9月29日、Donald Trump/ドナルド・トランプ大統領がホワイトハウスで、AI 企業と『超知能に関するホワイトハウス協定』に署名した。定めているのは、内部統制、社内の検証チーム、外部の評価者、取締役会の独立委員会という4層の仕組みを自主的に整えることだけである。罰則も期限も法的拘束力もない。翌30日には、連邦取引委員会(FTC)が OpenAI と Anthropic を含むフロンティアラボを広く調べていると報じられた。上院でも Josh Hawley/ジョシュ・ホーリー議員の小委員会が『暴走 AI』公聴会を開いたが、OpenAI は出席しなかった。政権は『自分たちで取り締まる』と言い、一方で規制当局と議会は、既存の法と法的責任で企業を縛る方向に動いている。今週の対立は、規制するかしないかではない。誓約と執行のどちらを制度の中心に置くかが問われている。
モデルの面では大きな公開がなかった。OpenAI の停止と GPT-6.1 Astra の取りやめにも進展はない。市場を動かしたのは AI ではなく、長期金利とインフレ指標だった。
政策:誓約には宿題が付き、執行も動き出した
協定の文書は、トランプが Truth Social に1枚の画像で投稿したと報じられている(投稿そのものは未取得)。監査人は企業が自分で選び、結果を公表する義務もない。署名が確認できたのは Dario Amodei/ダリオ・アモデイ、Greg Brockman/グレッグ・ブロックマン、Zuckerberg、Pichai、Jensen Huang/ジェンスン・フアン、Musk の6人である。署名した組織の数は、Al Jazeera/アルジャジーラが6社、Euronews/ユーロニュースが31と伝えており、食い違いは解けていない。同じ日には大統領令『Inaugurating the Era of Super Intelligence』も出た(whitehouse.gov、一次情報)。規制の条文は含まないが、科学技術政策局(OSTP)に60日以内(11月28日ごろ)に立法の文案を出すよう求めている。自主規制の路線に、立法の検討という宿題が付いた形である。詳細はトランプと AI 6社が『超知能協定』に署名で報じた。
FTC の調査は、Andrew Ferguson/アンドリュー・ファーガソン委員長のもとで今年の夏に始まったと報じられている。数週間のうちに民事調査要求(CID)が出る見込みとされ、法的な根拠は、FTC 法の不公正または欺瞞的な行為と、データ保護の不備だという。FTC の当局者は『やめろとは言っていない。いまは調査の段階だ』と述べた。CNBC は、この調査が『既存の法で足りる』という政権の立場を補強しうると書いている。Ferguson は29日の昼食会にも同席していた。つまり、協定と調査は政権の内部で矛盾していない。政権は、誓約を前面に出し、執行を後ろに控えさせる二本立てを取れる位置にある。この論点は誓約か、執行かで詳しく書いた。
30日の公聴会には、METR の Painter、Apollo Research の Hobbhahn、AI Futures Project の Daniel Kokotajlo/ダニエル・ココタイロらが証言に立った。OpenAI は出席せず、書面で答えるとした。Hawley は『残念だ』と述べている。Anthropic も参加しなかったと伝える報道がある。証言の中身は、窓内では確認できていない。Hawley は、エージェントを無謀に設計・展開した者に民事と刑事の責任を課す法案を出したとも報じられているが、法案番号は出ておらず、確度は中程度である。10月5日のニューヨーク市議会の公聴会には、Anthropic、OpenAI、Google、Meta が代表者を出すことに同意したと報じられている。召喚状を受けた SpaceXAI は、まだ応じていない。
Thune、Klobuchar、Cruz による破滅的リスクの法案は、まだ公開されていない。Cruz は、Warner が求めた AI 安全委員会の法案の全会一致の同意に異議を唱えた。Anthropic と国防総省の訴訟では、Holland & Knight の解説によれば、控訴裁の判決の効力が7日間止められており、再審理を申し立てる期限は10月2日ごろである。10月1日の時点で、申し立てが出たという報道はない。NVIDIA と AMD が、国防授権法に対中チップ規制を入れさせないよう働きかけていると Politico が報じたが、出典から2段階離れた引用で、確度は低い。
思想・議論:協定は前進か、自己採点か
協定への評価ははっきり割れた。Zvi Mowshowitz/ズヴィ・モウショウィッツは9月30日、協定を意味のある前進として使えると書いた。ただし、ラボが『定期的に集まって標準を決める』という条項は、実質的に反トラスト法の適用除外に近いという見立ても添えている。試金石は、OpenAI が州の破滅的リスク法を封じる連邦の先取り法案を支持するかどうかだという。反対側の Gary Marcus/ゲイリー・マーカスは29日、協定は外部の監督を避け、説明責任なしに信頼を求める取り決めだと批判した。『独立した』とされる評価者も、既存の下請けかもしれないと指摘している。Transformer の Jasper Jackson/ジャスパー・ジャクソンは、公開の判断を民間に任せず、政府に公開前の審査権限を持たせるべきだと論じた。政権寄りでは、元 AI 担当の David Sacks/デイヴィッド・サックスが『国際合意よりずっと良い』と評価した。これに対し Toby Walsh/トビー・ウォルシュは『自分で採点する兆ドル規模の産業がほかにあるか』と皮肉った。いずれも、相手を名指しした応酬ではない。
Marcus の聞き取りに答えた Zephyr Teachout/ゼファー・ティーチアウトは、さらに一歩進めた。コンピュータ不正使用防止法(CFAA)や、『異常に危険な活動』に対する不法行為法の責任を使えば、今ある法で裁ける、という主張である。Marcus は NYT の報道を引き、OpenAI の社員2人が事前に幹部へ警告していたとも書いた。
Anthropic の目論見書の草案が漏れた件は、二通りに読まれている。Reuters と FT によれば、約261ページのうち約80ページがリスクの記述で、『停止に抵抗しうる』『欺く』といった表現がある。安全性を重視する陣営には、これが論拠の材料になる。一方、バブル論の側は同じ記述を売り込みの文句と読んだ。Ed Zitron/エド・ジトロンは、両社は上場させるべきではないと書いている。Anthropic の経済性を擁護する名の通った論者は、窓内には見つからなかった。
研究・モデル:大きな公開はなし
Anthropic の経済チームは、ロボットによる曝露度の指標を公表した(一次情報)。現在のロボットは米国の身体的な作業の74%をこなせるが、費用の面で人間と競争できるのは0.3%にすぎない。『AI がすべての仕事を奪う』という枠組みに、Anthropic 自身のデータで歯止めをかける内容である。詳細はロボットは身体作業の74%をこなせるが、費用で人間に勝てるのは0.3%で報じた。第三者の評価では、Artificial Analysis の比較ページで、Sonnet 5.5 が同じ努力量の各段階で GPT-6.1 Sol を上回った(検索の抜粋による二次情報)。詳細は同じ2ドル/10ドルでも差は出たで書いた。LMArena と Epoch の評価は、まだ出ていない。
OpenAI は、取りやめた GPT-6.1 Astra とは別に『追加の Astra モデルは近く出る』と述べたと The Register が伝えた。改めた公開時期はどこにも出ていない。中国では、Moonshot/ムーンショットの API の登録情報に『Kimi K3.1』の識別子が見つかったとされる(リーク)。Anthropic の GLM-5.3 報告に対しては、Z.ai の幹部が X で、同社のモデルは企業のサイバー防御に広く使われていると述べた。正式な反論ではない。前回の訂正として、DeepSeek の V4.1 Pro は10月1日の時点でまだ出ていない。
産業・市場:動かしたのは AI ではなく金利
前回の訂正から入る。9月29日の米国市場は『一部を戻した』のではなく、小幅に下げて引けた。S&P500 は-0.2%、10年債利回りは5.25%で、2002年以来の高さだった。30日は、8月の PCE の総合が前年比3.4%(予想3.7%)、コアが3.0%(予想3.3%)と軟らかく出た(CNBC、二次情報)。ナスダックは+0.83%上げている。10月の FOMC での利上げ確率は約35%まで下がったとされるが、FXStreet の二次情報なので、CME での確認が要る。Micron/マイクロンの決算(30日の引け後)は、窓内に結果が確認できなかった。確認できたのは会社予想(売上500億ドル±10億ドル、一次情報)までなので、結果の数字は書かない。
OpenAI が、評価額約1.4兆ドル(プレマネー)で300億ドル超を調達する交渉をしていると、Bloomberg が報じた。OpenAI は確認していない。SoftBank/ソフトバンクの株価はこの報道で約7%上げた。同社の最後の100億ドルの払い込みは10月1日の予定だが、確認はまだ取れていない。詳細はOpenAI、評価額1.4兆ドルで300億ドル超を調達へと報道で書いた。AI インフラの Accelevation(ACCV)は、仮条件の20〜24ドルを下回る18ドルで値決めされ、初日も下げた。データセンターへの地元の反対は続いている。ニューヨーク州 Buffalo/バッファローの市議会は、2年間の新設停止を求める決議を修正のうえ採択した。条例は次回の会議で扱うので、まだ確定していない。Nebius/ネビウスの GPU の値上げは、9月17日に顧客へ知らされていたもので、10月1日は実施日にあたる(前回の訂正)。
動きがなかったところ
今回いちばん大きい沈黙は、安全性の陣営にある。協定という大きな出来事に対し、Yudkowsky、Soares、Bengio、Hinton、Russell、Tegmark からの反応は見つからなかった。倫理批判の陣営(Bender、Gebru、Whittaker ら)も同じである。ただし X、Bluesky、Mastodon は読めていないので、沈黙を確かめたわけではない。Import AI の475号と、Zvi の AI #188 もまだ出ていない。企業の側では、OpenAI の停止の解除、GPT-6 Cyber、Anthropic の公開の S-1、Meta の新モデル、xAI の公式な発表のいずれにも進展がない。政策では、カリフォルニアの SB 1000、SB 947、AB 1883 の9月30日の期限の結果が確認できていない。Maven の正式プログラム化の発表も、フロリダ州の仮差し止めの審理の日程も出ていない。NVIDIA、TSMC、ASML にも新しい発表はない。防衛では海軍が F/A-XX に Boeing を選んだが、AI に直接かかわる大きな契約はなかった。




