MCPが「チャット向け規格」から「エージェント通信基盤」へ
Linux Foundation傘下でModel Context Protocol(MCP)の仕様策定を担うAgentic AI Foundation(AAIF)が、MCPの今後の進化方向を示す新たなロードマップを公開した。Publickeyの報道によれば、MCP登場当初はAIがチャットで質問し回答を得るという利用形態が中心だったが、AIがエージェント化しバックグラウンドで長時間タスクを処理し続ける使い方が急増したことが、今回のロードマップ策定の背景にある。
優先事項の一つが「サーバー主導イベント(server-initiated events)」の実現だ。サーバーがストリーミングで結果をプッシュしたり、クライアントがポーリングせずにサーバー発のイベントを取得できるようにする仕組みで、Agentsワークグループ、Transportsワークグループ、Triggers&Eventsワークグループが連携してメッセージング構成の見直しを進める。
HTTP通信への統一、2026-07-28仕様で実現
もう一つの柱が「HTTP-native transport unification and hardening」だ。MCPはこれまでWebSocket、stdio、ローカル接続などが混在していたが、最新の2026-07-28仕様でリモートMCPサーバーもHTTP経由での接続が可能になった。通信方式の乱立を解消し、企業システムへの組み込みを容易にする狙いがある。
あわせて、2026年7月にはエンタープライズ向けにアクセスを一括管理できる「Enterprise-Managed Authorization(EMA)extension」が安定版として提供開始され、ステートレスな接続への移行によりスケーラビリティも大きく改善された。AAIFはさらに、MCPのSDKを多くの人間だけでなくAI自身も利用し始めている現状を踏まえ、APIの直感性やドキュメントの正確性向上にも取り組む方針を示している。
GoogleのA2AがAAIFに移管、MCPと同じ財団管理下へ
この標準化の流れを象徴するのが、GoogleのAIエージェント間通信規格「A2A(Agent2Agent Protocol)」の移管だ。2026年8月17日(米国時間)の報道によれば、A2AはAAIFに移管され、MCPと同じ財団の管理下で開発が進むことになった。MCPが主にAIとツール・データソースの接続(垂直方向の通信)を扱うのに対し、A2Aはエージェント同士の連携(水平方向の通信)を担う規格として位置づけられており、両者が同一財団のもとで整合的に発展することで、multi-agent systemやagentic mesh的な構成を組む際の相互運用性向上が期待される。
周辺企業もMCP対応を本格化、セキュリティ課題も併存
標準化の進展は実装側にも波及している。ビジネスデータプラットフォーム企業のKooConは2026年7月から、APIを超えてMCPベースのAIエージェント専用データハブ事業を本格化させたとBigGo ファイナンスが報じている。またBroadcomは2026年8月31日、VMware Explore 2026においてエージェント型AI向けのエンドツーエンドのセキュリティ、アイデンティティ、オブザーバビリティ機能を発表しており、企業がAIエージェントを本番環境に投入する際のインフラ整備が急速に進んでいることがうかがえる。
一方で、IPAが公開した「AIセキュリティ短信2026年8月号」(対象期間2026年6月8日〜8月10日)は、AIに係る安全性確保やAIを悪用したサイバー攻撃への対処を継続的な観点として挙げており、MCPサーバーの普及に伴うtool poisoningやrug pull型の攻撃リスクへの警戒も、標準化と並行して業界全体の課題であり続けている。エージェント間通信の標準が整備されるほど、その接続点をどう守るかという課題は重みを増していくと見られる。
業界への影響
MCPとA2AがAAIFという単一の統治構造のもとで足並みを揃え始めたことは、ベンダーごとに乱立しがちだったエージェント通信規格の分断リスクを緩和する動きといえる。HTTP-nativeな通信への統一とEMA extensionによる認証基盤の整備は、企業がagentic workflowやcontext engineeringを実装する際の技術的な障壁を下げるものであり、今後はMCP準拠のサーバー実装やA2A対応のエージェント連携基盤を前提としたシステム設計が、インフラ選定の標準的な検討項目になっていくとみられる。