MLCommonsがMLPerf Training v6.0を発表——提出の多様化が加速
非営利団体MLCommonsは2026年6月16日、AI学習性能を測る標準ベンチマーク「MLPerf Training v6.0」の結果を公開した。今回は新規ベンチマークが2種追加され、MLCommonsの公式発表によれば、提出企業の裾野が急速に広がり、AIエコシステムの変化を反映する内容となった。MLPerfは2018年の発足以来、業界横断の中立的な性能比較基準として機能してきたが、今回のラウンドでは従来はNVIDIA陣営が独占していた構図に、AMD Instinctを採用するクラウド事業者や、専用サーバーメーカーの参入が目立つ。ベンチマーク項目の拡充自体も、生成AIモデルの多様化——LLMだけでなく画像生成や推論特化モデルまで——を反映した動きであり、単なる性能競争の記録以上に、AIインフラ市場の構造変化を可視化する資料となっている。
NVIDIA Blackwellの独走——GB300 NVL72が推論・学習で新記録
今回のラウンドで最も注目された成果は、クラウド事業者CoreWeaveによるものだ。CoreWeaveの技術白書によると、8,192基のNVIDIA GB300 NVL72 GPUを用いてDeepSeek-V3(671Bパラメータ)を、ベンチマークの品質目標到達までわずか2.02分で学習させ、v6.0ラウンド全体で最速の結果を記録した。同社はこの結果を、大規模GPUクラスタの相互接続効率とスケジューリング最適化の成果と位置づけている。
推論性能でもNVIDIAは記録を更新している。NVIDIAの技術ブログによれば、GB300 NVL72によるDeepSeek-R1推論性能は2025年8月から2026年2月までの半年間で2.7倍に向上し、288基のBlackwell Ultra GPUを用いて毎秒250万トークンという記録を達成した。学習面でも別のNVIDIA公式レポートは、DeepSeek-V3のようなMoEモデルに対し、トークンドロップレスMoE向けのフルイテレーションCUDAグラフなど最新のソフトウェア最適化を投入したことで性能を引き出したと説明している。半年で2.7倍という伸びは、ハードウェア世代交代だけでなく、ソフトウェアスタックの継続的な改善が推論コスト削減に直結していることを示す数値でもある。
CoreWeave・ASUSも上位に——多様化するベンダー競争
ハードウェアメーカー側の存在感も増している。台湾のASUSは2026年6月23日、自社のAIサーバー「XA NB3I-E12」(NVIDIA HGX B300搭載)が、Llama 3.1-8Bのサーバー・オフライン両モードおよびGPT-OSS-120Bのインタラクティブモードで首位を獲得したと発表した。同社はMLCommonsへの継続参加を通じ、透明性の高いベンチマークとAI展開の高速化を進める姿勢を示している。クラウド事業者Nebiusも、NVIDIA HGX B300とGB300 NVL72の両システムでLlama3.1-8BやGPT-OSS-20bの結果を提出し、Blackwell Ultra世代の競争力を裏付けた。こうした複数ベンダーによる同一モデル・同一条件での結果提出は、企業側が調達時にスループットとコストを直接比較できる材料を増やしており、単一ベンダー依存からの脱却を検討する動きとも整合する。
AMD Instinctで初参入のOracle——マルチベンダー化の布石
今回のラウンドで技術的に注目すべきは、Oracle Cloud InfrastructureがAMD Instinct MI300X GPUを用いて初めて画像生成系ベンチマーク「FLUX.1」に参入したことだ。Oracleの公式ブログによれば、OCIのBM.GPU.MI300X.8システム64ノード・512基のGPUを用いた学習は74.436分で完了し、MLCommonsが2026年6月16日時点で公開済みの全ラウンドを確認した結果、AMD Instinct上でのテキスト画像生成学習提出としては初の事例だったと説明されている。この結果はMLCommonsの標準的な収束点(RCP)正規化を経て検証済みだ。Oracle自身は、この提出を「予測可能な大規模AI学習」という自社戦略の実証と位置づけており、NVIDIA一強だったAI基盤市場にAMD Instinctという選択肢を公式に持ち込んだ意味は小さくない。
業界への影響
今回の結果が示すのは、NVIDIA Blackwell世代が推論・学習の両面で依然トップの性能を維持しつつも、CoreWeaveやASUS、Nebiusといったクラウド・ハードウェア各社が独自の最適化で差を詰めている構図だ。加えてOracleのAMD Instinct参入は、AI基盤のマルチベンダー化とソブリンAI基盤構築の選択肢拡大を後押しする材料となる。企業のAIインフラ担当者にとって、MLPerfの公開データはベンダーロックインを避けた調達戦略を組む上で重要な比較軸になりつつある。今後のラウンドでは、AMD陣営のさらなる提出増加や、推論コストを重視した新ベンチマークの追加も予想され、AI基盤選定の判断材料はより多層的になっていくとみられる。

