手に入れられるかの競争にもなっている。新しい原発やSMR を待っていては間に合わない。それなら、すでにある原子炉から容量を引き出し、その費用を自分で持つ。Google が選んだのは、そういう道である。これからは、ハイパースケーラーが電力会社の大口の客であるだけでなく、系統の容量を設計する側に加わるのかどうかが問われる。ほかのハイパースケーラーが同じ形の契約に続くか、PJM 以外の系統にも広がるかが、次に見るべき点になる。




