評価額急騰の軌跡——14カ月で15倍超
Anthropicの評価額は異例の速度で切り上がってきた。2025年3月に615億ドル(約9.7兆円)だった評価額は、同年9月に1830億ドル(約28.7兆円)、2026年2月には300億ドル(約4.7兆円)を調達し3800億ドル(約59.7兆円)に達した。そのわずか3カ月後の2026年5月、AnthropicはシリーズHラウンドで650億ドルを調達し、評価額は9650億ドル(約153.8兆円)へと跳ね上がった。ITmediaによれば、これは3カ月で2.5倍という上昇率であり、未上場企業として初めてOpenAI(3月時点評価額8520億ドル)を上回った。TradingKeyも同様に、資金調達ラウンドが650億ドルに達したことで評価額がOpenAIを上回ったと報じている。2021年設立からわずか5年で世界最大級の未上場企業の一角に躍り出た成長速度は、過去のテック企業の資金調達史でも類例が乏しい。
ARR急伸が支える強気の評価
この評価額を支えるのは売上高の伸びだ。Forbes JAPANによると、Anthropicの年間換算売上高は2024年12月の10億ドルから2026年3月末には300億ドルへと成長し、3年連続で10倍超の伸びを記録した。フォーチュン10のうち8社が顧客となり、年間100万ドル以上を支出するエンタープライズアカウントは1000社を超えた。2025年5月に投入したエージェント型コーディング製品Claude Codeは、2026年2月時点で年換算売上高25億ドルに達し、法人向けサブスクリプションは6週間で4倍に伸びた。5月にはARRが470億ドルを超えたと発表され、前年通期売上高の約100億ドルから急拡大している。米Motley Foolの記事はさらに直近四半期の売上高が116億ドルへと倍増し、小幅ながら営業黒字を計上したと伝えており、赤字が続くAI企業の中では異例の水準だとしている。
OpenAIとの逆転——二次市場とシェアの構造変化
PANewsの報道では、コード生成AI市場でClaudeは42〜54%のシェアを占め、OpenAIの21%を上回る。エンタープライズエージェント市場でもAnthropicが40%、OpenAIが27%とされる。二次市場評価額でもAnthropicが約8636億ドルとOpenAIの約8461億ドルを一時上回った。一方でOpenAIは1220億ドルの資金調達をAmazon(500億ドル)とNvidia(300億ドル)から獲得しており、資金調達力自体は依然として強い。ゴールドマン・サックスはAnthropic投資家から15〜20%の利益分配金を徴収し続けている点も市場の温度差を示す。業界関係者の間では、開発者向けコーディングエージェント市場でAnthropicが先行したことが、企業のAIベンダー選定基準を「モデル性能」から「開発ワークフローへの統合度」へと移行させた要因との見方も出ている。
10月IPO観測、評価額2兆ドルの根拠と懐疑論
BigGoファイナンスによれば、Anthropicの既存株主6人が早ければ10月の上場を見込んでおり、投資家の間では評価額2兆ドル(約318.7兆円)超が試算されている。別のBigGoファイナンスの報道でも、上場時に史上最大級のIPOとなる可能性が指摘されている。この試算は2026年末までにARRが1000億〜1200億ドルに達し年初来10倍以上に拡大するとの予測が前提だが、IDCの推計は400億〜500億ドルにとどまり隔たりは大きい。Yahoo Finance掲載のMotley Fool記事は、OpenAIの6月期売上高が67億ドル(前四半期57億ドル)と伸びる一方で損失が拡大していると指摘し、両社ともに1兆ドル規模の評価額を正当化するには利益水準が乏しいと論じている。加えて2026年6月には米商務省がAnthropicの旗艦モデルに一時的な販売禁止措置を発動し、成長が一時鈍化した経緯もある。
未公開株デリバティブの流動性リスク
非公開株を裏付けるSolana上のトークンPreStocksは、Anthropic・OpenAI両社が譲渡無効を警告した後に週間で34〜39%下落した。CoinDeskによれば、両社はSPV(特別目的事業体)経由の株式譲渡について、公式に承認していない取引は無効になり得ると警告しており、未公開株投資を巡る流動性リスクが表面化した形だ。IPO前の期待先行で膨らんだデリバティブ市場が急速に萎むという展開は、過去のユニコーン企業の非公開株取引でもたびたび見られた現象であり、投資家保護の観点から規制当局の関心も高まりつつある。



