Google は10月13日、Gemini 4 の最初のモデル Gemini 4 Argon を一般提供にした(Google のブログと Gemini API の更新履歴、一次情報)。定価は100万トークンあたり入力4ドル、出力20ドルで、Anthropic の Claude Opus 5.5、そして前日の10月12日に Meta が出した Muse Wonder とまったく同じ数字である。11月末までは導入価格として、その半額の入力2ドル、出力10ドルで提供する。
Argon は9月30日に公開されていたが、使えるのはサイバー防御の専門家に限った Fairwind Program の参加者と米政府機関だけで、API の有料顧客への提供は『できるだけ早く』としたまま日付がなかった。その状態が2週間続いた末に、Meta が Muse Wonder を出した翌日に一般提供へ切り替えた。Google が選んだ武器は、新しい性能の数字ではなく値段である。
値段の並び——定価は1段上の棚、導入価格は1段下の棚
今のフロンティアの価格は、おおむね3つの棚に分かれている。最上段は GPT-6 Astra の入力10ドル・出力50ドル。その下に、Opus 5.5(9月22日)と Muse Wonder(10月12日)の入力4ドル・出力20ドルの棚がある。さらに下に、Claude Sonnet 5.5(9月28日)と GPT-6.1 Sol(9月29日)の入力2ドル・出力10ドルの棚がある。
Argon の定価は2段目の棚に置かれた。Opus 5.5 と Wonder に1ドルの差もつけず、同額に並べている。一方で11月末までの導入価格は、3段目の棚の数字そのものである。つまり Google は、Opus 5.5 と Wonder に対しては『同じ値段で、各社の最上位と同じ棚にいる』と言い、Sonnet 5.5 と Sol に対しては『7週間は同じ値段で、それより上のモデルが使える』と言っていることになる。
なお Fairwind の参加者には、9月30日の時点から入力2ドル・出力10ドルで出していた。一般提供の導入価格は、この Fairwind の値段をそのまま市場に広げたもので、新しい値下げではない。新しいのは、11月末を期限として、そのあとは倍になると定価を明示した点である。
性能の指数では Opus 5.5 の下、タスクあたりの費用はその3分の1
Argon の第三者評価は、Fairwind の期間中にすでに出ている(Artificial Analysis、10月1日の集計、二次情報)。Intelligence Index は53で、GPT-6 Astra と並ぶ。Opus 5.5 の58には5点届かず、Wonder Full の56にも及ばない。Muse Wonder(Full ではない方)の52は上回る。項目別では、AutomationBench の78%で首位に立ち、ハルシネーション率は15%で最も低い(ほかのフロンティアは51〜54%)。
値段と性能を組み合わせると、様子が変わる。Artificial Analysis が見積もったタスクあたりの費用は、導入価格で約1.99ドル、定価でも約3.98ドルで、Opus 5.5 の5.98ドルより安い。同じ定価の Opus 5.5 より安く済むのは、Argon のほうが1タスクで使うトークンの量が少ないからではない。逆である。Argon は1タスクあたり約6.2万トークンを出し、Astra の2.7万の2倍以上を使う。それでも Astra の定価が入力10ドル・出力50ドルなので、定価で比べると Argon は Astra よりタスクあたり約22%高いだけで済み、Opus 5.5 には届く。
Google が定価を Opus 5.5 と同額に置けたのは、この計算が成り立つからである。指数で5点下でも、タスクあたりの費用で上回れば、企業の購買担当には十分な材料になる。ただしこれらの数字は、9月30日から10月1日にかけて Fairwind の版で測ったものである。一般提供の版が同じ性能かどうかは、第三者が測り直すまで分からない。
2週間の Fairwind が終わって、何が市場に出たのか
9月30日の公開で重要だったのは、Google が最初の提供先をサイバー能力を理由に絞ったことだった。Anthropic は Opus 5.5 のサイバー能力を『これまでに出したどのモデルよりも強い』とし、OpenAI は GPT-6.1 Sol をサイバーで Critical と判定した。能力の高いモデルを、まず限られた防御側にだけ渡す形が、フロンティア3社に共通した。
Google はその形を2週間で解いた。Opus 5.5 は、安全策の付いた形で9月22日から一般に使える。GPT-6.1 Sol も同様である。Argon を Fairwind に閉じ込めたままでは、Google だけが市場にいないことになる。そこへ Meta が Wonder を出した。Argon より指数で1点下の Wonder が、Argon の定価と同じ値段で、Meta Model API から一般に使える。Google が Fairwind を解く理由は、これで揃った。
一方で、一般提供にあたってサイバー能力の扱いをどう変えたのか、Fairwind のような審査付きの枠を残すのかは、本稿の時点で確かめられていない。Anthropic は Cyber Verification Program で防御・レッドチーム・特別の3段階を制度にしており、OpenAI は Daybreak で申し込み制の枠を持つ。Google がそれに相当する仕組みを Argon の一般提供にどう付けたかは、今後の確認事項である。
Meta の翌日、という日付の意味
9月22日に Opus 5.5 と GPT-6 Sol/Luna が出て価格戦争が始まったとき、Google は加わらなかった。出したのは音声とプライバシーの発表で、翌日に Koray Kavukcuoglu が『Gemini 4 は年末よりずっと前に』と述べただけだった。9月30日の Argon は、その約束を果たしたが、市場には出さなかった。
10月12日17:00 UTC ごろに Meta が Muse Wonder を出し、その翌日に Google が Argon を一般提供にした。1日の差は偶然ではないと読むのが自然である。Meta は約6週間でフロンティアの近くに戻り、Opus 5.5 と同じ値段を付けた。Google が Wonder に対して出せる答えは、指数で1点上のモデルを同じ定価で、しかも7週間は半額で出すことだった。
同じ週に Google は、Gemini の無料枠を Flash-Lite だけにする変更を10月9日から始めている(二次情報)。無料で使えるモデルを下げ、有料で使える最上位のモデルを市場に出す。Google の動きは、2つ合わせて有料の API と契約に利用者を寄せる方向にある。
残る問い——11月末に値段が倍になったあと
導入価格の期限は11月末である。そのあと Argon は Opus 5.5 と同じ定価に戻る。指数で5点下のモデルが、同じ値段で選ばれ続けるかどうかは、タスクあたりの費用の約3.98ドル対5.98ドルという差が、実際の作業負荷でも成り立つかにかかっている。Argon は Astra の2倍以上のトークンを使うモデルなので、長い文脈のエージェントのループでは、単価だけでは見えない費用が出る。
確かめるべきことは、ほかにもある。一般提供の版を Artificial Analysis が測り直すか。LMArena のテキストの順位(検索の抜粋では1,525で首位だが、未取得)が一般提供のあとも保たれるか。Muse Wonder の安全の報告書は『近く出す』のままで、Argon の一般提供に対して Meta と Anthropic が値段で応じるか。そして、Google が Fairwind のあとにどんな審査の枠を残したのか。
はっきりしているのは1つである。9月30日の時点で、フロンティアの最上位のモデルを防御側だけに渡す形は3社に共通していた。10月13日、Google はそのうちの1社として、2週間でその形を解き、値段を武器に市場へ出た。




