中国の生成AI規制は、2023年に制定された枠組みを土台にしながら、2026年に入り新たな段階へと踏み込んでいる。当初は生成物の内容そのものを取り締まる「コンテンツの安全」が主眼だったが、直近ではAIが利用者の感情に入り込む行為、さらにはAIが体験していないことを語る「虚偽の語り」までもが規制対象として浮上している。
土台となった生成AIサービス管理暫定弁法
中国では2023年7月10日に「生成人工知能服務管理暫行弁法」が公布され、同年8月15日から施行された。PwC Japanの解説によれば、この暫定弁法は2021年の「インターネット情報サービスアルゴリズム・レコメンデーション管理規定」、2022年の「インターネット情報サービス深度合成管理規定」に続く3本目の柱であり、生成AIアルゴリズムの利用に関する明示と届出を事業者に義務付けている。届出は原則としてサービス提供日から10営業日以内に行う必要があり、変更時も同様に10営業日、サービス終了時は20営業日以内の抹消手続きが求められる。KPMGの調査では、2025年5月時点でアルゴリズムの届出件数が累計575件に達したことが報告されている。
擬人化AI規制、未成年への「AI恋人」を全面禁止
2026年4月10日、CACなど5部門は「人工知能擬人化互動服務管理暫行弁法」を公布し、同年7月15日から施行した。JBpressの報道によれば、第14条は未成年者への仮想の親族・パートナーといった親密な関係の提供を禁じ、第8条は未成年の心身に悪影響を及ぼす行為の模倣や、利用者の過度な感情依存を誘発するサービスも禁止対象とした。AI新聞は、この規制が「継続的な感情的インタラクションサービス」に対象を絞り込む一方、カスタマーサポートや学習教育などは適用除外とした点を伝えている。米ニューヨーク大学ロースクールのWinston Ma非常勤教授は、2023年の生成AI規制と比較し「コンテンツの安全から感情の安全への飛躍だ」と評した。規制の背景には、MiniMax社のアプリ「星野(Talkie)」が2025年9月時点で累計利用者1億4700万人、月間アクティブ利用者488万人に達するなど急拡大したAIコンパニオン市場の存在がある。施行日には豆包(Doubao)、通義千問、騰訊元宝といった大手アプリがAIエージェント機能を一斉に停止する対応を取った。
矛先は「虚偽の語り」へ拡大
施行から3週間後の8月、規制の焦点はさらに移った。中国版Instagramと呼ばれる小紅書(RED)は、AI生成コンテンツの管理ルールを強化し、AIバーチャルヒューマンのアカウント表示を義務化した。深セン在住の吉川真人氏のレポートによれば、問題視されているのは「AIを使っていること」自体ではなく「AIが人間のように振る舞い、存在しない経験や知識を語ること」だという。CACのガイドラインに沿った運用では、表示不備は指導・警告・是正通知を経て機能停止やコンテンツ削除に進み、意図的な回避と判断されれば年間売上高の最大5%相当の罰金、サービス停止、ライセンス取消まで想定される。象徴的な事件として、再生回数2.6億回、広告出演ギャラが60秒600万円規模とされるAIキャラクター「方桃子」が、装着体験のないコンタクトレンズ広告で「1日装着しても快適」と発言し炎上したケースが挙げられている。また5月には山西省大同市で、著名人の肖像を無断でデジタルヒューマン化し本人が商品推薦しているように見せてライブコマースを行った運営者が行政拘留された。
外資締め出しと国産AI保護の構造
ITmediaの分析は、生成AIサービス管理暫定弁法が商用提供前の政府審査・承認を義務付け、AIモデルが「核心的社会主義価値観」に沿うことを求めている点を指摘する。これにより外資系企業は政治的非中立性を問われやすく、審査の遅れが市場参入スピードに影響する構造になっている。BrainPadの解説も、違反時にはサイバーセキュリティ法やデータセキュリティ法、個人情報保護法に基づく行政処分に加え、状況次第で刑事責任が追及されうると説明する。一方で中国製LLMはDeepSeek「R1」やアリババ「Qwen 3」などグローバル競争力を高めており、2025年時点で150件超の中国製生成AIモデルが政府承認を受け、うちLLMは約50件を占める。
日本企業への実務的インプリケーション
中国当局の規制は、コンテンツ検閲、感情依存の抑止、そして虚偽発言の摘発という三段階で対象を広げてきた。日系企業が中国でAIチャットボットやバーチャルヒューマンを活用する場合、CACやMIITへの届出・商用審査を前提としたPoC設計に加え、AIキャラクターの発言内容が実体験を伴わない虚偽表示に当たらないかの事前チェックが不可欠になる。特に広告起用や感情的インタラクションを伴うサービスは、規制強化のスピードが極めて速いため、継続的なモニタリング体制の構築が求められる。




