MCPは『標準』になったが、それはツール接続層に限られる
Anthropicが2024年11月に公開したモデル・コンテキスト・プロトコル(MCP)は、AIモデルが外部のAPIやデータベース、ファイルシステムなどに接続するための標準化レイヤーとして急速に普及した。AWSの解説によれば、MCPはクライアント・サーバーアーキテクチャを採用し、開発者は軽量なMCPサーバーを通じてデータを公開するだけで、サーバー側の更新があってもエージェント側のコードを変更せずに新機能へアクセスできる。Amazon Bedrock AgentsではAWS Cost ExplorerやSlack、GitHub、Comet MLのOpikなど複数のMCPサーバーと接続する実装例が既に公開されている。
ただしIBMの解説が強調するのは、MCPが担うのはあくまで「モデルと外部ツールの接続」であり、「エージェント同士の協調」は2025年4月にGoogleが導入したAgent2Agent(A2A)プロトコルの領域だという点だ。例えば在庫管理エージェントがMCP経由でデータベースを参照し、在庫不足を検知すると社内発注エージェントに通知、発注エージェントがA2Aで外部サプライヤーのエージェントと交渉する、という役割分担が想定されている。
6種のプロトコルが並立、Googleは2026年3月に新標準を発表
役割分担は増える一方だ。IT媒体ITmedia(atmarkit)によれば、Googleは2026年3月18日、AIエージェント開発における主要プロトコルとして、MCP、A2A、UCP(Universal Commerce Protocol)、AP2(Agent Payments Protocol)、A2UI(Agent-to-User Interface Protocol)、AG-UI(Agent-User Interaction Protocol)の計6種を整理して紹介した。飲食店の仕入れ・在庫管理エージェントのような複雑なサプライチェーンでは、MCPがデータベース接続を担い、A2Aがエージェント間通信を担うといった多層構造が既に実務レベルで組まれ始めている。A2Aでは各エージェントが「/.well-known/agent-card.json」という固定URLでエージェントカード(名前、機能、エンドポイント情報)を公開する仕組みが導入され、新しいエージェント追加時もURL一つで連携が完結する設計になっている。
データハブ化の動き――KooConはMCPを事業戦略の中核に
MCPは単なる技術仕様を超え、事業戦略の軸にもなり始めた。ビジネスデータプラットフォーム企業KooConは2026年6月15日、金融・公共・物流・通信データをMCP形式で提供する「AIエージェント専用データハブ」戦略を発表した。7月に自社プラットフォーム上でMCP商品を約30種公開し、年内に100種、2027年までに全商品をMCP化する計画だ。同社はLinux Foundation傘下のAgentic AI Foundation(AAIF)にも加盟し、Anthropic、OpenAI、Google、Microsoft、Stripeなど約180社が参加するMCPワーキンググループへの参画も予定している。これはMCPが単なる接続規格を超え、データ流通・決済まで含む収益モデルの基盤として認識され始めている証左と言える。
セキュリティは後追い――Netskopeが12月に新機能
普及が先行する一方、防御は追いついていない。Netskopeは2025年12月1日、MCP通信向けの新セキュリティ機能を発表した。組織内のMCPサーバー・クライアントを名前・ID・URL・バージョン・ホスト・データソースなどの属性とともにリアルタイムで特定し、Cloud Confidence Indexによるリスクスコアリング、コンテキストベースのアクセス制御、セッションやツールのリクエスト・レスポンスに関するイベントログ記録などを提供する。同社の最高製品責任者ジョン・マーティン氏は「MCPは従来のツールでは対処できない新たなセキュリティリスクも生み出している」と述べており、機能はプレビュー提供中で2026年前半の正式提供が予定されている。
ガートナー調査「着手点が分からない」58.5%
体制面の遅れも顕著だ。日経クロステックが報じたガートナーの2026年2月調査では、国内企業の58.5%が「AIエージェントのセキュリティについてどこから着手すべきか分からない」、59.3%が「活用の議論が先行しセキュリティが後手に回っている」と回答した(重複回答含む)。ガートナーはMCPやA2Aといった通信プロトコル自体にはセキュリティに関する取り決めが含まれておらず、認証やアクセス制御は別レイヤーで実装する必要があると指摘する。CIO誌もIBMのACPがJSON-RPCより単純な標準HTTPパターンで通信する設計を採用した点を紹介しつつ、MCP・ACP・A2Aはいずれも「モデル中心のMCP」を補完する関係にあると整理している。しかしエージェント開発が事業部門主導で“民主化”する一方、セキュリティ体制はIT部門中心の中央集権型のまま変わっておらず、このギャップが実運用リスクを広げている。


