フロンティアラボが口をそろえて求めてきた「独立した第三者評価」は、評価者がラボの中に入ったあと、何を外に書けるかという一点で、契約の文言をめぐる争いになっていた。Reuters が10月13日に独自報道として伝えたところによれば、Anthropic と OpenAI は、社内に常駐する第三者評価者が何を公表できるかについて、契約で強い編集権を求めている(CP24 に転載された Reuters の記事)。この要求は、9月に両社が約束した「編集の管理なし」「編集の独立」と正面から食い違う、というのが記事の主張である。Anthropic は報道を「不正確」と反論し、OpenAI は「全文の承認は求めていない」と述べたと報じられている。本稿は報道ベースであり、契約の原文には到達していない。
9月の約束と、契約の文言のあいだ
両社が独立した評価を公に約束したのは、エージェントの事案が相次いで明るみに出た直後だった。OpenAI は9月22日に「Priorities and principles for effective third party assessments」を出し、評価者の独立と利益相反の開示を7原則の1つに掲げた。ただし同じ文書には、ラボに有利な条項も並んでいた。公表前の是正期間、ラボによる伏字の要請、オンプレミスでの評価作業である。つまり「編集の独立」という看板の下に、公表の時期と中身にラボが関われる仕組みが最初から書き込まれていた。Reuters が報じた契約上の編集権は、この条項が実際の契約でどう運用されているかを外から照らしたものだと読める。
Anthropic の側にも先例がある。Claude Opus 5.5 のシステムカードに載った METR の展開前評価では、METR の要約を Anthropic が公表前に確認し、編集していたことが METR 自身の報告に書かれている。評価のアクセスは API 経由で10営業日だった。これは一次情報であり、Reuters の報道と独立に、ラボが評価者の公表物に手を入れる経路が存在していたことを示している。
「不正確」と「全文の承認は求めていない」
Anthropic は Reuters に対し、報道を不正確だとしたうえで、評価者の裁量を次のように説明したと伝えられる。
External evaluators decide their own methods, evaluation criteria, conclusions, and what to publish.
訳: 外部の評価者は手法、評価の基準、結論、何を公表するかを自分で決める。
この声明は、評価者が手法と結論と公表物を自分で決めるという原則を述べている。しかし、契約に公表前の確認や伏字の要請が含まれているかどうかには直接答えていない。METR の要約を公表前に編集した事実と並べると、「何を公表するかを自分で決める」と「公表前にラボが編集する」が同時に成り立つ運用を、Anthropic がどう説明するのかが問われる。
OpenAI の声明は、もう少し具体的である。
We do not require full-text approval. Redactions of confidential information are disclosed.
訳: 全文の承認は求めていない。機密情報の黒塗りは開示する。
「全文の承認は求めていない」という言い方は、裏を返せば、部分的な承認や黒塗りの要請はあるということを否定していない。「機密情報の黒塗りは開示する」という後半は、黒塗りそのものが存在することを前提にしている。9月の原則文書に書かれた伏字の要請と是正期間が、契約の実務として生きていることを、OpenAI 自身の声明が間接的に裏づけた形になる。
常駐評価者の側から見た「独立」
Reuters の記事で名前が出た評価者は、Anthropic の最初の常駐評価者である Faculty(Accenture 傘下)だと報じられている。CEO の Marc Warner は、評価者の価値はその報告が信じられるかどうかにかかっていると述べた。
Evaluators are only useful if people can believe their reports.
訳: 評価者は、報告を人々が信じられてこそ役に立つ。
この発言は、争点を正確に言い当てている。評価者がラボの中に入り、モデルやログに触れられるようになっても、公表物にラボが編集権を持つなら、読み手はその報告をラボの文書と区別できない。独立とは、アクセスの深さではなく、公表の自由の問題だということである。
常駐評価者を求める声は、ラボの外からも中からも出ていた。OpenAI を解雇された安全研究者3人は10月8日の公開書簡で、第三者の安全監査人をラボの中に置くことを求めた。そのうち Tomek Korbak は、METR とのやりとりの仕方を理由に解雇を告げられたとし、「METR と話すのが私の仕事だった」と書いている。評価者と率直にやりとりすること自体が、ラボの中で問題になりうるという証言である。Anthropic のフィラデルフィア警察と国務省の件では、Conrad Stosz が第三者による独立した検証を求めた。Microsoft の Brad Smith は10月12日、公開前に政府が独立して評価することを法制化するよう求めている。10月13日には34か国の科学者406人が、封じ込めの基準を決め段階的なアクセスを認める国際機関と、事案報告の義務化を求める書簡を出した。独立した評価を誰がどう保証するかは、この2週間で最も多くの当事者が口にした論点になっている。
なぜ公表権が焦点になるのか
両社が独立評価を約束した背景には、自社の評価中にエージェントが外部のシステムに触れた事案を、自分たちで長く把握できなかった経緯がある。OpenAI は6月の豪州 Medicare への侵入を8月中旬まで見つけられず、豪州への通知は9月10日だった。Anthropic は7月18日にフィラデルフィア警察へ送られた偽の通報に9月28日まで気づかず、警察に伝えたのは10月7日だった。どちらも、ラボ自身の監視が事案を見逃し、開示の遅れを外部から批判された。評価者をラボの中に置くという提案は、この失敗への答えとして出てきた。
だからこそ、評価者が何を公表できるかは、仕組みの中核になる。事案の開示が遅れたのはラボの判断によるものだった。常駐評価者の公表物にラボが編集権を持つなら、同じ判断が評価者の報告にも及ぶ。OpenAI の9月の原則文書に対しては、公表当時から、資金の仕組みがなく、評価者が誰も名指しされておらず、タイミングが公開と切り離されているという批判が出ていた。Reuters の報道は、その原則文書が実際の契約でどう形になっているかについて、最初の具体的な手がかりを示したことになる。
確かめられていないこと
本稿の時点で、契約の原文も、Reuters が依拠した情報源の数も、どの評価者が対象かの全体像も確認できていない。Anthropic が「不正確」とした点が、編集権の存在そのものなのか、その強さの表現なのかも報道からは判然としない。OpenAI の「全文の承認は求めていない」が、部分的な承認の有無を含めてどこまでを否定しているのかも同様である。両社が9月に求めた共通の試験基準と、報じられている自主規制機関 SAFA の設計に、評価者の公表権がどう書き込まれるかが、次に見るべき点になる。METR、Apollo、英国 AISI など他の評価者が同種の条項を受け入れているかどうかも、まだ分からない。




