ECの商品発見が「検索」から「AIによる選定」へ移行する中、AmazonとShopifyは対照的なAI戦略を打ち出している。両社の違いを理解しないまま放置すれば、AIに商品が推薦されず販売機会を逃すリスクが現実味を帯びてきた。
Amazonは供給側を最適化する「Help Me Decide」
Amazonは2025年10月23日、ショッピングアプリ上でAIが「最適な1点」を提示する新機能「Help Me Decide」の提供を開始した。Axiosによれば、同機能は大規模言語モデルとクラウド技術を用いて閲覧履歴、商品詳細、レビューを分析し、メインの推薦に加えて「アップグレード版」「予算重視版」の代替案も提示する。類似商品を数点閲覧した後や、ホーム画面の「Keep shopping for」欄からボタンが表示される仕組みだ。ただし、広告掲載やブランド提携、自社ブランド商品がAIの推薦に影響を与える可能性も指摘されている。
さらにAmazonは2026年7月27日から、メディアを除く全カテゴリーの商品名をスペース込みで75文字以下に制限する新ルールを適用する。コマースピックの報道によれば、素材や推奨用途などの補足情報は最大125文字の「商品のハイライト」欄に分離され、この欄も検索対象となる。AIが商品名とハイライトの推奨内容を自動生成するツールも提供され、75文字を超える既存商品名は段階的に更新される。ブランド所有者にはAI生成内容を確認・修正・承認する14日間の猶予が設けられる。
Shopifyは事業者支援を軸にした需要主導型AI
一方Shopifyは、事業者の販売促進を支援する「需要主導型」のAI設計を貫く。Marketplace Pulseの分析では、Amazonのアルゴリズムが倉庫・配送・自社推薦という「Amazonが管理する要素」を最適化するのに対し、Shopifyの「Shopify Magic」や「Sidekick」は商品説明生成、メール施策、顧客対応の自動返信など「事業者が管理する要素」を強化するという。Amazonでは年間約100万の新規出品者が入れ替わり可能な在庫供給源として扱われる構造だが、Shopifyは事業者の売上創出そのものが収益源であるため、AIツールは常に事業者の成功を支える方向に設計されている。
Shopify Japanが2025年9月30日に発表した事業者調査でも、この傾向は数値で裏付けられる。Shopify Japanのプレスリリースによれば、グローバルの事業者の54%が商品説明やブログ、SNS投稿などのコンテンツ生成に今年中にAIを導入予定と回答し、55歳以上の経営者では61%に達した。さらに47%が商品レコメンドやソーシャル広告などのマーケティング施策へのAI導入を予定し、商品画像強化39%、データ分析35%、カスタマーサービス改善31%、業務プロセス自動化31%と続く。日本ではHer lip toやAnkerグループがすでにShopifyのAI機能を活用し、越境ECの推進やサポート業務の効率化を実現している。
投資家も注目する両社の「エッジ」の違い
この戦略の差は株式市場でも比較材料となっている。TradingViewのレポートによれば、Shopifyは構造化カタログ、リアルタイム価格、在庫データを武器に、ChatGPTやMicrosoft Copilot、Googleなど複数チャネルへ事業者を接続する「中央商取引レイヤー」を目指す。一方Amazonの強みはインフラ所有、クラウド規模、広告収益化、フルフィルメント効率にあるとされ、両社は「AIが実験段階から実際の取引フローへ移行する局面でどちらが優位に立つか」という文脈で比較され続けている。
EC事業者が今すぐ着手すべき商品情報整備
コマースピックが整理した実務対応として、商品名・型番・容量・価格・在庫情報をモール横断で一元化する「原本管理」、カテゴリーごとの命名ルール策定、属性項目の網羅的な登録、利用シーンの具体化、画像内情報のテキスト化という5つの取り組みが挙げられている。特にAmazon出品者は75文字制限への対応として、既存商品名の棚卸しと、AI推奨内容を確認する14日間の活用が急務となる。Shopify Singaporeのブログは、AIによるスマート商品レコメンドが売上を最大3倍、コンバージョン率を2倍超、注文単価を5割増加させ得ると紹介しており、McKinseyの試算では2030年までにエージェント型コマースが米国だけで最大1兆ドル、世界全体では3兆〜5兆ドル規模の小売取引を仲介する可能性があるという。商品データが機械可読でエージェントフレンドリーであるかどうかが、AIに選ばれるか無視されるかを左右する時代に入りつつある。



