韓国のメモリ株の下げは、1日では止まらなかった。10月13日の韓国市場は、前日の下げ幅をほぼ倍にして引け、KOSPI は −5.46%、SK hynix は −10% だったとSBS や アジア経済が報じている。日本のキオクシアも −13% で続いた。この記事は報道ベースであり、取引所や各社の一次情報には到達していない。
前日の下げは、Microsoft が推論用の自社チップ Azure Maia 300 を発表したことと、中国の CXMT(長鑫存儲)の DRAM をめぐる観測が材料として挙げられていた(既報)。2日目に下げが加速したのは、新しい事実が加わったからというより、メモリ好況の天井への疑いが『CXMT の 4F² DRAM』という具体的な名前と、Broadcom の CEO Hock Tan の『カジノ』発言という引用できる言葉を得て、外国人の売りの理由として使えるようになったからだと報じられている。
2日目の下げは、1日目の倍になった
SBS とアジア経済によれば、13日の売りの主役は外国人投資家だった。前日に下げた銘柄を、外国人がさらに売り、韓国市場の中でも SK hynix と Samsung Electronics のメモリ2社に売りが集中したという。ソウル経済(Sedaily)は、この下げで韓国市場の時価総額が節目を割り込んだと報じ、『中国のチップの恐怖が戻ってきた』と見出しに掲げている。
日本のキオクシアが −13% で続いた点は、売りが韓国の個別の事情ではなく、メモリという業種そのものに向いていることを示している。キオクシアは NAND が主力で、SK hynix とは製品の構成が違う。それでも同じ日に同じ向きに動いたということは、売っている側が見ているのは、個々の会社の業績ではなく『メモリの価格はどこまで上がり続けるのか』という1つの問いだということになる。
CXMT の 4F² DRAM が、疑いに名前を与えた
メモリの好況が続くかどうかの疑いは、以前からあった。AI 向けの HBM と、それに引きずられた汎用 DRAM の値上がりが、いつまで続くのかという問いである。ただ、その疑いにはこれまで具体的な根拠がなかった。今週、そこに CXMT の 4F² DRAM という名前が入った。
4F² は、DRAM のセルの面積を従来の 6F² から縮める構造で、同じウエハから多くのチップを取れる。ソウル経済によれば、CXMT がこの構造の DRAM を進めているという観測が、韓国のメモリ2社の技術の優位が長くは続かないのではないかという見方に火をつけたと報じられている。CXMT の生産がいつ、どの規模で始まるのかは、報道からは確かめられない。それでも市場にとって重要なのは、事実の確度ではなく、『供給が増える側の名前』が具体的に挙がったことだった。
Microsoft の Maia 300(既報)が『GPU の需要が減るかもしれない』という需要の側の疑いだったのに対し、CXMT は『DRAM の供給が増えるかもしれない』という供給の側の疑いである。2つが同じ週に重なったことで、メモリの価格の天井を疑う材料が両側からそろった。
Hock Tan の『カジノ』が、資本の側から追い打ちをかけた
もう1つの口実は、半導体の需要側のトップが発した言葉だった。Broadcom の CEO Hock Tan は10月12日、シンガポールで開かれた DBS Asia Future Forward で、AI への投資の資金の流れについて次のように述べたと The Next Web と CNBC が報じている。
多くの投資家は、自分が何に投資しているのか見当もついていない……ほとんどカジノにいるようなものだ
Broadcom は、ハイパースケーラー向けのカスタム AI チップを作る会社であり、AI の設備投資が続くことで最も利益を得る側の1社である。その CEO が、投資家の側の理解を『カジノ』にたとえたことは、AI 投資の資金が、中身を分かって入ってきているわけではないと認めたに等しい。メモリ株を買っている外国人の資金も、同じ資金の流れの一部である。発言は韓国市場に向けたものではないが、韓国の市場参加者はこれを『資金が出ていく理由』として読んだと報じられている。
同じ場で Intel の CEO Lip-Bu Tan は、AI の次の制約を計算資源でも電力でもなく、資本そのものに置いた。
前に課題があるとすれば、資本と資本のコストだ
CNBC はこの2人の発言を『資本の逼迫が AI のボトルネックになりうる』という警告としてまとめている。これまで AI の制約として語られてきたのは、GPU、電力、データセンターの用地だった。半導体のトップ2人が、そのどれでもなく『資本と資本のコスト』を挙げたことは、投資の側が無限ではないという前提に立ち戻ったことを意味する。メモリの価格の上昇が、AI の設備投資の継続を前提にしている以上、資本の側の疑いは、そのままメモリの需要の疑いになる。
供給、需要、資本の3つの疑いが同じ週に重なった
今回の下げを1つの材料で説明することはできない。前日には Maia 300(需要の側)、13日には CXMT(供給の側)と Hock Tan・Lip-Bu Tan(資本の側)が重なった。どれか1つなら、メモリ株は1日の調整で済んだかもしれない。3つが同じ週に並んだことで、『メモリの好況はどこで終わるのか』という問いが、売る理由として十分な形になった。
読みどころは、これらの材料のどれも、メモリの実需が減ったことを示していない点である。CXMT の DRAM はまだ観測の段階であり、Hock Tan の発言は投資家の理解についてのものであり、Lip-Bu Tan の発言は資本のコストについてのものである。それでも株価は2日で大きく下げた。これは、メモリ株の価格が、実需の数字よりも、『好況がいつまで続くか』という期待の側で形作られていたことを示している。
次の試金石は、需要の側の数字である。10月14日には ASML、15日には TSMC の決算がある。AI 向けの設備投資が続いているかどうかは、この2社の受注と見通しに最も早く表れる。両社が強い数字を出せば、今週の売りは『口実を得た一時の流出』に戻る。弱ければ、メモリの天井への疑いは口実ではなく、根拠になる。Hock Tan が『カジノ』と呼んだ資金が、どちらの数字を待っているのかは、その2日で分かる。




