AI業界標準のベンチマーク団体MLCommonsは2026年6月16日、学習性能を測る「MLPerf Training v6.0」の結果を公開した。MLCommonsの発表によれば、今回のラウンドでは新たに2種類のベンチマークが追加され、提出企業の多様化が進んだ。中心的な話題となったのは、671億パラメータ超のMoE(混合専門家)モデル「DeepSeek-V3」の学習性能で、NVIDIA、AMD、CoreWeaveなど複数陣営がそれぞれ異なるハードウェア構成で記録を競った。
CoreWeave、8192基のGB300で2.02分を記録
クラウド事業者のCoreWeaveは2026年6月17日、自社クラウド基盤上でDeepSeek-V3 671Bの学習を2.02分で完了させたと発表した。HPCwireの報道によれば、これは8,192基のNVIDIA GB300 NVL72 GPUを用いた構成で、今ラウンドに提出された中で最大規模のGB300クラスタだったという。CoreWeaveは顧客が実際に利用できる商用インフラと同一環境で計測した点を強調し、「フロンティアモデルが1兆パラメータ規模に達し、エージェント型ワークロードが標準になる中、学習性能はAIチームの反復速度を左右する決定的な制約になっている」との見解を示した。ほぼ線形に近いスケーリング特性を確認できたことも同社は成果として位置づけている。
NVIDIA Blackwell Ultra、半年でスループット51%向上
NVIDIAの技術ブログは、Blackwell Ultra GB300プラットフォーム上でのDeepSeek-V3 671B学習スループットが、2025年11月版NeMoコンテナ(v25.11)の1,088TFLOPS/GPUから、2026年2月(v26.02)に1,219TFLOPS、2026年4月(v26.04)に1,298TFLOPS、そして2026年6月版(v26.06)には1,648TFLOPS/GPUへ向上したと報告した。約半年で51%の性能向上に相当する。同社はこの改善の要因として、トークンをドロップしないMoE構成向けの「フルイテレーションCUDAグラフ」など複数のソフトウェア最適化を挙げ、ハードウェア性能を最大限引き出すにはソフトウェアの継続的な改良が不可欠だと説明している。比較対象として旧世代のGB200プラットフォームとの性能差も併せて示された。
AMDとOracleが挑む——初のFLUX.1学習提出
AMDは2026年6月16日付のブログで、Instinct MI350シリーズGPUプラットフォームによる「これまでで最も包括的なMLPerf学習提出」を行ったと発表した。AMDの発表によれば、単一ノードでの結果に加え、マルチノード学習へ提出範囲を拡大し、MXFP4への対応など生成AI向けの主要ワークロードで進展を示したという。
これと並行して、OracleとAMDは共同で、Oracle Cloud Infrastructure(OCI)上のBM.GPU.MI300X.8インスタンス64ノード・合計512基のAMD Instinct MI300X GPUを用い、画像生成モデル「FLUX.1」の学習を74.436分で完了させたと報告した。Oracleのブログによれば、この結果はMLCommonsの標準的な収束点正規化(RCP)を適用したもので、エントリー番号は「6.0-0032」としてMLCommonsに認証された。両社は2026年6月16日時点で公開された全ラウンドを確認した限り、AMD Instinct GPU上でのText-to-image学習提出はこれが初めてだと主張している。
各社の戦略の違いが浮き彫りに
今回のv6.0ラウンドで明らかになったのは、単純な「最速記録」の争いだけではなく、各社が異なる訴求点を打ち出している点だ。CoreWeaveは商用環境そのままでの計測という「再現性」を、NVIDIAはソフトウェア更新による継続的な性能改善という「進化速度」を、AMDとOracleは新規ワークロードへの初挑戦という「対応範囲の拡大」を、それぞれ前面に押し出した。DeepSeek-V3のような数百億パラメータ規模のMoEモデルが業界共通のベンチマークになったことで、単体GPU性能よりもクラスタ全体のスケーリング効率や、ソフトウェアスタックの最適化能力が競争の焦点として重視される傾向が強まっている。
MLCommonsが今回2種類の新ベンチマークを追加したことも、AIワークロードの急速な変化を反映している。エージェント型AIやマルチモーダル生成モデルへの需要拡大を受け、今後のラウンドでも測定対象モデルの入れ替えが続くと見られ、ベンダー間の比較軸そのものが年々変化していく構図が続きそうだ。




