2025年7〜9月、AIエージェント関連M&Aが最高水準に
米CBインサイツと日本経済新聞の分析によれば、2025年7〜9月期のAIスタートアップによるM&A件数は172件に達し、四半期ベースでは同年4〜6月期の181件に次ぐ過去2番目の水準となった。注目すべきは、この期間の大型エグジット上位5件のうち3件が「AIエージェント」関連の企業だったという点だ。自律的に作業をこなすエージェント型ツールが、投資家だけでなく買収する側の事業会社からも高い評価を受けていることを示している。日本経済新聞の報道では、米国拠点スタートアップのM&Aがエグジット全体の59%を占め、2021年4〜6月期以降で最高水準に達したことも明らかになっている。
Anthropicが画面操作AI企業Verceptを買収
この流れを象徴する動きが2026年2月25日に発表された。米Anthropicは、コンピュータ画面を視覚的に理解し自律操作するAIエージェントを開発するシアトルの新興企業Verceptを買収したと明らかにした。買収額など詳細な条件は非公表だが、狙いは明確だ。自社モデル「Claude」が備えるコンピュータ操作機能「Computer Use」を強化し、人間がキーボードやマウスを扱うのと同じように、Claudeがアプリケーション内で複数ステップの複雑なタスクをこなせるようにすることにある。ビジネス+ITによれば、Verceptは2024年設立でアレン人工知能研究所(Ai2)出身者らが立ち上げ、2025年1月には元Google CEOのエリック・シュミット氏らから1600万ドルを調達していた。同社のMac向けアプリ「Vy」はローカル環境で動作し画面のUI要素を人間同様に解釈する技術を持っていたが、買収に伴い30日以内にサービスを終了し、開発チームはAnthropicに合流してClaudeの機能強化に専念する。
ワークデイやナイスも能力獲得型買収を連発
大手法人向けソフトウエア企業による「時間を買う」買収も目立つ。人事・財務ソフト大手の米ワークデイは、AIを活用したeラーニング企業サナラボ(スウェーデン)を11億ドルで買収したほか、同四半期中にエージェント構築ツールのFlowiseとAI採用プラットフォームのParadoxも取得し、合計3社を買収した。買収社数では米セールスフォースの4社に次ぐ2位となった。法人向けソフトの米NiCEはカスタマーサポート新興の独Cognigyを9億5500万ドルで、豪Atlassianは AIブラウザ「Arc」「Dia」を手掛ける米The Browser Companyを6億1000万ドルで、それぞれ買収している。既存のソフトウエア企業がAI導入を加速するため、開発済みのエージェント技術ごと企業を取り込む動きが鮮明になっている。
資本市場ではメガラウンドとインフラ集中投資も並走
買収だけでなく、資金調達も高水準が続く。同四半期にはメガラウンドが6件成立し、上位はAnthropicのシリーズFで130億ドル、OpenAIがPEファンドから83億ドル、仏Mistral AIがシリーズCで15億ドルと、基盤モデル開発企業に資金が集中した。OpenAIは2025年7月時点で年換算売上高120億ドルに達した一方、年間の現金支出は約80億ドルと報じられている。英エヌスケール(データセンター、11億ドル)や米グロック(AI半導体、7億5000万ドル)などインフラ企業も上位10件に入り、決算説明会でのデータセンター言及回数は過去最高を記録した。一方でエージェント専業の新興企業にも資金は流れ続けており、AIエージェント向けインフラのSapiomは設立11カ月でシリーズA3500万ドルを調達し累計5000万ドルに、SalesforceのAgentforceの担当者を含むメンバーがおらSalesforce元幹部Efrat Rapoport氏創業のJuneはプレシードで2000万ドルを調達した(PANews)。
業界への含意——買収は「技術と人材のショートカット」に
一連の動きが示すのは、AIエージェント市場では自社開発よりも「実装済みチームの獲得」が競争優位に直結するという構図だ。Anthropicのケースでは、Verceptが持つコンピュータビジョンとエージェント設計のノウハウを、製品開発チームごと吸収する形が取られた。ワークデイやNiCEの事例でも、独自にゼロから開発するより買収でスピードを確保する判断が働いている。CBインサイツのデータでは、AIスタートアップに対する買収件数が過去最高を更新し続けており、エージェント型ツールがそのけん引役となっている。今後もフロンティアモデル開発企業への巨額投資と、実装能力を持つ中小エージェント企業の買収という二つの潮流が並走し、市場再編は当面続くとみられる。




