AI診断支援システムの医療現場への導入が、具体的な数値成果を伴って進みつつある。NECと東北大学病院が2023年に医師10名の協力を得て実施した実証では、生成AIを用いてカルテから診療情報提供書や退院時サマリーの下書きを自動生成したところ、医師が新規に作成する場合と比べて作成時間が平均47%削減された。看護分野でも、日々の看護記録から退院時看護サマリーを作成する生成AIサービスにより作成時間が平均42.5%減少し、心理的負担も27.2%軽減したことが、厚生労働省・中央社会保険医療協議会の関連組織「入院・外来医療等の調査・評価分科会」の調査で確認されている(NEC)。転倒転落リスク評価でも、AIが看護記録を解析することで判定時間が患者1人あたり5分から0分に削減され、インシデント報告件数は導入前460件から284件へ61.7%減少した。
治験患者登録や画像診断でも実証進む
診断支援は文書作成業務にとどまらない。NECと東北大学病院は2024年10月から12月まで、医療特化型LLMを用いて電子カルテ情報から治験候補患者を抽出する実証実験を婦人科の子宮体がん患者を対象に実施し、条件適合患者の抽出精度向上を確認した。日本の新薬開発ではドラッグラグ・ロスが課題となっており、症例集積期間短縮への寄与が期待される(NEC)。産総研は膀胱内視鏡の深層学習診断システムで2020年・2021年に日本泌尿器科学会総会賞を受賞したが、実証実験段階で製品化には至っていない。国内で製品化・普及が進むのは大腸内視鏡や胃カメラなど消化器内視鏡分野が中心で、2022年度診療報酬改定ではAIを用いた画像診断補助(単純・CT撮影)への加算が保険適用された(産総研)。
薬事承認41件、米国1000件超との差
現場での効果が見え始める一方、制度面の遅れが指摘されている。日本医療政策機構(HGPI)が2026年4月17日に開催した産官学民の専門家会合の論点整理によれば、日本のAI医療機器の薬事承認数は2024年時点で約41件にとどまり、米国の1000件超と比較して発展の余地が大きい。同機構はAI診断支援を「医師の判断を補助するツール」と位置づけ、社会実装の鍵として、エビデンス構築、PMDA審査体制の強化、市販後運用ルールの見直し、市民・患者の信頼醸成、保険償還の「谷」への対応、希少疾患領域でのデータ活用基盤整備という6領域を課題として提示した。特に診療報酬上の評価に加え、暫定保険適用や保険外併用療養、補助金、バウチャーなど多層的な経済的インセンティブの組み合わせが必要だとしている(日本医療政策機構)。2027年度には「医療機器基本計画」が第3期に改定される予定で、2026年3月に中間とりまとめが公表された。
アジア各国の導入は先行、韓国は導入率60%
近隣国の動きはより速い。韓国では新医療技術評価機構(NECA)が、直近5年間で評価を完了した355件のうち214件、率にして約60%が実際に現場で採用されたと公表した。革新医療技術は40件が指定され、評価猶予は全国2378件に上る(CHOSUNBIZ)。韓国のJLKは脳卒中診断AIを軍病院にサブスクリプション形式で導入し、診療フローの標準化と迅速展開を実現している(CHOSUNBIZ)。中国でも、インタセクト・コミュニケーションズの現地法人が開発した診療所向け統合管理システム「Clinic Way」が、AI診断支援・処方監査機能を搭載し、成都市を中心に中国の医療機関6000箇所以上に導入されたと2026年4月に発表された。18万件以上の医薬品添付文書データをもとに薬剤の相互作用を自動チェックする機能も持つ。
信頼醸成とデータ基盤が今後の焦点に
日本の現場効果は数値として着実に積み上がっているが、HGPIが指摘する通り「信頼」の醸成が最大の障壁として残る。中立的な情報発信基盤の構築や、希少疾患領域でのプライマリケア導入支援、オーファン医療機器指定制度の見直しなど、非線形な制度改革が中長期の課題となる。国内医療機関の経営者や事業者にとっては、短期的な業務効率化の実証データを積み上げつつ、2027年度の医療機器基本計画改定に向けた保険償還制度の議論を注視する姿勢が求められる。
