AI法修正協議の決裂と規制の現状
2026年4月29日、EU諸国と欧州議会議員らは12時間にわたる協議を行ったが、AI法の修正案について合意に至らなかった。キプロス議長国の関係者は「欧州議会との合意は不可能だった」と述べ、協議は来月に持ち越される見通しとなった。この修正案は、2024年8月に施行されたAI法の一部要件を緩和することを目的としており、欧州委員会のデジタル・オムニバス政策の一環として、欧州企業が米国やアジアの競合他社に追いつくための規制簡素化を図るものだった。
現在のEU AI法は世界で最も厳格なAI規制とされており、子供、労働者、企業、サイバーセキュリティへの技術の影響に関する懸念から制定された。しかし、オランダの議員キム・ファン・スパーレンタック氏は協議の決裂について「ビッグテックは恐らくシャンパンで乾杯しているだろう。一方で安全性を重視し宿題をやってきた欧州企業は今、規制の混乱に直面している」と批判的なコメントを発表した。
この協議の決裂は、AI業界の実務担当者にとって重要な意味を持つ。なぜなら、コンプライアンスやモデル分類に関する不確実性が長期化することを意味するからだ。プライバシー活動家や市民権団体は、これらの規制変更提案がビッグテックへの譲歩であると批判を強めている。
産業加速法案の詳細と域内調達義務
協議の決裂と並行して、欧州委員会は産業加速法案(IAA)を正式に提案した。この法案は、公共調達における「メイド・イン・EU」要件、新興分野でのFDI規制強化、工業製造加速区域の設置、許可手続きの合理化を導入する包括的な産業政策である。特に注目される要件として、電気自動車については70%のEU域内調達、アルミニウムとセメントについてはそれぞれ25%の域内調達義務が設定されている。
欧州委員会の産業担当委員ステファン・セジュルネ氏は法案発表時に「税収を欧州の生産に向けることで雇用を創出し、依存関係を減らし、経済安全保障と主権を強化する」と述べた。この法案は、EUのGDPの約15%を占める公共調達を戦略的な政策ツールとして活用し、欧州市場内で製造された製品への需要を大幅に押し上げることを狙っている。
法案の背景には深刻な雇用問題がある。2024年以降、エネルギー集約型産業と自動車セクターで20万人以上の欧州の雇用が失われ、自動車製造業だけで今後10年間に60万人の雇用損失が予測されている状況がある。
中国からの強い反発と対抗措置の警告
中国は2026年4月27日、EU の産業加速法案が中国企業に害を与えた場合、対抗措置を取ると警告した。この動きは、ブリュッセルが国内製造基盤の強化を図る中で、グローバルな貿易と投資に潜在的な影響をもたらす可能性がある。
産業加速法案のFDI規制は事実上、中国関連の投資を標的としており、エネルギー集約型産業、ネット・ゼロ技術、EU自動車セクターにおける非EU投資家への影響は広範囲に及ぶ可能性がある。特に重要なのは、この規制により欧州委員会が従来は各国政府の専管事項だった投資案件に直接介入できる権限を獲得することである。
報道によると、この法案草案は既に多数のEU加盟国から重要な批判を受けており、最終テキストが合意される前に大幅な修正が行われる可能性が高い。FDI規制に関する具体的な所有権上限、セクター範囲、製造能力の閾値などの重要な側面は、EU立法機関で活発な議論が続いており、採択前に改訂される可能性がある。
立法プロセスの見通しと企業への影響
産業加速法案は欧州委員会の提案が立法プロセスの開始に過ぎず、今後欧州議会とEU理事会が関与する交渉を経て、修正案の提案が行われる。これらの交渉が合意に達し、最終版のIAAが正式に採択・施行されるまでには時間を要する。提案の複雑さと範囲を考慮すると、EUは2027年半ばから後半より前に最終法案の採択を予想していない。
この不透明な状況は、該当セクターに関心を持つ投資家にとって重要な意味を持つ。今後の修正により投資戦略とコンプライアンス義務が大きく左右される可能性があるため、立法プロセスを注意深く監視する必要がある。
企業にとって特に重要なのは、公共調達と公的支援制度における変化である。法案では、戦略的セクターでの「メイド・イン・EU」要件、産業製造加速区域での特別な支援措置、合理化された許可手続きが提案されている。これらの措置は、欧州域内での製造能力を強化し、重要技術における対外依存を減らすことを目指している。
規制環境の複雑化と対応戦略
AI法修正案の協議決裂と産業加速法案の並行進行により、欧州の規制環境は著しく複雑化している。AI システム開発企業は、2024年8月に施行された現行のAI法の厳格な要件に対応し続ける必要がある一方で、修正案の行方を注視しなければならない。特に、基盤モデルの階層化アプローチや基本的権利影響評価(FRIA)、国家安全保障の除外規定、遠隔生体認証の禁止、法執行機関による高リスクシステムの登録、輸出制限などの争点について、今後の展開が注目される。
製造業企業については、産業加速法案の域内調達義務への準備が急務となっている。電気自動車メーカーは70%のEU域内調達要件、アルミニウムやセメント関連企業は25%の調達要件に対応するため、サプライチェーンの再構築を検討する必要がある。また、FDI規制の詳細が固まり次第、非EU投資家との関係や資本構成の見直しも必要になる可能性がある。
この状況下で、欧州で事業を展開する企業は、規制の不確実性を前提とした柔軟な戦略立案が求められている。特に中国系企業や中国との取引関係が深い企業は、産業加速法案の最終的な内容と中国政府の対抗措置の両方に注意を払う必要がある。



