9月末から OpenRouter に名前を伏せて出ていたモデル『Space Bunny Alpha』の開発元が、ようやく分かった。中国の MiniMax が、これは自社の MiniMax M3.1 Flash だったとブログで明かした(MarkTechPost は10月19日に報じた)。MiniMax によれば、匿名の期間に処理したトークンは2京を超える。M3.1 Flash はエージェント向けのモデルで、MiniMax はフロンティアに近い性能だとしている。それでいて出力の値段は100万トークンあたり0.60ドルにとどまる。ただし重みはまだ出ておらず、公開は『後で』とされている。性能の数字もほとんどが MiniMax 自身の測定である。
匿名の3週間に残っていた手がかり
本紙は10月1日に、OpenRouter に正体の分からない隠しモデルがあると伝えた。文脈は100万トークン、最大出力は524,288トークンで、無料の期間は10月5日まで延びていた。このモデルは10月5日の16〜19時(UTC)ごろに掲載から消えた。名乗り出る開発元はなかった。
当時、仕様が最も近かったのは MiniMax の M3.1-Flash-Preview である。MiniMax は北京時間の9月27日、このモデルを自社のコーディング道具 MiniMax Code の中だけで出していた。文脈は同じ100万トークンである。本紙は『最も有力だが確度は中程度』と書いた。今回 MiniMax 自身がそれを認めたことで、推測が事実になった。
開発元を伏せてモデルを出し、実際の負荷で試してから名前を明かすやり方は、OpenRouter ではもう珍しくない。開発者は正体を知らないまま使い、どれだけ使われたかがそのまま評価になる。MiniMax はこの段階を経てから正式に発表したことになる。
出力0.60ドルの位置づけ
出力100万トークンあたり0.60ドルを、最近出た他社のモデルと比べてみる。
上位のモデルはずっと高い。Claude Opus 5.5 は出力20ドル、GPT-6 Sol は10ドル、StepFun の Step 5 Preview は2.70ドルである。M3.1 Flash はこれらの数十分の一から数分の一になる。一方、安い側では GPT-6 Luna と Claude Haiku 5.5(10万トークン以下のプロンプト)がどちらも出力0.50ドルである。Xiaomi の MiMo-V2.6-Flash は0.28ドル、NaiveAI の Naive-N0.5-Flash は0.40ドルとさらに安い。M3.1 Flash は、最も安いモデルというわけではない。
それでも価格に意味があるのは、MiniMax が M3.1 Flash を『安い小型モデル』ではなく、フロンティアに近いエージェントのモデルとして出しているからである。計画は高性能なモデルに任せ、実行は安いモデルを並べて回すサブエージェント別モデル割当の構成では、実行を担うモデルの単価がそのまま全体の費用になる。100万トークンの文脈と大きな出力の上限を持つ0.60ドルのモデルは、まさにその役を狙っている。
ただし、トークンあたりの単価だけでは費用は比べられない。10月の Claude Haiku 5.5 では、単価は安いのに1タスクで約16.2万トークンを使い、GPT-6 Luna の約3倍になった。M3.1 Flash が1つの作業にどれだけのトークンを使うかは、まだ分からない。0.60ドルがどこまで安いかは、そこで決まる。
重みは『後で』、数字は自社のもの
M3.1 Flash には大事な留保が2つある。
1つ目は重みである。MiniMax は重みを後で出すとしているが、いまはまだ出ていない。同じ週には、DeepSeek が V4.1-Flash-1017 の重みを MIT ライセンスで出し、StepFun も予告していた10月15日に Step 5 Preview の重みを出した。中国のライバルが約束どおり重みを出している中で、M3.1 Flash はいまのところ API でしか使えない。いつ、どのライセンスで出すかが次の焦点になる。
2つ目は性能の数字である。報道が伝える比較の数字の大半は、MiniMax の自己申告である。Artificial Analysis はこのモデルの項目を作ったが、MiniMax が売りにするエージェントの能力を第三者がまとめて確かめた形にはなっていない。自社の数字が独立した評価で割り引かれた例は、最近にもある。Xiaomi は MiMo-V2.6-Pro を『Opus 5 と同等』としたが、Artificial Analysis の指数では5点下だった。Haiku 5.5 の Terminal-Bench 4.0 も、Anthropic の申告は39.2%、Artificial Analysis の測定では33%だった。
匿名期間の『2京トークン超』という数字も MiniMax によるもので、何を数えたのか(入力と出力の合計か、どの期間か)は分からない。参考までに、9月半ばの OpenRouter の集計では、中国製モデル全体の週間の処理量が約67兆トークンだった。2京はそれよりずっと大きい。数え方が分かるまでは、MiniMax の主張として読むのが妥当である。
次に確かめること
M3.1 Flash の評価は、次の3点で決まる。1つ目は、重みの公開日とライセンス。2つ目は、Artificial Analysis や Vals AI などの第三者がエージェントの課題を測り、1タスクあたりの費用とトークン数を出すこと。3つ目は、匿名の期間に開発者がどれだけ使い続けたかで、これは OpenRouter の今後の順位に表れる。
MiniMax の株価は、10月8日に香港で13.74%下げて207.2香港ドルになっていた。中国のオープンウェイトの上位勢が重みと安さを競う中で、MiniMax はまず匿名で性能を試し、その後に値段で勝負に出た。いまのところ重みは出ておらず、性能の数字も自社のものである。0.60ドルという値段が本当に安いのかは、まだ分からない。




