全国100病院・2,000施設へ、AI診断支援の実装が加速
医師とエンジニアが創業したUbie株式会社の生成AIソリューションは、2024年の提供開始からわずか1年半で、大学病院10施設以上を含む全国100病院に導入された。Ubieのプレスリリースによれば、2026年1月時点の月間利用数は10万セッションを突破し、現場発案のプロンプトテンプレートなど8,000件以上のユースケースが創出されている。特定の電子カルテに依存せず、院内システムと連携できる柔軟性が採用拡大の背景にあるという。導入病院の内訳は大学病院から中規模の急性期病院まで幅広く、診療科横断で問診補助や記録作成の効率化に使われている点が特徴だ。
画像診断支援の領域でも普及が進む。クラウド型医療情報管理共有システム「LOOKREC」は導入施設数2,000施設を突破したと発表され、画像診断支援AIや3Dビューワなどの診療支援機能を拡充しながらクリニックへの導入を加速させている。産総研の解説によれば、国内で最も実用化が進んでいるのは大腸内視鏡や胃カメラといった消化器内視鏡分野で、MRIやX線でも補助診断ソフトの組み込みが広がっている。開業医向けクリニックでも導入が伸びている背景には、大病院に比べ専門読影医が常駐しにくいという構造的事情があり、AIがセカンドオピニオン的な役割を担い始めている。
定量効果は明確、九州大学病院は年6,500万円の収益改善見込み
導入効果は数値として表れ始めている。恵寿総合病院では退院時看護サマリの作成時間を42.5%削減し、看護師の心理的負担も27.2%軽減した。南部徳洲会病院では音声要約機能を月間約4,000件の業務に活用し、月約200時間の業務時間を創出。亀田総合病院の実証実験では、電子カルテ連携によりがん登録業務の情報収集時間を年間約3割削減できることが確認された。これらの効果は単発の実証にとどまらず、複数施設で再現性のあるデータとして蓄積されつつある点が評価されている。
収益面では九州大学病院が象徴的だ。「ユビーDPCサポーター」の活用でDPCコーディングの精度向上と効率化が進み、年間6,500万円以上の収益改善見込みが確認されている。NECのコラムが紹介する厚労省・中医協の調査でも、転倒・転落予測システムAIの導入により患者1人あたり5分かかっていたリスク判定時間がゼロになり、インシデント報告件数は導入前460件から284件へ61.7%減少したと報告されている。これらの数値は、AI導入が単なる業務効率化にとどまらず、医療安全と収益構造の両面に直接寄与し得ることを示している。
薬事承認は41件、米国の1,000件超との差が政策課題に
現場での広がりとは裏腹に、制度面の遅れが指摘されている。日本医療政策機構(HGPI)が2026年5月に公表した論点整理ペーパーによれば、日本のAI医療機器の薬事承認数は2024年時点で約41件にとどまり、米国の1,000件超と比較して発展の余地があるとされる。HGPIは2026年4月17日に開いた専門家会合で、AI診断支援の臨床的価値の可視化、医療現場への導入障壁、難病・希少疾患領域での診断ラグ短縮などを議論した。
論点は、エビデンス構築、PMDAの審査体制・チャレンジ申請等の薬事制度、市販後運用、市民・患者の信頼醸成、保険償還の「谷」を埋める経済的インセンティブ、希少疾患領域でのデータ活用基盤整備の6領域に整理されている。2027年度には「医療機器基本計画」の第3期計画への改定が予定されており、2026年3月には中間とりまとめが公表済みだ。自見はなこ参議院議員や橋本岳衆議院議員もビデオメッセージで各ステークホルダーへの期待を寄せている。承認数の差は審査プロセスの厳格さの違いだけでなく、開発企業側の治験・エビデンス構築コストの負担感にも起因するとみられ、HGPIは経済的インセンティブ設計の重要性を強調している。
技術面の課題は「説明可能性」、画像診断以外への展開も
産総研の解説では、厚生労働省が重点領域に掲げるのはゲノム医療、画像診断支援、診断・治療支援、医薬品開発、介護・認知症、手術支援の6分野で、うち最も活用が進むのが画像診断支援だという。画像診断支援には、医師が診る前にAIが判別する方式、医師が診た後のダブルチェック方式、AIと医師が同時にリアルタイムで診る方式の3つの用途があり、いずれも見逃し軽減と負担分散を狙う。
一方で、AIが「なぜがんだと判断したか」という理由を医師のように説明できない点は依然として課題であり、産総研は説明可能なAI診断の研究を継続中だ。2022年度の診療報酬改定でCT・単純撮影の画像診断補助に対するAI加算が保険適用されて以降、制度と技術の両輪で普及が進んできたが、HGPIの論点整理が示す通り、保険償還や薬事承認のスピードが臨床現場の実装ペースに追いついていない状況が続いている。今後は画像診断以外の領域、特にゲノム医療や手術支援へのAI応用拡大が見込まれるが、いずれも説明可能性とエビデンスの蓄積が普及の前提条件になるとみられる。
