ハルです。今週はゲームの話なんだけど、ゲームをしない人にも関係ある話だと思う。PCゲームの大きな配信ストアのSteamで、10月の新作のだいたい半分が「AIを使って作りました」と表示するようになった。同じ時期にストアの審査待ちがどっと延びて、AIを使っていない小さなスタジオの発売まで止まった。しかもAI作品は数ばかり増えて、売上も評価もぜんぜん追いついてない。今回は一次ソースと報道をまとめて読んでみたよ 👀
日本の会社にとって:Steamやアプリストアで自社の作品を売っているゲーム会社や制作会社なら、審査が案内より何週間も延びると発売日も入金日もずれるから、年末商戦の資金繰りに直接ひびく話だよ。それ以外の会社には直接の影響はまだないけど、AIでだれでも大量に作れるようになると、作る工程より審査や店頭での目立ち方のほうが詰まる、という先行例として見ておくといいと思う。
10月の新作3,897本のうち1,982本がAI表示
数字の出どころは、Substack(個人がニュースレターを出せるサービス)で連載している個人の調査者、Sulka Haroさんの全数調査。2023年7月から2026年11月2日までにSteamで発売された65,287本の店舗ページを全部集計したんだって。Steamには、AIで作った絵や文章などが入っていると開発者が自分で申告する欄(AI Generated Content Disclosure)があって、それが付いているかを数えたもの。連載第3回の記事によると、10月の新作3,897本のうち1,982本、約51%がこの表示を付けていた。
伸び方も急になっている。表示作品の割合は月に約1.3ポイントずつ増えていたのが、約2.5ポイントずつに加速した。7月の時点では半分に届くのは2027〜28年ごろと見ていたのに、約9か月早まったそう。10月に初めてゲームを出した開発者で見ると、AI表示ありが1,466人、なしが1,326人で、ここで初めて逆転した。月ごとの発売本数の増えた分のうち68%がAI表示作品だった、というのも大きい。新しく入ってくる人の多くがAIを使っている、ってことだよね。
ただ、本人がかなり慎重に断り書きを付けていて、ここは大事。まず「過半数と言うには僅差」だから、「AI作品が多数派になった」とは書かない、と言っている。週ごとに見ると52%、50%、56%、51%と揺れていて、11月最初の2日は43%に下がった。次に、2026年1月からSteamの申告欄はコードを書くのにAIを使っただけなら対象外になった。だからこの半分には、プログラムだけAIで書いた作品が入っていない。実際にAIを使った作品はもっと多いかもしれないし、そもそも数字の意味が違うのかもしれない。
もうひとつ。表示をあとから外す作品も出ていて、7〜10月に105本が表示を消した。しかも売れている作品ほど外す率が高くて、レビューが100件以上ある作品では2.5%、10件未満では0.7%だった。売れたら「AI使用」の看板を下ろしたくなる気持ちはわかるけど、見えている割合が実態どおりとは限らない、ってことだね 🤔
本数は42%なのに売上は約12%
ここからが本題だと思う。同じ調査によると、前の四半期(3か月)にAI表示作品は発売本数の42%を占めていたのに、売上の推計では約12%しかなかった。AI作品の発売数は2026年の第2四半期の2,059本から第3四半期の3,391本へ増えている。でもお金のほうはついてきていない。
さらに偏りがすごい。各四半期とも、売上上位の2本だけでAI作品全体の売上の83〜92%を占めていた。つまり大当たりした数本以外は、ほとんど売れていない。上位2本を除いた1本あたりの売上は、第2四半期の約1万3,700ドルから第3四半期の約7,200ドルへ、半分近くまで落ちた。出す本数が増えたぶん、1本あたりの取り分が薄くなっている。
評価も低め。平均評価はAI表示ありが76.4、なしが81.5だった。50万8,192件のレビューを分析したところ、おすすめ率はAI表示作品が68.4%。手続き生成(プログラムに決めたルールで地形やダンジョンを自動で作る、AIブーム以前からある手法)を使った作品は86.3%だった。どちらも「機械に作らせる」点は同じなのに、お客さんの受け止め方はかなり違うんだよね。
ただし、売上はSteamが公表している数字じゃなくて推計。レビューの数に30を掛けて、さらに定価を掛けるという大まかな計算で、本人も「桁が合っているかを見る程度の目安」と注記している。なのでドルの細かい数字はそのまま信じないほうがいい。それでも、本数4割に対して売上1割ちょっと、という差は目安としても大きいと思う。
審査は最大12営業日に。止まった9人のスタジオ
数が増えた影響は、売る側のストアにも出ている。Steamを運営するValveは、開発者向けのSteamworks公式ブログで、ここ数か月、店舗ページとゲーム本体の審査の申請が大きく増えたと説明した。審査には最大12営業日かかるという。これまでの案内は3〜5営業日で、公開したい日の7営業日以上前に申請するよう勧めていた。時間の多くは、不備があった作品の再審査に取られているそう。対策として、発売前に開発者が自分で確かめるチェックリストに項目を足すとしている。
その遅れで困った開発者をKotakuが取材している。報道によると、イタリアの9人のスタジオStudio Daimonは4年かけた『Food Devils』を10月12日に申請して、11月3日に発売する予定だった。でも当日になっても承認が出なかった。10月26日に指摘を受けてすぐ答えたのに、7日間返事がないという。Steamの売上が入金されるのは1か月後だから、年末の収入を当てにしていたそう。4年がかりの作品でこれはきつい…。
ほかにも、『Caravarn Carnage』は10月16日の申請から11月1日の承認まで、『Ashen Legacy』は10月15日から11月1日まで待たされたと報じられている。『Wheel Make It』は3週間遅れた。『Cubic Earth』の開発者は「発売時期の見通しが立たない」「Steamからの自然な流入がまったく無くなった」と話している。Kotakuは、10月のSteamの発売は約4,000本で、うち半数近くがAI表示だったとも書いている。
ここは書き分けておきたい。遅れの原因がAI作品の急増だというのは、開発者側の推測にすぎない。Valveのブログは申請が増えたことと再審査の負担を挙げているだけで、生成AIには一言も触れていない。Kotakuも、Valveがもっと具体的に言わない限り証明はできないと書いている。Valveは、開発者がどの道具を使うかを指図する門番にはなりたくないとして、AI作品を締め出す考えはないと示している。Kotakuの取材には、状況は十分わかっていて、たくさんの人員が解決策を考えている、と答えたと報じられている。
印象に残ったのは、Food Devilsの開発者の言葉。「審査する人たちにも同情する。数週間かかるならそう言ってほしい。3〜5日と約束しないでくれ」。審査員を責めているんじゃなくて、案内と実際がずれていることに怒っているんだよね。これは仕事でもよくある話だと思った 💡
itch.ioも投稿が倍増、「数テラバイト」を削除
同じことは、個人の作品が多い投稿サイトitch.io(インディーゲームや自作の本などを売り買いできるサイト)でも起きている。Kotakuが引用した運営の公式Bluesky投稿によると、1日に作られるゲームページの数は、8月3日から10月30日のあいだに3,000ページ強から6,000ページ超へと倍になった。でもダウンロードや購入は同じようには増えていない。ここでも、数だけ増えて買われていない。
意外だったのは、増やしているのが大量に投稿する業者じゃなくて、初めて投稿する人たちだという点。AIを使えば自分でもゲームが作れる、と思った人が一気に入ってきたんだね。それ自体は悪いことじゃないけど、運営はAIで作られた作品を「数テラバイト」削除したと報じられている。さらに、卓上ゲーム、本、漫画、サウンドトラックにもAI使用の表示を義務づけた。11月3日には、検索結果でAI作品を絞り込める機能を加えると表明している。
全面禁止を求める声もあるけど、運営は表示の義務づけと絞り込みまでにとどめた。Kotakuは、AIで書いたコードはいいけど画面に出る絵はダメ、という作り手もいると指摘していて、どこまで許すかは人によってかなり違う。Steamがコードの利用を申告の対象から外したのと考え合わせると、「AIを使った」のひとことで線を引くのはもう難しくなっているんだと思う。
まとめると、AIで作るのが安く速くなっても、売れるのはごく一部で、その周りで詰まるのは審査やお客さんに見つけてもらうところ、ということ。しかもそのしわ寄せは、AIを使っていない小さなスタジオにも来ている。ハル的には、AIを使うかどうかより、案内どおりに審査が回らないことと、増えた作品の山から選べないことのほうが問題だと感じた。itch.ioの絞り込みみたいに、選ぶ側の道具が追いつくかどうかを次は見ていきたいな 🛠️




