米Anthropicが2026年4月7日に発表した「Claude Mythos Preview」を起点とするMythosシリーズが、わずか5カ月で急速な進化を遂げている。9月1日(米国時間)には最新版「Claude Mythos 5.1」が発表され、性能・価格・提供形態のすべてで変化が続いている。一連の系譜を追うと、性能競争の焦点が単なるベンチマークスコアから、限定提供の仕組みそのものへと移りつつあることが見えてくる。
Preview版が示した異次元の脆弱性発見能力
2026年4月の発表時点で、日経クロステックが報じた検証結果は衝撃的だった。Firefox 148で修正済みの既知の脆弱性を対象に、エクスプロイト(脆弱性を突くプログラム)の自動作成を250回試行したところ、Claude Sonnet 4.6は0回、Claude Opus 4.6は2回しか成功しなかったのに対し、Claude Mythos Previewは181回成功し、成功率72.4%を記録した。Anthropicはセキュリティー機能を明示的に訓練したわけではなく、コーディングや推論、自律性の全般的な改善の結果としてこの能力が自然に備わったと説明している。
AIsmileyの分析によれば、実在するオープンソースソフトウェアの脆弱性再現能力を測る「CyberGym」(1,507タスク)でMythos Previewは0.83のスコアを達成し、Claude Opus 4.6の0.67、Claude Sonnet 4.6の0.65を上回った。Cybenchの評価では全課題でpass@1が100%に達している。
一般公開されない理由——Fable/Mythosの分離
この能力の高さゆえに、AnthropicはMythos Previewを一般公開せず、機能をサイバーセキュリティ性能を中心に一部低減させた「Claude Opus 4.7」を代わりに公開した経緯がある。その後2026年6月9日、Anthropicは窓の杜が報じた通り「Claude Fable 5」と「Claude Mythos 5」を同時発表し、初めてMythosクラスを一般提供する形をとった。Fable 5はStripeでの5,000万行のRubyコードベース移行を1日で完了させた事例が象徴的で、SWE-bench Proでは80.3%を記録しOpus 4.8の69.2%を10ポイント以上上回った。
ただしMythos 5自体は依然として「トラステッドアクセスプログラム」を通じた限定提供にとどまり、全トラフィックに30日間のデータ保持ポリシーが課された。さらに6月12日には米商務省の輸出規制指令を受け、安全機構バイパスの懸念からFable 5・Mythos 5が一時的に全ユーザー停止となる事態も発生している。
Mythos 5.1:セーフガード緩和とコスト削減
9月1日発表の「Claude Fable 5.1」「Claude Mythos 5.1」では、両モデルは基本的に同一で、違いはセーフガード水準のみとされる。TradingKeyによれば、自律型コーディングの「Terminal-Bench 4.0」でFable 5.1は55.8%だったのに対し、セーフティ制約の少ないMythos 5.1は60.9%に達した。自律的な科学研究ベンチマーク「Terminal-Bench-Science 0.1」ではFable 5.1が52.6%を記録し、前世代の2倍以上、GPT-5.6 Solの22.4%を大きく上回った。
価格面ではキャッシュ読み取り料金が75%引き下げられ100万トークンあたり0.25ドルとなり、標準的なワークロードでコストが約25%減、複雑なエージェント的タスクでは最大45%減になるという。Mythos 5.1は「Life Sciences Verification Program」(LSVP)の招待制ベータと、近く提供予定の「Cyber Verification Program」(CVP、現状は米国組織限定)を通じてのみ利用可能で、一般提供はFable 5.1に限定される体制が続く。
専門家の見解:性能差は縮小、脅威はMythos単体ではない
大和総研の坂本博勝氏は同社コラムで、Mythos Previewの性能は総合的に従来モデルより高いと評価できる一方、「ダントツのオンリーワンというわけではない」と指摘する。Mythosから1カ月遅れで登場したGPT-5.5-Cyberも同等の性能を示し、2026年4月に発表されたスタンフォード大学のAIレポートでも「各社の生成AI基盤モデルは性能差が非常に小さい」との分析がなされているという。坂本氏は、企業が備えるべきはMythos単体ではなく、今後も次々登場する新モデルとAI時代そのものだと結論づけている。
業界への波及と今後の焦点
Mythosシリーズの経緯は、フロンティアモデルの性能競争が「公開すればするほどリスクが増す」というジレンマを可視化した点で象徴的だ。企業向けには「Enterprise Frontier Safeguards」(EFS)が今秋以降段階展開され、安全対策データを顧客管理のクラウドに保管する仕組みも導入される。良性リクエストの誤検知は「Fable 5」提供開始時と比べ85%減、Claude Code利用時のセキュリティ関連介入も1セッション平均で約60%減少したとされ、性能向上と誤検知抑制の両立が次の競争軸になりつつある。